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天使と呼ばれた白い悪魔  作者: 伊勢
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あれから3ヶ月。

なんとか私は生きています。


この御屋敷の地下には様々な設備が整っていました。

複雑に入り組んだ迷路のような道を覚えるのは大変でしたが、それさえ何とかしてしまえばあとは自由です。

地下には基本的に、私と天使の2人…あれを人と呼んでいいかは不明ですが…1人と一体だけの静かな生活です。

旦那様は本来のお仕事の為、ここにやってくるのはせいぜい1週間に1・2度ほど。

1人でフラリとやってきては彼が天使と呼ぶアレを恍惚とした表情で眺めるのです。

それの何が楽しいのか、私には分かりかねますが旦那様は毎回満足そうにして帰っていかれます。


しかし、旦那様は決してアレのいる部屋には入りません。


彼があの部屋に入ったのは私を連れてきたあの時だけ。

その時ですらも1歩、足を踏み入れただけでした。

恐らく、そこまでが旦那様の安全ラインなのでしょう。

あの時生き残った私だけは不思議と部屋の奥まで入ることができます。そうでなければ、お世話などできませんからね。とは言っても、あれ以来全く動かないアレのお世話は毎日決まった時間に旦那様の言う聖水で拭き浄める事だけでした。

聖水はここの一番奥にある天然の地底湖、というのでしょうか?そこの水のことを言うそうです。

普通の水でないことは私にも一目でわかりました。というのもその水は常に薄らと蒼い輝きを放ち、キラキラとした粒子が舞っているのです。


ーーさながら、美しい夜空のようです。


ここに連れてこられてから外に出ることは許されない私にとって、それは唯一の癒しとなりました。

幻想的で美しいその水をアレにかけると途端、水はドロっとした黒いものに変わります。


旦那様はそれを穢れと言いました。


聖水をかけることで天使はその身に宿る穢れを落とす事ができるのだと。それが本当かどうか、私には分かりませんし例えそれが嘘でも本当でも、それが仕事だと言うのならばやるしかありませんので。

最初はいつ殺されるかと恐ろしくてたまりませんでしたが、今ではすっかり慣れた作業です。

この仕事が終わればあとは何をしていても良いそうなので、割と自由に過ごさせていただいています。

といっても、大体は地下の探検と掃除位しかやる事はありません。あとは、聖水の湧く地底湖でお昼寝をしたり、のんびりご飯を食べたりしています。

外に出ることは出来ないので、それしかやることがないのです。残念ながら私は文字が読めませんので、本を読んで時間を潰すこともできませんし。

ここには字を教えてくれる人もいないので…ですが、いい加減外に出て陽の光を浴びたいものです。


そう、思った時…ふと思い浮かんだのは白い岩に体を埋め込まれたアレの姿でした。


ーー彼もそう思っているのでしょうか?


いつから、アレはあそこにいるのでしょう?

旦那様はずっと前のご先祖さまが捕らえたと言っていましたが…それがどれだけ前のことなのか、私には分かりませんが少なくとも100年はアレはここにいるのかもしれません。真っ白な、あんな何も無い部屋で時折訪れる旦那様のような方々をアレはいつも眺めていたのでしょうか?

いえ、そもそも普段はピクリとも動きませんしもしかしたら寝てるのかもしれませんけど…。


アレは、いつまであの場に囚われ続けるのでしょう?


天使、と呼ばれているのですから本来ならばその背には大きな翼でも生えているのかもそれません。

その翼でかつて見た鳥のように大空を自由に飛び回っていたりしたのでしょうか?

とても不気味で気味の悪い見た目で実際とても恐ろしい存在のアレは、ここに囚われる前はどんな風に外の世界を過ごしていたのでしょう?


私は…


物心ついた時から奴隷でしたので、それ以外の生き方を知りません。未だ首に重くぶら下がっている枷もこの鎖を自ら外したいとは思いません…いえ、思えない。が正しいのかもしれません。


奴隷にとって鎖が外れる事は死を意味しますから…。


ですがアレは初めから囚われていた訳では無かったようです。旦那様は“捕まえた”と言っていましたから。

もし、本当にそうなのだとしたら…今のあの状態はアレの本来のあり方では無いのでしょう。


奴隷は奴隷の。

天使には天使のあり方…生き方があった筈です。

それが不当に奪われて、何年も何百年もずっとずっと閉じ込められているのだとしたら、それは…






恐ろしいはずのアレが少し、ほんの少しだけ。

私は可哀想だと思ってしまいました。





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