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天使と呼ばれた白い悪魔  作者: 伊勢
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「おはようございます」


肌触りの良い服に袖を通し、私は扉を開け外にいた同僚に声をかけました。


「おはよー!今日はいい天気だねぇ。洗濯日和だ!」


そう言って溌剌とした笑みを向けるのは私と同じ奴隷だった少女です。今はその面影もなく、楽しそうに笑う彼女はここに来てからなんだかとても幸せそうに暮らしています。


「そうですね、とても良いお天気です…」


元気な彼女につられて上を見上げれば、そこには今はもう遮るものもない美しく澄み渡った空が広がっていました。

少し前まではこうして空を見上げることもなく、常に下を向いて暮らしていた私には未だ慣れない眩しさに目を眇めると共にいつも少しキュウっと胸が締め付けられます。


美しい空を見上げる度、

肌を撫でる心地よい風を感じる度、

木々のぞ喚き、人々の楽しげな声を聞く度に…


少しだけ泣きたくなるような、そんな気持ちに駆られるのです。



◇◆



暗く狭い馬車に揺られて訪れた、そこそこ大きな街のオークション会場で奴隷の私はある方に購入されました。

私の他にも数名、年齢・性別・人種問わず購入された奴隷仲間がいます。


今度の主人は一体どんな方か?

私たちは一体どんな仕打ちを受けるのか…。


皆、不安な様子で肩を寄せ合い肩を震わせていました。


私は…特に何も思いません。

だって、そんな心配しても無駄ですから。

例え、暴力を振られ痛い思いをしても。

苦しくて辛くて、泣きたくなったとしても。


ーー誰もそんな気持ち聞いてくれないじゃないですか。


相手が誰で、どんな性格の人だとしても奴隷の私達に対する扱い等いつも変わらないですから…。

生まれも育ちも奴隷という最下層の生活を送ってきた私は物心ついたときには感情の起伏が少なく、表情を表に出すことが苦手でした。

お陰でまるで人形のようだと、奴隷仲間達からも気味悪がられてきました。ですが、感情の起伏が少ないとはいえ私も一応は人ですから表に出ずらいだけで勿論感情はあります。

暴力を振られ痛いの嫌いですし、食料を貰えない時はひもじくて虚しいです。寒くて凍えそうな冬は辛く、暑くて虫の湧く夏は煩わしく、臭くて汚い仕事は気が滅入ります。

とはいえ、確かにそれを表に出すことは苦手で…いえ、この場合は得意と言った方がいいのかもしれません。

奴隷の私達は顔に出してしまえば余計辛く当られる事も多いですから。


私の表情筋が死んでいるのはある意味、自己防衛の一環だったのかもしれませんね。


ですが、これでいいと思うのです。

本当に奴隷には感情なんてない方がいいのですよ。

だって奴隷なんて購入者…主人となったその人の命令をただ只管、従順に従っていればいいのですから。

例え、それがいかに理不尽で無理難題な命令だとしても。

結果的に己の命を落とす事になったとしても、それは仕方の無いことなのです。


感情とは、あっても意味が無いのです。

相手に伝えることも、伝わることも無いのですから。


ですからそんなもの、奴隷には必要ないのです。

私達を購入する方々が望まれるのは正に命令されるままに動く都合のいい人形なのでしょうから。


新しい購入者…いえ、新しいご主人様の元で。

私は今日も今日とて奴隷らしく従順に、人形のように感情を表さず命令に忠実にこの命尽きるまで働き続けるのです。


それが、私…奴隷の生き様なのです。





なのに、どうしたことか。

私は今、普通の人間のような暮らしをしています。


今度のご主人様はどうやらとても変わった方らしかったのです。




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