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天使と呼ばれた白い悪魔  作者: 伊勢
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「やぁ、久しぶりだね。元気だったかい?」


ここ数ヶ月とんと訪れることのなかった旦那様が、突然の訪問をされました。

いつもでしたら通信機に一言訪問される日時をご連絡されるのですが…よっぽどお忙しかったのでしょうか?


「旦那様…申し訳ありません。まだなんの準備も出来ず…」


「いや、連絡しなかったのはこっちだからね。大丈夫だよ」


「直ぐにお茶をお持ちします」


「うん、頼んだよ」


そう言って、旦那様は彼の部屋へと行かれました。

私はお茶の準備をして旦那様の元へ向かいました。


「旦那様、お茶をお持ち…」


「なんだあれはっ…!」


あれとは、彼の事でしょうか?

何か変わったことでもあったでしょうか…?


うーん、まず…旦那様がいない間に彼はよく話すようになりました。癖なのか毎回私を抱き締めてきては、猫のようにすりついてくるし、何度か血を求められたこともありました。読めなかった本も、彼が文字を教えてくれると言うので少しずつですが読めるようになり暇な時間は彼と過ごす時間が増えました。今となっては当たり前の日常と化してしまった出来事で、これといって変わった事など…


あれ?何か充分色々と変わってますね?!


「…どう致しましたか?」


取り敢えず、私は知らないふりをして旦那様に問いかけます。どれかわからないですが、随分と取り乱している様子ですし…。


「天使がっ!私の天使がっ!!」


「?」


なんとも要領の得ない言葉に、旦那様の後ろから部屋の中を覗き込めばそこにはいつもと同じ体制の彼の姿。

大きな白い石から生えたからだはぐったりと項垂れてピクリとも動きません。

…前に一度、その体制は辛くないのか聞いたらこの体制がいちばん楽に寝れると言われました。

まぁ、確かに下半身は埋まってますしそれ以外の体制が取れないので仕方ないでしょうけど…地味に辛そうですよね。


しみじみそんな事を思い出していれば、旦那様に突然肩を掴まれました。


「手が…いや体が出てきてるじゃないかっ!」


「手…?」


ーーあぁ、そういえばそうでした。


一番変わった事といえば日に日に彼の体が石から生えるように…と言うよりは外に出てきたという感じでしょうか。

初めは頭と肩しか出ていなかった体が、辛うじて肘はまだ埋まっていますが上半身は全て飛び出ている状態です。


「あれはどういう事だ?!君は一体何をしたんだ!!今までこんなこと無かったのに…!」


「…旦那様に命じられました通り、毎日聖水で浄めたところ少しづつではありますがああして石から体が出てくるようになったのです。ご報告をと思ったのですが…此方からは通信機が使えないためご指示を仰ぐことも出来ず…申し訳ありません」


「っ!それは、そうだが…いや、私もここ最近は忙しくて来れなかったからね…すまない。驚いてしまった…」


「いえ、ご報告が遅れてしまい申し訳ありませんでした」


「いや、君は悪くないよ。君は仕事をしていただけだ。

私が…それよりあれはどういう事だ?聖水を与えて穢れを落とすのは、彼の自由にする為…?風を強化する為のものじゃなかったのか??あのまま、全ての穢れが落ちてしまったら彼は…いや、なら何故…」


「…」


既に旦那様の頭の中には私は居ないのでしょう。

私の肩を離した旦那様は彼の事について懸命に頭を悩ませブツブツとなにか呟いています。瞳孔が開き、汗が吹き出したその姿は余りにも狂気じみていていました。


私はそれをただそれを何も言わずに見つめていました。


ーーそう、何も。

私は何も言いませんでした。


アレが話すことも、

私が彼に血を与えている事も。




ーーもうすぐ、彼は完全に彼処から出てくることも。






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