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5 冤罪かける女神

「ではアマワシ・カズキさん、登録が完了しましたのでこちらのカードをどうぞ」


 アルネに討伐者ギルドとかいう所に連れてこられた俺だったのだが、まずはギルドに登録しなければいけないらしい。


 登録料千セルク、今の俺にとっては大金だったが今後のことも考えて気前良く払ってやった。


 朝の段階で所持金三千セルク。だが、クソ女神の朝食代と俺の朝食代で二千セルクほど消え残り丁度千セルク。そして今払った千セルク。

 これで正真正銘一文無しに逆戻りだが、俺にはこれからは収入源がある。


 そういうわけで、カードも受け取ったことだし晴れて討伐者・天鷲一輝の誕生だ。


「では今から一通り、当討伐者ギルドについての説明を致しますね」


 と、登録してくれた女性が前置きしてくる。


「まず、当討伐者ギルドは王都エトワール直営の施設となっております。他の街に行けばその街の討伐者ギルドがある所はありますが、今渡したカードは王都でしか使用できませんのでお気をつけを」


 ほう、でも特に他の街に行く予定なんてないし別に構わない。そもそも場所知らないわけだし。


「次に、当ギルドでは魔獣狩りしか案件を用意していません。命の危険を伴う仕事です。その他の仕事がしたければ、自分で探してみてください」


 と、受付の女性は言うが、そもそも伝手がない為、これしかやれることが思いつかない。というより、既に金が底をついたわけだから探す暇もない。

 

「次に、エトワールの人々は成人するとほとんどの人が当ギルドに登録しますが、大抵の人は自分の命を賭けてまで魔獣狩りに行こうとはしません。まぁ、ブルサン狩りは誰でもできますが、それでもほとんどの人が何かしら自分の職を持っていますからね。……何が言いたいかといいますと、危険を感じたら直ぐに撤退してくださいということです」


 俺も自分の命を賭けるつもりなんて毛頭ないし、生きるのに全力を尽くすに決まってる。


 危険なクエストなんて現状、絶対行ったりしないからな。

 アルネもブルサンはハエみたいなもんって言ってたし、とりあえず今はのんびりブルサン狩りだけさせてもらいます。


「次に、成果報酬の方ですが、提示されている金額は全て、納める税を差し引いたものとなっていますことをご了承ください」


 なるほど、所得税みたいなものか? でもそれならそれで、税金未払いとか後々面倒なことにならずに済みそうで有難い。


「次に、カズキさんは現在ランクEですので、まずは初級、一つ星のクエストにしか行けません。ランクの上がり方ですが、その時用意されている各星のクエストで一番難易度の高いクエストをクリアしたら上がるかもしれません。これは私どもで協議し判断しますので確定ではありませんが、上がる場合はそういった時だと覚えておいてください」


 俺は一つ星しか行けないのかぁ、全く問題ないけど。死にたくないし。

 まぁ、実は俺めちゃくちゃ強いパターンだったらその限りではないけど、そもそもいきなり強いわけなんてあるはずないしな。


 あ、一つ確認しておこう。


「あのー、例えばランクDに上がったら一つ星のクエストには行けなくなるとかないですよね?」

「もちろんそのようなことはありませんよ」


 よ、よかった……これで心置きなくブルサン狩りに勤しめる。


「では次に、武器や防具などは自費でご購入ください。エトワールにおいて、成人の武具購入は認められています。まぁ、クエストにでも行かない限りその使用機会がありませんけどね」


 ぐっ……そりゃそうだよな。クエストなんて行くんだから普通は武器とか必要なはずじゃん? 持ってないけど……やべっ! ブルサンって武器無しで大丈夫なん?


「あのー、ブルサンって――」

「――大丈夫ですよ、武器無しでも」


 受付の女性は、俺が言いたいことがわかってたかのように、俺の言葉を遮りそう答える。


 聞いてた通り、ブルサンって相当弱いのね……。


「話を戻します。武器を購入した際の注意点ですが、絶対にその武器を使って街中で暴れるのはお辞めください。尚、武器を購入しなくても暴れるのはお辞めください」


 と、受付の女性は当たり前のことを言ってくる。


「これは討伐者ならずとも、全ての人に言えることですが、自分の所有する奴隷以外に危害を加える、又はその他にも犯罪行為をすると街を巡回している衛兵が飛んできます。彼らは、騎士から直接訓練を受けているので、例え凄腕の討伐者であろうと簡単に鎮圧されますので、お気をつけください」


 ちょっと一つだけ引っかかるところはあるけど……うぉー! あの全身武装してる人たちが衛兵だよな? やっぱ警察みたいなもんだったのかぁ!

