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紋章の世界  作者: たんたん
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鯉の紋章を持つ男

~???~

暑い日差しの中、男は目を覚ました。頭が酷く痛む。思考が定まらない。しかし、なにか目的があったことだけは覚えていた。男はぼんやりとした思考の中、目の前に広がる大きな街に向かって歩き出した。


~白林街~

「いらっしゃいませ」

街中がそんな賑やかな声で溢れている。ここは白林街、この世界に10個しかない街の一つである。蒼馬はとある目的をもってこの街を訪れた。蒼馬は道を歩いていた男に声をかける。

「すまない、この辺りで怪しいスーツを来た男たちを見かけるようになったと聞いたんだがなにか心当たりはないか?」

男は蒼馬からそのスーツの男たちに対する明確な敵意を感じとった。そう、そのスーツの男たちこそが蒼馬がこの街に訪れた目的である。男は答える。

「心当たりがない訳でもない。立ち話もなんだし、俺が世話になってる酒場があるんだ。そこで少し話さないか?」

という男の言葉に甘え、蒼馬は男について行くことにした。

席に案内されしばらく待っていると

「あら?お客さん?お友達?」

と顔立ちの整った女性が奥から現れた。

「はじめまして、蒼馬といいます。」

「あー、そういや名前聞いてなかったな。こいつは美登利。そして俺の名は、、、


ガッシャーンッ


大きな音が男の自己紹介を遮る。そして、酒場に血相を変えた若者が飛び込んでくる。

「大変だ!天鉱石の神殿が何者かに攻撃されてる!」

「なに?まさか、、、!!」

「おい、ちょっと待てよ!!」

蒼馬は男の制止を聞かずに酒場を飛び出し神殿へと向かっていった。


~白林神殿~

蒼馬が白林神殿に到着するとスーツの男たち約10人ほどが神殿を攻撃していた。スーツの男たちは1人のガタイのいい男に指揮され、神殿を攻撃しているようだった。

「徹底的に神殿を壊せ!おっと、地下階段は壊さないようにな。計画がパーになっちまうからなぁ、、、。」

「待て!!」

蒼馬が男たちを制止する。男たちは一斉に蒼馬の方へ振り向き、声をかける。

「なんだてめぇは?何しにきやがった?」

「お前らを止めに来た。お前らの計画はだいたい分かってる。俺がそれを止めてやる!」

「何言ってんだお前?お前一人に何が出来る?」

そう言ってスーツの男たちは蒼馬を嘲笑う。しかし、傍から見るとたった1人で10人程のスーツの男たちに相対する蒼馬を無謀と思わざるをえないだろう。数秒の後、彼らを指揮していたリーダーであろう男が神殿からでてくる。

「俺らを止めに来た、、、か。笑わせてくれる。おい、ガキ!無謀と勇敢は違うぞ。1人でここに来れた勇気は認めるが死にたくないのであれば今すぐここから消えろ。」

「俺を舐めるなよ、おっさん!」

リーダーに対峙する蒼馬の目の前に横からスーツの男たちが割ってはいる。

「牛込さん、あなたの手を煩わせるまでもない、ここは私たちにおまかせを。」

「そうか、期待しているぞ。」

そう言うと牛込と呼ばれた男は再び神殿の中へと入っていった。

「邪魔だ!どけ!」

蒼馬は背中から槍を取りだし臨戦態勢をとる。また、スーツの男たちも懐からナイフを取りだし、戦闘準備を整える。

「かかれ!!」

スーツの男の1人の声を皮切りに、約10人ほどのスーツの男たちが一斉に蒼馬に飛びかかった。普通なら無謀と思われた数の差での戦闘に関わらず蒼馬の洗練された槍捌きによって、ほとんどの攻撃は受け流された。しかし、蒼馬の攻撃の機会はほとんど与えられず、雨のように飛んでくる敵の攻撃に対して防戦一方になっていった。

「はぁ、はぁ、、、」

蒼馬の息があがる。

「ちっ、手間かけさせやがって。おいてめぇら、そろそろこいつを楽にしてやるぞ。」

そう言うと男たちは蒼馬にゆっくりと近づいてくる。

「最期に一言くらい聞いてやってもいいぜ?聞くだけな!」

そう言いながら男たちが嘲笑する中、蒼馬は1人笑っていた。

「何がおかしい?お前はもう限界、これ以上は苦しみが続くだけだぞ?」

「限界、か、、、そんなの、てめぇらに決められる筋合いはねえ。見せてやるよ、奥の手ってやつを!!」

「そうか、ならば死ね!!」

スーツの男の1人がナイフを蒼馬へ振りかざす。蒼馬は、とっさに懐から「馬」と刻まれた紋章を取りだし強く握りしめた。

「はぁぁぁぁっっ!!」

その瞬間、蒼馬の体の中へと紋章は吸い込まれ蒼馬の足下には「馬」と刻まれた紋章が浮かび上がっていた。蒼馬へトドメを刺そうとしていたおとこははるか遠くへ吹き飛んでいた。「馬」と刻まれた紋章の使い手が得る能力である脚力強化による蹴りが炸裂したのだ。蒼馬の足下に浮かぶ紋章を見たスーツの男たちの顔は一気に青ざめる。

