5 腎・生・検②
これまでのお話。
息子が乳児でなくなった頃から、体調不良に悩まされるようになった私。
病院で調べてもらい、紆余曲折ありながらも『IgA腎症』ではないかとの診立てが出た。
それをはっきりさせる為、私は『腎生検』という検査を受けることになる。
生まれて初めてかーちゃんと離れて暮らす幼児の息子と、その息子の面倒を看ることになった、普段は育児にあまり関わっていないお父さん。
二人の奮闘を案じつつ、病室で検査を待つ私は……。
お父さんと息子の、ささやかな奮闘の裏側(いや、こちらが表?w)で。
当然、検査を受けるかーちゃんも奮闘(気分的には)しています。
実は今回、事前に『入院中は安静にしている時間が長い → つまりヒマ』ということがわかっていましたので、開き直って、普段息子の相手をしていると落ち着いて読めない本をこの機会にじっくり読んでやろうと目論み、お気に入りの小説やエッセイを、ハードカバーを含めて四、五冊、持ってゆきました。
おかげで入院中退屈する暇はほとんどなかったのですけど……、正直、あまりちゃんと読書を楽しむことは出来ませんでした。
愚痴になりますが。
入院患者って見かけによらず、なんだか無駄?に忙しいんですよ~。
一日に数回、決まった時間に看護師さんが巡回に来るから落ち着かないし(もちろん看護師が巡回に来ない方が問題ですけど)、やれ体温を測るとか血圧を測るとか、食事はどの程度食べられたとかトイレの回数(便通はあったか?を含め)とか訊かれるのって、意外とストレスです。
もちろん、それらは医療従事者と患者にとって大切な情報だと理解していますよ、していますが。
看護師さんと顔を合わせる度にこういうことを訊かれるの、大きな声で言えませんが地味にストレスです。
少なくとも入院に慣れていない人間にとっては、そうではないかと思います。
お気に入りの物語世界にひたろうとしても、なんだか気分がそがれますし。
また、昨今はコロナのせいでどこの病院でも面会禁止(もしくは制限アリ)でしょうが、私が検査や治療のために入院した頃(十年ほど前)は、比較的面会しやすい環境でした。
お父さんに連れられ、息子も毎日一、二時間、顔を出してくれました。
それ自体は私にとって癒しでしたが、反面気も遣います。
息子は四歳の男児にしては大人しい子でしたが、やはり子供が来るとどうしても病室内がわさわさします。
カーテンで仕切られていますが、差額ベッド代のない大部屋(この時は四人部屋。今回は個室でなければならないほどの事情……大きな手術を受けるとか、入院期間が長いとかないので大部屋を勧められました)でしたので、相部屋の患者さんにもそれなりに気を遣います。
そして当然、面会に来るのはウチだけではありません。
お互い様ですから嫌だとは思いませんが、やはり落ち着かないものです。
若い患者さん(会話から、とある専門学校の生徒らしい娘さんでした)が隣のベッドだった時、学校の友人らしい少年少女が複数人来て、二時間も三時間もおしゃべりに興じていた時はさすがに、『あー、うるさい』と内心、思いましたね。
少年少女がたくさん来て、入院中の友人を励ましながら楽しくおしゃべり。
それをそばで見、若いっていいなあ的な感慨にふけるおばちゃんのほっこり感も、連日二時間三時間繰り広げられるとげんなりする。
心の狭い話ですがそういうものなのだという、(私の個人的な)新しい発見にもなりました(笑)。
この時は検査の後、ほぼ丸一日ベッドの周り以外動いてはならない状態だったので、余計ストレスがたまったのでしょう。
もっと身軽に動けたのなら、彼等が来たら『談話室』だの売店だのへ行けたんだろうなと、後から思いました。
閑話休題(というか、閑話だけしかしていませんね)。
腎生検の話に移りましょう。
ダンナと息子と別れ、いよいよ私は入院生活に突入。
あてがわれた?ベッドで荷物を整理し、寝間着に着替えます。
看護師さんから入院生活のイロハ的な説明やら担当医から検査についての説明やら、またほかの看護師さんから術前術後のスケジュールやらを、五月雨式(各々の医療スタッフが他の仕事をこなしながら説明の時間を作るので、患者サイドの感覚では五月雨式にポツポツ、スタッフが病室に来たり診察室に呼ばれたりする雰囲気です)に受けているうち、夕方になります。
余り味のしない夕食を食べつつ、軽く緊張していた私。
何故か?
以下、腎生検の注意事項を軽く書き出します。
翌日の午前中に検査があり、その際、下半身に麻酔(硬膜外麻酔)をする予定なので胃腸を空に近い状態にする必要があり、夕食以後は水分以外摂れない。
翌朝は8時以降、絶食絶水。
検査時間そのものは短いのですぐ済むが、生身の身体に針を打ち込み、腎臓の組織を取り出すので、最悪の場合は大出血するリスクがある。
(腎臓には当然、大量の血管が来ているので)
その際は輸血の可能性がある。
検査後丸一日はベッドで安静にしていなくてはならない(検査時の傷が何かの拍子に悪化して、出血するリスクがある)し、トイレもベッドわきのポータブルトイレを使用すること。
く・れ・ぐ・れも!
医師の許可が出るまでは、病室から出ないこと!
検査の内容と共にお医者から聞かされた、注意事項がやたらと怖かったものです。
まあ、医療スタッフ側は最悪の事態を想定して患者に因果を含める(?)のですから、これでいいのでしょうが。
やたらと脅されているような気がして、ビビりましたねえ。
こんなに大ごとなら腎生検しなきゃ良かった、と、軽く後悔したのが本音でした。