 しかも今の言い方だと、やっぱめちゃくちゃ強いっぽいし絶対に目をつけられないようにしなければ。

 というか、騎士とは? 衛兵より強いっぽいし、上には上がいるんですね。


「あのー、過去に事例があったりするんですか?」

「日常茶飯事、とまではいきませんが、お酒に酔って暴れる討伐者であったり、討伐者でなかろうとも傷害事件を起こす者、様々な事例がありますが……もしかしてあなた、エトワール生まれではないのですか?」

「あっ、えっと、その……」


 もしかして、違ったらなんかまずいことでもあるのか……? どうしよう、なんて答えればいい。


「どうやら違うみたいですね。まぁ特に問題はありませんが」


 悩んでいたところ、受付の女性はあっけらかんとそう言ってきた。


 よ、よかった……不法入国者処刑だ! とかだったら即座に逃げてたわ。


「過去にはランクAの討伐者が捕まることもありました。罪が重ければ重いほど処罰も重くなるのは当然ですが、ある境界線を超えた行く末はご自身でお考えください。この街の生まれではないようですので教えて差し上げますが、その境界線は結構低いです」


 うん、その脅し文句だけで充分伝わってきた。

 なんか、万引きとかでも死刑になりそうな雰囲気……いや、流石にそれはないか。でもマジで気をつけよ。


「とはいえ、衛兵の目を盗んで犯罪行為に手を染める輩も少なからずいるので、全ての事件が解決されるというわけでもないのですがね。ですが、それでも捕まる可能性の方が圧倒的に高いので、何度も言いますが犯罪だけはお辞めくださいね」

「はい、誓います。犯罪だけは絶対しません」


 まぁ、そうだよな。監視カメラとかなさそうだし、この世界。その場に居合わせない限り、目撃証言だけじゃ限界があるはずだ。


「では最後に、ほとんどの方はそもそもカードを作るだけで一回もクエストに行かないので参加したりしませんが、稀に緊急クエストをアナウンスさせて頂くことがございます。詳細は毎度、放送でお伝えしておりますので、その時自信がありましたら、ご参加を検討してみてくださいね。きちんと報酬も出ますので」


 はい! 危険な予感しかしないので現状は参加しません!


「では以上で説明は終わりになります。一応、重要ではありませんが説明しきれてない部分とかもありますので、こちらの冊子を暇な時に読んでください。今日説明したことも書いてありますので」


 受付の女性が渡してくる冊子を受け取るが……表紙だけでわかる。何も読めない。


 これをひらがな漢字に直してもらえないかアルネに頼んでみようかな。いや、流石にこの分量は悪いか。


 と、この冊子に目を通すのは諦めた。


「ありがとうございます」


 軽く会釈してから、一旦外に出ると、アルネが張り出されてるクエストを眺めていた。


「何見てんだ?」

「四つ星のクエスト」

「行けるかそんなもん……!」

「まぁ、今は無理ですね」


 『今は』って、何をいつかは行けるみたいな言い方してくれてるのか。俺が強くなれれば行く気になるかもしれないが、ぶっちゃけ強くなれる気はまったくしない。


「ですが、報酬はめちゃくちゃ高いですよ?」

「いや、命の方が大事なんで……」


 大金に目が眩んで死にました、なんて親に顔向けできねーよ。死んだら会えねーけど。


「まぁ、そうですね。――あ! 知ってますか? カズキさん。この街の冒険者、一つ星にはいかず二つ星から三つ星を中心に活動してるんですが、今は張り出されてないですけど五つ星を攻略した人、過去にいないんですよ」

「へぇー、そーなんだ。みんな強そうなのにな。つかどんだけ危険なクエストなんだよマジで。てか、結局そのクエストはその後どーなんの?」


 五つ星が張り出されても誰もクリアできない、もしくは行かないのでは、そのクエストは残り続けるはずだ。


「最終的には緊急クエストになったり、そうでない場合は騎士や衛兵たちがなんとかするようですよ。後者の場合だと街の警備が手薄になりがちですから極力避けたいみたいですが」


 ほらな? やっぱ緊急クエストなんて絶対やらねぇ。


 それより、マジかっ……! いや、さっきの受付の女性から聞いてたし、強いのは知ってたけど強すぎだろ。


 実力は完全に討伐者なんかより騎士や衛兵の方が圧倒的に上だ。


 この際、魔王も彼らが倒せば良いのでは? と、思ったが、ダメだ、アルネ曰く死んでしまう。


 それにしても――。


「衛兵って大変なんだなぁ」


 街を警備巡回し、何かあったら駆けつけ鎮圧、解決し、ある時は五つ星クエストをやってのけ。きっとそれだけではなく他にも色々やってるはずだ。王宮もあるわけだし常に気を張ってないといけなさそう。


 と、ここからはちょっと距離はあるが、目に映るちょっと高いところにある王宮を眺めながらそう思った。


 王宮といえば、きっとお姫様なんかもいるに違いない。


 あ、お姫様といえば、リラは今頃何してんだろ。マジで、なんで今俺の隣にいるの、リラじゃなくてアルネなん? アルネは女神を名乗るけど、リラの方がよっぽど女神っぽいんだが?


