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1話

 11月の中頃。

 とある大学の昼過ぎに、俺こと佐藤広次とその親友である倉山良直は食堂で他愛もない話をしながら過ごしていた。


「ねえ、ヒロちゃん」

「どした、リョウ?」


 「広次」の「広」、「良直」の「良」からそれぞれヒロ、リョウと呼んでいる。もう大学生だから、ちゃん付けはさすがに恥ずかしい…。


「一人称をさ、『僕』から『俺』に変えるタイミングって分からなくて、難しいよねぇ」

「ははっ、急にどーしたのさ」

「いや、周りの人達みんな『俺』って言ってるのに、僕だけ『僕』って言ってるからさぁ。ちょっと気になったというかなんというか」

「んん、まあ、確かに?」


 考えてみれば、確かにいつから「俺」呼びしてただろう。…思い出せないな。リョウが気になるのも分かる。そういえば、ついこの前実家に帰ったとき、小学5年生というかなり歳の離れた弟が自分のことを「俺」呼びしてて、ちょっとびびったなぁ。てか、俺が生まれてから8年後に弟つくるとか、両親はどれだけがんば……、おっとさすがにこれは考えたくないな…。


「ヒロちゃん?どした?」

「はっ!」


 いかんいかん、変なとこまでトリップしてしまった。


「いや、すまんすまん、ちょーっと考えごとしてた」

「ヒロちゃん、たまにそーゆーことあるからねぇ。変なの」

「変なのとはなんだ!変なのとは!」

「ごめんて。それよりそろそろサークルの方行こうよ。もうみんな集まってるかも」

「あ、もうそんな時間か。りょーかい」


 そうして、数少ない友達との会話を終え、俺たちはサークルの部室へと向かって行った。



 部室の扉の前まで来ると、いや、部室のかなり手前ら辺からも騒がしい声が聞こえてきた。俺たちの入っているサークルは、天文サークルであり、この大学だけかは知らないが、意外にも多くの人数が入っている。


「…すまんな、やっぱみんな集まってるっぽい」

「んーん、大丈夫だよー、ヒロちゃん」


 そして扉を開けると喧騒が一気に押し寄せてきた。


「…うるっせぇ」

「あはは…」


 あー、活動始まる前にもう疲れが出てきた。もう少し静かに騒がないのか…。言っといてなんだけど、静かに騒ぐってわけわからん(笑)

 とか、勝手に変なツッコミを脳内で繰り広げる中、


「あ!広次くんに良直くん!お疲れ様ー」


 すぐ横から可愛らしい声が聞こえてきた。


「あー、お疲れ様ー」

「お、おつかれ!」


 話かけてきたのは、このサークル内での2大美女と呼ばれている内の一人である、天海凛である。小柄な体格で、薄く茶色がかかったショートボブの髪、ぱっちりとした目で童顔であり、庇護欲をそそられる感じである。可愛すぎる。サークル内どころか、大学内でもトップクラスだと思う。


「リョウー、なーにどもってんのー?」

「な、なんでもないよ…」

「良直くーん、なーにどもってるのー?」

「な、なんでもないよ!」

「あはは、変なのー」


 凛と俺は二人で良直のことをちょっとだけ揶揄い、楽しい時間を過ごす。俺たち3人は、このサークルにほぼ同じタイミングで入り、ちょっと話をしたらすぐに意気投合して、かなり仲がいい。毎日のようにこんなふうに話をしている。


「あれ、というか、広次くん、いつもはしてないイヤリングしてる!」

「あー、これ、なんかかっこいいかなーとか思ってつけてみた。穴開けないタイプのやつ。けど、あんま似合ってない気がする」

「んーん、似合ってる!か、カッコいいよ!」

「んお、…おー、ありがとう」


 やばい、すっげー嬉しい。つけてきてよかった!とか思いつつも、良直のことについてはかなりヒヤヒヤしていた。

 そうして話をしていると、


「おーい、そろそろ静かにしようか」


 と、部長の号令がかかった。内心穏やかでなかったため、正直今回は助かった。

 部長の号令で、ついさっきの喧騒はどこへやら、嘘のように静まった。部員のみんなは、うるさいけど、言うことはしっかり聞くし、悪い奴らではないんだよな。ただ、もうちょい静かにしてほしいかなー?

