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あの後、目を覚ました私は改めて旦那様にの白い岩に生える不気味なソレの世話を命じられました。
旦那様はいつも以上にニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべていましたが、私にはその笑顔がゾッとするほど気味が悪く吐き気が込み上げました。思わず口を抑える私に見向きもせず、旦那様はウキウキと声を弾ませています。
「初対面で生き残ったのは君が初めてだよ!いやぁ、嬉しいなぁ。やっと彼の世話ができる子が現れたんだもの!」
「あ、の…」
「なんだい?」
「その…アレは一体、なんなのでしょうか?」
奴隷の分際で主人である旦那様に問いかけるなんて有り得ない事です。それでも問いかけずにはいられませんでした。
あの、不気味なアレは…あの場から1歩も動くことなく2人を殺したアレは何なのか、と。
「彼かい?彼は…天使さ」
「てん、し…?」
天使、とは所謂神の御使いとして知られている者の事でしょうか…?私の中のイメージでは真っ白な翼を生やし、頭の上には光り輝く輪が浮かべ、常に慈悲深い笑みを称えている美しい人の姿…をしています。かつて訪れた協会のステンドグラスにもそのような飾りが施されていたはずです。
しかし、私が見たのは世間一般的の天使のイメージとはかけ放たれた不気味な白い存在です。
真っ白な空間で、真っ白な岩に埋まった、真っ白な身体。
大きな口以外には顔を表すパーツは存在せず…血を浴びて楽しそうに笑う様は酷く残忍で不気味でした。
ーーアレは、寧ろ天使と言うよりも悪魔では…?
「そう、天使様さ。彼はとても美しかったろう?」
恍惚とした表情を浮かべる旦那様の瞳にはある種の狂気が浮かんでいます。この時ばかりは己の表情筋が死んでいてよかったと思いました。感情の起伏が低いこともあり、私はなんとか悲鳴を上げずにすんだのですから。
それほどまでに、あれを美しいと述べる旦那様が恐ろしくてたまりませんでした
「彼はあそこにずっと囚われたままなのさ。
いつからあそこにいるのかなんて分からないけれど…僕のずっとずっと昔のご先祖さまが彼を捕まえてあそこに閉じ込めたんだって。天使を捕らえるなんて…なんて素晴らしい!
お陰で僕はあの美しい彼と出会う事ができた!!なんて幸運なことなんだろう。感謝してもしきれないよ!」
旦那様は…狂っている。
「でも残念ながら僕は彼に触れることも近づくことも出来ないんだ。だから、代わりに世話をしてくれる人を探していたんだ。なかなか見つからなくてどうしようかと思ったよ!でもやっと見つけた!それが君だ!死なない…いや、彼に殺されなかった君なら適任だよ!これから彼のこと、よろしく頼んだよ」
奴隷の私に拒否権なんてものあるはずも無く。
あったとして、ここで断りでもすれば…きっと、今度こそ私も死ぬのでしょう。
「…はぃ」
ーーこうして私は不気味な天使のお世話係になったのでした。