「おー、どうしたアンさんたち。クエストに行くのか?」


 自分の境遇を嘆いていると、いかにも討伐者っぽいイカツイ男が話しかけてきた。

 怖っ、ヘビみたいな顔……。


「えぇまぁ、今からブルサン狩りに行こうと思いまして」

「おぉー、ブルサンか! 懐かしいな、ワイたちも昔一回だけ行ったのを思い出すわぁ!」


 ワイ? たち? 他にも誰かいるのか? というより、怖い顔のくせして騒々しい人だな、おい。


「おっといけね、名乗り忘れてた。ワイはリドル。アンさんたち新人だろ? まぁ無理せず生きていきやー」


 ヘビ顔リドルは、名乗ってくれたは良いものの、俺たちの名前は聞かずに走り去っていった。


「なんだったんですかね今の」

「知らん。ほら、受付行くぞ」


 アルネの腕を引き、討伐者ギルド内に入る。


「あのー、女神たる私の腕に無許可で触れるなんて失礼じゃありません?」

「あ? そーいやお前自称女神だっけな」

「自称じゃありません! ホントに女神なんです! わかってるくせに……ふざけてると怒りますよ?」


 そう言うアルネを無視して受付に向かって歩き出す。


 「ハッ……! 無視か」


 と、後ろからアルネが鼻で笑う声が聞こえてくる。ま、別に良いや、ほっとこ。


「――セクハラー! この人……! 私にセクハラしましたぁっ! 誰か! 助けてくださーい!」


 突如としてアルネが俺を指差して叫びだした。すると、討伐者ギルド内にいた他の人たちの視線が俺に集中する。


 うげっ……! こんっの、クソ女神……!


「テメッ! 何余計なことしてんだ!」


 言ってはみたものの、既に時遅し。


「大丈夫か嬢ちゃん?!」

「何? セクハラ? サイテーね!」


 次から次へと討伐者たちが駆け寄ってくる。


「衛兵っ! 衛兵を呼んで連行してもらいましょう!」


 おい! それだけはやめてぇー!


 「――待ってください!」


 と、アルネが大きな声を上げると、外に出ようとした人も一度立ち止まった。


「許しましょう。この者の卑劣な行動も、今回に限り、水に流して差し上げます」


 おい、卑劣は言い過ぎだろ。腕を触っただけじゃん?

 しかもやたら上から目線なのが気に食わない。


「衛兵など呼べば、この者もきっとタダではすみません。最悪の場合、死ぬ、いえ、それ以上に悲惨な目に遭いかねません」


 それがわかってんなら最初から俺をセクハラ扱いするのをやめてくれ。それより、死ぬより悲惨な目とは。そんなんあんの?


「そうなってしまっては、この者に更生するチャンスを与えることができません。私は、この者がきっとこれから善人になると信じて、許します。ですから皆さんも、どうかお気を沈めてくださいな」


 なに感動を煽る語り口してんだこいつ。

 そもそもお前が言い出さなきゃこの人たちも騒ぎ立てたりしていないだろうが。


「おぉ、なんて良い子なんだ」

「兄ちゃん、この子に一つ借りが出来ちまったな」


 なんて、アルネを賞賛する声が聞こえてくるが……それ以上に貸しを作ってる気がするけどな。


「どうですぅ? 皆さん、私の素晴らしさにすぐお気づきになりましたよ? ねぇねぇカズキさん! 私を見直した?」


 と、アルネはニヤニヤしながら聞いてくる。

 もう、マジで一回ぶん殴ろっかな。


「なんだ兄ちゃんたち知り合いだったんか!」

「あらぁ、痴話喧嘩だったのねぇ」

「まぁ、セクハラくらいなら男からするよな! 兄ちゃん、そっちの嬢ちゃんにお小遣いやれよ!」


 さっきまでのは何だったのか、ヘラヘラと笑い出す討伐者たち。


「……なんだこの茶番は」

「てへっ! ちょっと意地悪したくなっちゃいまして。で、どうなんです? ちょっとは私の魅力に気づきました?」


 アルネは舌を出し悪戯な笑みを浮かべた。その舌、引きちぎってやりたい。


「すいません。初級の一つ星クエスト、ブルサン狩りに行きたいんですけど」


 受付の女性の元に向かい、そう告げる。


「あら? セクハラカズキさん、早速クエストに行くんですね」

「やめてもらえますそれ?! このバカが着せてきた冤罪なんですけど?!」


 と、横にいるアルネを指差す。


「あー! つまりアルネさん、お仲間を見つけたのですね!」

「そうなんですよ。それも理由がありまして……聞いてくださいコルヌさん、先日とある食堂でこの人にナンパされまして」


 アルネはまたもや口から出まかせを放つ。この受付の女性、コルヌという名前らしい。


 それはさておき――。


「してねーよ! むしろお前が付き(まと)ってきたんだろが!」

「あらあら、仲良しですこと! ブルサン狩りですが、成果報酬になります。一体あたり千セルクですが、よろしいですか?」


 コルヌは右手で口を隠して笑った後、そう確認してきた。


「はい、大丈夫です」

「では、討伐者カードをお預かりしますね」


 コルヌに言われた通り、討伐者カードを差し出す。


「では、お気をつけて行ってきてください」


 体感的に凄い時間が掛かった気もするし、さっきの茶番でちょっと疲れたけど、いよいよ俺の初クエストが始まる。


 ちょっと緊張……!

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