 

「それじゃあ、始めようか。よし、なら早速、今日は運良く晴れなんでね、野外での天体観測を予定通り実施しようと思います」

「「「ぃよっしゃああ!!」」」


 部員みんなが一斉に歓声を上げた。うるさい(笑)とか言う自分も、


「…よっしゃ」


 多分に漏れず、嬉しかった。やっぱり夜の野外でみんなで集まるっていうのは、なんかテンション上がるものだ。修学旅行の夜に友達と一緒に同じ部屋で過ごすみたいな。


「こらこら、嬉しいのは分かるが少し落ち着けー。…よし、それじゃまず集合時間は早めの11時、場所は大学横の河川敷、あー、ここからも見えるあそこな。許可もらってるからそこ集合で。観測道具とかはこの後準備してくれ。」

「せんせー、お菓子は何円分までなら持って行っていいですかー?あ、あとお酒もー」

「じゃー500円までなー。お酒なら、まあ、周りに迷惑かけないぐらいなら。あと先生じゃないぞー」

「いや、500円とか少なすぎ笑笑」

「お前最近金欠だっつってたろ」

「あー!忘れてた!」


 部長とモブくん(名前忘れた、すまん)との和気藹々としたやりとりに周りのみんなも笑う。こういうところはほんといいサークルなんだよな。ありがたいねぇ。


「よーし、そこの金欠くんの他に質問ある人はいるかー。」

「金欠てやめてくださいよー」

「はいはい、すまないねぇ。…よし、じゃ、いないようだから、この後の準備してから解散ということで。よろしく。」


 金欠くん、お疲れ様です。



 今夜の準備が終わり、午後の授業が入っている良直とは違いこの後の授業はない俺は帰ろうとしていた。

 その時、肩を叩かれ振り返ると、誰かの指が頬に突き刺さった。…ちょい痛い。

 

「…どーしたんですか、香織さん?」


 トラップを仕掛けてきた張本人に問いかける。彼女は間宮香織さん。天海凛と並ぶ、二大美女の一人である。スラッとした、しかし出るとこは出ていて、さらさらしている黒髪のロングヘアー、切長の目、というような大人びたお姉さんみたいな人である。この人はこの容姿もあってか、モデルをしているなんて噂もある。つーか、なんでこのサークルこんなに美人が多いんだ?さすがに偏りすぎでは…。


「いや〜、つい可愛い君にちょっかいかけたくなっちゃってね」

「可愛いってなんですか、恥ずかしい…。揶揄わないでくださいよ。」

「恥ずかしがってる君も可愛いねぇ」

「もう、香織さん!」

「あん、そんなツンツンしないで、広次きゅん」

「誰のせいだと…」


 とまあ、香織さんは事あるごとに俺のことを可愛いとか言って揶揄ってくる。こんな美人さんと話ができるのは嬉しいけども、可愛いって言われると男としての尊厳がなくなっていく気がするんだよな。


「て、それより何か用事があったんですか?ないならそろそろ家に帰りたいんですが…。」

「あ、待って待って!揶揄いたいだけじゃなかったの。いや、もうちょい君を可愛がってもいいんだけど…」

「…香織さん?」

「あ、や、なんでもないよ!」


 何やら変なことが聞こえた気がしたが話が進まないから無視しよう。


「えーと、それで用件とは?」

「あ、うん、えっとね、今日の夜天体観測あるじゃない?」

「はい、そう、ですね?」

「それでね、今日こそチャンスなんじゃないのかなーって」

「チャンス…?」


 香織さんは俺の耳元まで顔を近づけてきた。ちょっと、いや、かなりドキっとした。


「そ、凛ちゃんにアタックするチャンス」

「ああ…」


 そう、俺はあの天海凛のことが好きなのである。


「あ、あはは、まあ、そうです、かね〜…?」

「なーに、その煮え切らない態度はー?」


 もちろん、凛のことは好きである。かなり、大好きである。本当ならばすぐにでも付き合いたい。…しかし、快くそうできない理由があった。まあ、凛に対する態度でも気づくだろうが、なにを隠そう良直も凛のことが好きなのである。

 




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