「なぜだ?なぜお前がそれを持っている?」

「答える義理はねぇ、次はどいつだ?」

蒼馬が男たちを睨むと男たちは一瞬怯んだ。その隙を見逃さず、脚力強化による高速移動で蒼馬はスーツの男たちを一人一人気絶させ神殿の中へはいっていった。


~白林神殿内~

「まさか、あいつらを全員倒しちまうとはな、、、それも1人でよぉ、、、」

「まさか、あんな少しの人数で俺を止められるとでも?」

神殿内にて先程、スーツの男たちを束ねていた男、牛込と蒼馬は相対していた。

「槍、それがてめえの武器か。物騒なもの持ってんな。」

「ゴツゴツした格好したてめぇに言われたくねぇな」

2人はお互いに毒を吐き合うと同時に臨戦態勢に入った。牛込はかなり、戦闘慣れしているようで動きが一般人のそれとは大きく異なっていた。しかし、紋章が発動していた蒼馬のほうがそれの上をいき、あっという間に牛込を追い詰めた。

「やるじゃねぇか、、、ガキ!!」

「そのガキにてめえはやられるんだよ。こいつで終いだ、喰らいやがれ!」

そう言うと蒼馬の足下の紋章の輝きが強くなる。それと同時に蒼馬の槍が光を纏い始めた。これが蒼馬が「馬」の紋章を使うことによって放つ必殺技

『火事場の馬鹿力(バーニングホース)!!』

その一撃は蒼馬の脚力強化による高速移動で槍と空気が摩擦を起こし発火、そのまま立ち尽くす牛込に突っ込み、辺りは爆風における土煙に包まれた。


「やったか?」

数十秒経って土煙が消えていく。蒼馬の手には確かな手応えがあり、確実に捉えたという自信から出た一言だった。しかし、そこには無傷で立ち、足下に「牛」という文字が刻まれた紋章を浮かび上がらせる牛込の姿があった。

「バカな!確かに手応えはあったはず、、、紋章を使ったとはいえ無傷でいれるはずがない!」

「あー、てめぇの必殺技ごとき俺が受け止められないはずがねぇだろ」

「受け止めた、、、だと?」

そう、牛込は蒼馬が懇親の一撃を放った刹那、紋章を懐から取りだし、解放。同時に必殺技を発動させたのだ。

「さっきは、助走が足らなかったせいで相打ちだったが次はそうはいかねぇ、目ェひん剥いて刮目しやがれ!!」

「くそ、もう一度やってやる!」

蒼馬はもう一度『火事場の馬鹿力』を発動させる体制を整える。それに対し、牛込は咆哮する。その瞬間、牛込の足下の紋章の輝きが強くなり、頭上に巨大な角が現れた。

「これが俺の必殺技、『火牛の(ブルタックル)』!!」

「受けて立つ!!『火事場の馬鹿力』!!」

ふたつの必殺技が触れた瞬間、蒼馬の体は宙を舞った。力の差は明らかだった。地へ落ちた瞬間、体からバキッと鈍い音がした。恐らく、骨の何本か持っていかれたのだろう。身体は動かず先程まで浮かんでいた紋章は消えていた。これは、蒼馬の身体がもう限界であるということを表していた。

