第1話・ゴブリン娘、最強装備返してよ!
俺は勇者。すぐそこに見える山の頂には魔王城が見える。
「ふっ、ついに俺の長い旅も終わるか」
俺はここまでの事を回想する。
色々大変だった。たったひとりで魔王倒せとか、王様のジジイ――……いま思い出してもクソだな。
しかも、100Gくらいしかくれなかったしな。ケチすぎるだろ。
「……いや、いまさらそんな事をいうのはやめておこう」
そうだ。俺はドラゴンに捕らえられていた超かわいいお姫様を助け出し、結婚の約束もしたんだ。
レベル上げをサボったからレベルはちょっと低めだが、俺には伝説の勇者装備がある。これさえあれば魔王もイチコロさ。
もうすぐそこにバラ色の人生が待っている!
「よーしっ、さっさと魔王を倒しにいくぜッ! 待ってろよ、バラ色の日々よ!!」
「待ちなぁ!」
「んっ?」
なんだ、こいつ? 耳がとんがってるし、エルフの女の子か?
でも肌の色がなんか緑だし違うかな?
「エルフのお嬢さん。ここは魔王城の近くだ。早くお家にお帰りなさい」
「はぁッ!? あたしはエルフじゃないしっ! ゴブリンだしっ!」
「ゴブリン?」
「そう! ゴブリン!!」
なんか胸張ってドヤってるけど、ゴブリンかよ。
まあでも、ゴブリンならたしかに肌は緑だよな。
なんか白い髪も生えてるし、見た目も女の子だし、人間みたいな奴もいるのね。俺ゴブリンってハゲたおっさん見たいなのしかいないのかと思ってたよ。
でも、よく考えたらメスがいないと繁殖できないか。
それはそうとしてだ。なんで魔王城の近くなのにゴブリンがいるんだ?
ゴブリンって雑魚だし、最初の方でしかみなかったんだけどなぁ。
「スキあり!」
《勇者は装備を盗まれた!》
「ん?」
「どりゃりゃりゃりゃりゃ!」
《勇者は装備を盗まれた!》
《勇者は装備を盗まれた!》
《勇者は装備を盗まれた!》
《勇者は装備を盗まれた!》
《勇者は以下略》
「うおおおおおおおい! なにしてんだぁああああ!?」
「えっ、盗んでるんだけど?」
「そりゃわかるけど、根こそぎ持ってくなよ!!」
気づいたらパンツ一丁じゃねぇーか!!
「ハハハッ、あたしの勝ちだぁ!」
「勝ちとか負けじゃねぇーよ。返せよ」
「イヤだ。盗んだんだからあたしのだもん」
「ハッ? おまえ、お母さんに泥棒はいけませんって習わなかったのか?」
「ううん。むしろ盗みなさいって言われてた。あたし盗賊コブリンだし」
「……」
よし、倒そう。
「先に言っておくけどな。俺は勇者だぞ」
「勇者? あんたが? 嘘だぁー」
ゴブリン娘はケラケラと笑う。
ちっ、バカにしやがって……。
だが――!
「笑っていられるのも今のうちだ! おまえを倒して、盗んだものは全部返してもらうぞ!!」
――――――
――――
――
――――負けました。
「ぐおおおおっ、何故だ!」
「わーいっ、勇者に勝ったぁ!」
「なっ、なんでゴブリンのくせにおまえそんなに強いんだよおおお」
「うーん、わかんないけどここら辺で生活してたらレベル上がったって感じ?」
「そ、そんな馬鹿な」
「あははははっ!」
ケラケラと笑いやがって、腹立つ。
だが、仕方ない。装備もないし、道具もない。おまけにレベルでも相手が上となれば……下手にでるしかない!
俺は両手をスリスリとさせる。
「いやーっ、ゴブリンさん。すごいですね」
「えっ? そうかな?」
「はい、そりゃすごいですよ。勇者も倒しちゃうし、盗みの腕だって超一流! さすがとしか言えませんよ!」
「ええっ、そんなに言われると……照れる」
えへへっと可愛らしく笑いやがって……だが、俺は騙されないぞ極悪モンスターめ!
だが、こいつはチョロい。このままいけばすぐにでも装備は取り返せるはず。
まずは盗んだ装備の在り処を聞き出そう。
「そういえばゴブリンさん、さっきたくさん盗んだものはどこへ?」
「えーっ、なんでそんな恥ずかしいこと聞くの!?」
「恥ずかしい? なんでだ?」
「そっか、勇者は人間だから知らないのか」
「??」
どういう事だ?
