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『クク…お、マエ…オもシロ、いな』
有り得ない事は続きます。
なんと、片言ながらもソレは私に話しかけてきたのです。
これは…どういう事でしょう?幻聴?
矢張り私は死ぬのでしょうか?
『だぃ、ジョぶ。コロ…さなイ』
そう言われましても…
『コロす、つもリなら…トっくニやってる』
それは、確かにそうかもしれませんが…
ならこの状況は何なのでしょう?
というか、いい加減離して欲しいです。
『ま…だ、ダメ』
えぇ、それはこま…あれ?
「あ、の…私、声出してないですよね…?」
『ククっ、イまサラ…きヅいたノ、か?』
だって、有り得ないじゃないですか!
いきなり抱きしめられるとか。
話しかけられるとか。
声も出てないのに、思考が読まれてるとか!!
「…何故、突然こんなことを?」
『おマエ、ノ…おかげで、カラダ…うごク、ナッたカラ…あリがと』
「!」
…まさか、お礼を言われるとは思いませんでした。
誰かに感謝されたことなんて…初めての事です。
主人に命令されたことを淡々とこなすのが奴隷です。
それはとても当たり前のことで…“ありがとう”なんて言葉初めてで…嬉しくて、そしてなんだかとても気恥ずかしくて。
胸がポカポカ、ムズムズと疼きます。
何故だか耳がジンジンと熱いです。
これは、何でしょう…?
とてもでは無いですが彼の方を向くことができません。
『て、れテる…?かわイ、いな』
照れる?
可愛い…?!
その言葉の意味を理解した瞬間、今度は耳だけでなく全身がカッ!っと熱くなりました。
「てれ、か、かわっ?!っ~~!!お、お礼を言われるのは…その、私は旦那様に命じられてやっているだけですのでっ!!でも、あの…ど、どういたしまして、です…」
『かワ…いい、てれテる。カ、わイイ』
「それやめてくださいっ!なんか、身体が変になります!そ、それにっ…い!いきなり!抱きしめてくることはなかったのでは無いですか?!すごく、驚きました!」
『それ、ハ…』
そこで1度言葉を区切った彼のその嫌に真剣な声音にゴクリと喉がなります。突然こんな強行を起こしたのにはやはり理由があるのですね…。
「そ、それは?」
慎重に問いかければ心做しか彼は…正確には口しかないのですが、ニヤリとしたその口元は正しくドヤ顔のようでした。
『わざ、ト!』
自信満々に言い放たれたそれにガクッと力が抜けました。
そんな…あんなに真剣な声音でまさに何かありますよ!という雰囲気まで醸し出しといて…わざとってなんですか…!酷いです!こちらは本当に死ぬかと思ったのに!!
「やめてくださいよ…死ぬかと思いました」
『ククク』
コレは旦那様には“天使”なんて言われてますが、存外性格が悪いことがわかりました。
本当、これのどこが天使なんでしょう…




