人生は時計と共に
『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『時計』。
キーワード全制覇のトリとなります。
少ししんみりするホームドラマをお楽しみください。
「あ、お兄ちゃん、お帰り! 牧師さん、ご都合どうだった?」
「あぁ、昼くらいなら大丈夫だって。父さんと母さんと、あとばあちゃんにも言っておいた」
「良かった。あとはお客さんを迎える支度をしないとね」
「何したらいい?」
「このテーブルクロスの端持って」
「あいよ」
「うん、オッケー。そしたら椅子を端に寄せちゃって」
「あぁ、立食みたいにするのか」
「うん、ひいおじいちゃん、顔広いからさ。普通にすると椅子が足りなくなるだろうってお父さんが」
「成程な。わかった」
「じゃあ料理を運んじゃおう」
「お! 旨そう! 一つ味見を……」
「駄目だよお兄ちゃん! お客さんの分足りなくなったら困るでしょ!」
「一個ぐらいいいだろ?」
「駄目ったら駄目! お母さんとおばあちゃんが一生懸命作ってるんだから」
「ちぇー。早いとこ終わりにして、ゆっくりご馳走食べたいな」
「不謹慎だよお兄ちゃん! 全くもう、ひいおじいちゃんが死んで悲しいとかないの?」
「だって百歳だぜ? 悲しいは悲しいけど、結構ボケちゃってたし、何かお疲れ様って感じでさ……」
「……まぁ、確かにね……。でもお葬式をいい加減にするのは違うでしょ?」
「わかった悪かったよ。さ、残りの準備をやっちゃおう」
「後は飲み物を並べればいいはず。村の人にはお昼頃にって話してきたから、あと……、えっ!? もう十二時!?」
「えっ、もう!? ……いや、これ止まってるんだ。振り子が動いてないや」
「本当だ。ゼンマイが切れたのかなぁ」
「巻き直してみよう。……よ、い、しょっと。うーん、駄目だな。手応えがない」
「お兄ちゃん、直せる?」
「ちょっと開けてみる。……あー、駄目だな。ゼンマイそのものが割れちゃってる」
「夜中に大きな音がしたのと関係あるのかな?」
「かもな。あの音にはびっくりしたよ」
「それで皆起きて来たのに、ひいおじいちゃんだけ来なかったから、あれ?って見に行ったら、もう息してなかったのよね」
「晩飯も普通に食ってたのに、あんなにあっさり死んじゃうなんてな」
「でも痛いとか苦しいとかはなさそうだったから、それは良かったのかも」
「そうだな。この時計、ひいじいちゃんが死んだの、教えてくれたのかな」
「まさか。……でもひいおじいちゃんの生まれた日に買ってきたって話だから、もしかして……」
「時計の命のゼンマイが割れたのもそうかな……」
「一緒に天国に行ったのかしら」
「そうだと良いな。さ、残りの準備をしようぜ!」
「うん!」
読了ありがとうございます。
時計と聞いて、とある名曲が頭に浮かび、そのまま話にしてみました。
こんなベタなのもたまにはよろしいかと。
九十でしたがこういう亡くなり方をした親戚がいて、いずれ死ぬなら病の末ではなくピンシャンコロリと逝きたいものだという憧れも含んでいます。
おかげさまで今回の公式指定キーワード全制覇完了です!
読んでくださった方、ポイントをつけてくださった方、感想を書いてくださった方、イチオシレビューを贈ってくださった方、皆様ありがとうございます!
お陰様で目標達成いたしました!
今後は冬童話を書きながら、思いついたらまたなろラジも書きたいと思っております。
よろしくお願いいたします。