「しょうがないなー、勇者だけ特別に教えてあげる。あのね、盗んだものはね。ココにあるの」
「ココ? って、スカートの中?」
「ううん。その中の中」
「中の中」
つまり――……パンツ?
「はぁ? ええっ!? どっ、どどど、どうなってるのそれ!?」
「うーんなんか、四次元?とか言ってたかな。あたしもよくわかんないけど、盗賊コブリンはみんな特殊なパンツを履いてるよ」
「そっ、そうだったのか――!」
驚愕の事実!
盗賊ゴブリンのパンツは、四次元おパンツだったのだ!!
「――ってなんじゃそりゃ! そもそも四次元ってなんじゃあああ!!」
「わかんない。魔法じゃない?」
「魔法か……そうか、魔法だな」
んっ? 魔法?
そうだ。なにバカをやっていたんだ。俺も魔法を使えるじゃないか!
装備がなくとも魔法があれば、ゴブリンなんぞチョチョイのチョイだ。
よーし、これでもう下手にでることはないぞ!
「ふふふっ」
「勇者、いきなりどーした?」
「悪いな。もうおまえの言いなりにはならないぞ!」
「言いなり? 言いなりになんかしてないけど?」
「うるさぁい! とにかく、俺から盗んだものは全部返してもらう!」
「それさっきも聞いたー」
「さあ、さっさとおまえのパンツをよこせ!!」
「ええっ!? へっ、ヘンタイさんだァッ! この人、勇者じゃなくてヘンタイさんだあああ!!」
「くらえッ! 超勇者魔法をおおおおお!」
――――――
――――
――
――――負けました。
「なんとなくわかってた」
「また勝った!」
なにVサインしてんだ、このゴブリン娘。腹立つ。
「おまえなんだ。チートだろ。チートゴブリンだろ!」
「チートゴブリン? 違うよ! あたしは盗賊ゴブリン!」
「もうどうでもいいわ……さあ、煮るなり焼くなり好きにしろ!」
俺はもう覚悟を決めたぞ!
「そんなことしないよ。盗賊ゴブリンは盗んで逃げるのが信条!」
「いや、頼む。ひと思いにやってくれよ」
魔王城の近くでパンツ一丁とか、もう死んだも同然だろ?
ここら辺に人なんていないしさ。もう詰んだよ。詰みですよ詰み。ゲームオーバーですよ。
「さあ、やれ!」
「ヤダ!」
「やって!」
「イヤだ!」
「お願いします!」
「イヤです!!」
くっ、このゴブリン娘がぁッ! かくなる上はッ……!
「うひゃあっ! 勇者、なんで抱きつくの!?」
「お願いだよぉー! 倒さないなら、装備返してよぉー! 頼むよぉー!!」
「勇者、いい大人が恥ずかしいよ!」
「ううっ」
盗人に言われたくねぇッ……!
「ほら、泣かないの勇者」
「くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら、せめて勇者として死なせてくれぇ!」
「よしよし」
こんなゴブリン娘に頭よしよしされるなんて――くっ、悔しいッ!
「うーん、困った。じゃあ、あたしの家に来る?」
「はっ?」
「ちょうどひとりで寂しかったし、お部屋空いてるし、勇者来る?」
な、なに? どういうことだ?
ハッ、このゴブリン娘まさか……俺を奴隷にしようというのか!?
そんなつぶらな瞳で見たって、俺は騙されないぞ! こいつは悪いモンスターなんだ!
絶対に騙されないぞ!
「勇者、来る?」
「……行きます」
意志の弱い俺……ッ! 2行で堕ちちゃってるじゃないか!!
――いや、これは作戦。作戦なんだ。
いま俺はパンツ一丁。そして魔王城近くで周囲は強敵だらけ。このままではどうせ死ぬ。
だが、このゴブリン娘から伝説の勇者装備を取り返せば、すべてなんとかなる!
それまでの辛抱だ勇者! すべて取り返せば、超かわいいお姫様とバラ色の人生が待ってるんだぞ!
「じゃあ決定ね」
「はい、よろしくお願いしますゴブリンさん!」
「よろしくねー勇者。じゃあいこー! こっちー!」
ゴブリン娘め。
見てろよ……絶対に装備は返してもらうぞ!
思い付きで書きました。思いのほか自分が楽しかったので、不定期でもいいからちょくちょく書いていけたらなと思います。
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