2話
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俺が天海凛に好意を気抱くようになったのは何となくだった。何か決定的な出来事があったわけでもない。
「えと、はじめまして。天海凛、といいます。」
「はじめまして。佐藤広次です。よろしく。」
「あ、はじめまして。倉山良直です。よろしくお願いします。」
はじめは、俺にとっては珍しく気が合う女性だなあ、ぐらいの認識だった。
「佐藤さんはなんで天文サークルに入ったとか、理由聞いていい、ですか?」
「あ、うん。というか、これから同じ活動するから、タメ口でいいよ。同じ学年だよね?」
「ん、わ、分かった!」
「うん、おっけ。あ、で理由はそこまでたいそうなものじゃないんだけど、昔から父親につれられて夜に星を見に行ったりしてて、だからかわからないけど夜空見るのが好きなんだよね。それで天文サークルでもう少し詳しく見てみるのもいいかなって」
「え、そうなんだ!私も昔両親と一緒によく天体観測とかしてたんだ!な、なんか似たもの同士だね」
「ははっ、ほんとだな」
初めて会った人と一つでも共通点が見つかれば仲良くなるまでに時間はかからなかった。
「それでね、宇宙のことに興味出てきたら、スターウォ○ズにもハマっちゃって!」
「あー、たしかに面白いよな。あ、でもそれならリョウの方が詳しいぞ」
「あ、そーなの?」
「ん、ま、まあね。グッズとかもほとんど買い揃えてるよ!」
「へえ!すごいなあ」
「それなら今度2人とも見に来る?…い、嫌なら無理しないでもいいよ?」
「なーに言ってんだよ。嫌なわけねーじゃん。今更って感じだろ」
「そーだよ!みんなで楽しもーよ!」
「あ、ありがとう!」
こうして3人で集まって話をすることが日常となっていた。その時間はとても心地よいものだった。そんなある日のこと、
「あ、あのさ」
「うん、どした、凛?」
「あ、あのねあのね、私たち、もう仲良し、だよね?」
「おう、そうだな?」
凛は急に変な質問をしてきた。
「えっとね、それでね。あ、あの、そろそろ2人の呼び方、もっとラフな感じで呼びたいなーって…。」
「あー、つまり下の名前で呼びたいってこと?」
コクコクっ、と凛は頷く。
「まあ、確かにそうだな。俺はいいけど、リョウは?」
「う、うん!僕もいいよ!」
その言葉に、凛は一気に顔を輝かせた。
「あ、ありがと!…じゃあ、これからは下の名前で呼ぶね!」
「おう!」
「じ、じゃあ、えっと、ひ、広次、くん」
きゅううぅぅ。……ん?え、なにこれ。胸が締め付けられる感じ。….え、なに、なんだ?なんも言い表せないんだが…。
「…広次くん?」
「ヒロちゃん?」
「はっ!」
びっくりした。なんだ今の、よく分かんないな。ま、まあこんなこともある、か?
「もー、ヒロちゃん、また変なこと考えてたの?」
「べ、別になんでもない!」
「変なの」
「う、うるさいわ!」
「「あははっ」」
2人して笑いやがって…。
「あ、あと、倉山くんも、えと、良直くん!」
「へ、あ、うん、よろしく…」
「なぁに、よろしくって(笑)」
…今度はなんだ、変にもやっとしたような?ああー、もう!なんも分かんねえ!
この頃からだろうか、凛のことをなんとなく変に意識することが多くなっていった。
俺に可愛らしい笑顔が向けられると嬉しくなった。他の男性やリョウに対して向けられた時はなにかもやっとした。リョウと凛との3人で話していても、凛のことばかり見てて、話が頭に入ってこないことが多々あった。かといって、俺が話さない中、リョウと凛で話していると、なぜか気に食わなかった。
こんなことが続けば自然と気づいてしまうものである。凛に感じているのは恋、他の男性やリョウにまで感じているのは嫉妬であると。
ここまで分かったのなら、もっとアタックしてもいいのではないかと思う者もいるだろう。
…できないのだ。できないのだ!(2回目)なぜなら初恋だからっ!!大学生にもなって初恋とか…、なんて引かないでほしい。いや、やっぱ引いてくれてもいいです。だって自分自身もちょっと引いてるから。ま、まあ、それはいいとして!つまり、初恋だからどうすればいいのか分からないのである。それに、好きだからといっても凛、リョウ、俺の3人の仲が変わるのも気が引けたため、自分の恋心に気づいても、なにも行動を起こさないままでいた。
そんなある日のこと、
「凛ちゃんってさ、なんか、その、いいよね」
「……はい?」
リョウが急にそんなことを言ってきた。
「いい、というのは?」
「あ、いや、なんていうか、女の子らしくて、可愛くて、一緒にいても楽しいし、その…」
嫌な予感がする。まさか、と思いながら、変に動悸がしながらも、聞く。
「えっと、それって、凛のことが、す、好きってこと、か?」
「………うん」
頭が、真っ白になる。
と、どうにかして思考を現実へともってくる。
「へ、へぇ〜…、そう、なのか」
「…うん」
まさか、親友と好きな人が同じになるだなんて思ってもみなかった。確かに、リョウは凛と話す時、妙に緊張していた気がしていたが、ま、明日が女性だしそんなもんか、なんて楽観的に思っていた。
…だめだ、親友であるリョウと対立するなんて絶対に嫌だ。けど、凛のことも…。様々な考えが出てくる。頭がこんがらがりそうだ。
いや、でも、リョウはまだ俺が凛のことが好きだと気づいていないはず。それなら、俺が諦めた方が穏便に…。
胸がズキリと痛む。
…仕方ないんだ、今までリョウに助けられた借りを返すためだと思えばいい。それで、いい……。
「ヒロちゃん…?」
急に黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、または体調が悪いのかと思ったのだろうか、リョウは心配そうに声をかけてきた。
「あ、ああ、すまんすまん!ちょっと考え事、してた」
「そ、そう?」
「おお!あ、凛のことは、俺にはなにもできないと思うけど、応援は、してるぞ!」
言ってしまった。
「あ、ありがとう!といっても、僕これが初恋だし、よく分かんないから、ゆっくりやっていこうかな」
「ああ、そう、だな…」
もう後戻りはできない。