「く、くそっ、、、ここまで、なのか?」

「もう終わりか?俺の『火牛の計』を助走はなかったとはいえ受け止めたやつは初めてだったんだがな、、、そろそろ終わりにするか?」

再び、牛込は『火牛の計』の準備を整える。蒼馬もそれに抗おうとするが身体が全く動かない。

「こいつで終いだ!『火牛の計』!!」

巨大な角を纏った牛込が突っ込んでくる。蒼馬は死を悟りギュッと目を閉じた。


カーンッ


乾いた音が響き渡る。何故か生きているようだ。

「だから言ったろ、待てよってさ。」

そっと目を開けるとそこには蒼馬を酒場へと案内した男が両手に剣を1本ずつ持って立っていた。

「トンマだっけ?お前、大丈夫か?ボロボロだぞ?」

「蒼馬だ!そんなことより、何やってんだ、早く逃げろ!殺されるぞ!」

「殺される?あいつにか?」

男が指を指す先には、呆然と立ち尽くす牛込の姿があった。

「てめぇ、何しやがった?まさか、俺の『火牛の計』を受け止めたとでもいうのか?生身で?」

「ん?まさか、あの程度がお前の必殺技なのか?冗談だろ?」

男が牛込を煽るように話す。見るからに牛込の顔が赤くなる。

「てめぇ、、、偶然に決まってやがる、、次こそ決める!」

「馬鹿の一つ覚えって言葉を知らんのかね、、、まぁいいや、来な!!」

牛込が必殺技の体制を整えると同時に男の表情が変わる。

「消しとべ!!『火牛の計』!!」

男は生身でその技を受け止める姿勢をとる。

「おい、バカ、やめろ!紋章持ちならともかく生身で受けきれるはずねぇだろ!逃げろ!」

「生身、ね、、、確かに生身であるならひとたまりもねぇな、こりゃ。」

「死ねぇぇぇぇ!!」

男が紋章を使う前に『火牛の計』と男の剣が接触してしまった。牛込は勝ちを確信しただろう。蒼馬は見てられないと目を閉じようとした瞬間だった。男の足下に紋章が突然現れた。

「なに!?天鉱石の恩恵を受けずに紋章を発動するだと?」

「バカな、、、俺の技を完全に、、、受け止める、、、?そんなはずは無い!!」

男の剣は完全に牛込の技の威力を殺した。間違いない。この男と牛込とでは格が完全に違う。しかも驚くべきは男の足下の紋章に刻まれた文字。まるで戦闘向きとは思えない「鯉」という文字がそこには刻まれていた。

「何故だ、、「鯉」の紋章の雑魚に、この俺が、、、しかもだ、天鉱石の力を使用せずに紋章を発動するだと?てめぇ何なんだ?」

「お前に答える義理があると思うか?はぁ、ここで降参するならこれ以上俺から手は出さねぇ、大人しくしろ。」

「あ?降参するなら死んだ方がマシだ。もう一度だ、今度こそてめぇを、、、


パリーンッ


牛込がまだ抵抗の素振りを見せようとしたその瞬間だった。気がつくと男の剣が牛込の腹部を貫いていた。力なく牛込が膝をつき倒れ、それと同時に足下の紋章が消え割れた紋章が牛込の身体の中から現れた。それを見て牛込が完全に戦闘不能に陥ったことを確信したのか、蒼馬は再び目を閉じ、深い眠りについた。


~???~

悲鳴が聞こえる。多くの人がバタバタ倒れていく。

「お母さん〜どこー?」

「まま?ぱぱ?」

「かずま?かずまー?」

多くの人が家族を探して歩く。しかし、外を歩くことは危険と隣り合わせだ。たまに大声で聞こえていたはずの声が一瞬で消える。

(あー、また人が1人死んだのか、、、)

子供ながらに蒼馬は理解する。(もう、自分には絶望しかない。友人も家族も失った。いっその事、死んだ方が、、、)




「お、、、、、ま!」

「おい、、、、ま!」

「おい、蒼馬!!」

「!?」

突然の耳元に響く大声で飛び起きる。気がつくとベッドの上に寝させられていた。

「ここは?」

「おー、やっと目を覚ましたな。お前、3日間丸々寝てたんだぞ。ここはお前が最初に来た酒場だ、看病した俺と美登利に感謝するんだな」

「3日!?そんなに寝ちまってたのか、、、それは苦労をかけたな、、、。」

「いいってことよ。それより、あの牛込って言ったか?あいつとその取り巻きは天鉱石への攻撃の罪で連行されたぞ」

「そうか、、、この世界において天鉱石への攻撃は大罪だからな、当然か。聞きたいこともあったが仕方ない。」

「お前、あいつらについてなんか知ってるみたいだな。ここに来た目的もあいつらにあるとみた。」

「図星か、、、。まぁ、アイツらとは因縁があるんでね、、、。俺も、あんたには色々聞きたいことがあるんだが、、、。」

「ん?なんだ!」

「お前、天鉱石の力を使わずに紋章を発動したろ。あれはなんだ?」

「、、、正直俺もわかってない。名前以外の記憶を失って、この店の前に転がってたんだが、気がついた時には既に使えてた。」

「そうか。やっぱり、あれは天鉱石の力を使わずに、、、しかも、あの牛込の必殺技を受け止める程の力か、、、」

「あー、あれなんだが恐らくは真作、贋作の差がモロに出た結果だろうな。真作が贋作に負ける道理はないしな。」

「なるほど、ホントに興味深いよ、、、。おっと、いつまでもここでお世話になるのは悪いな、今日中に荷物を纏めて出ていくよ。」

「あー、その話なんだが、、、」


バタンッ

その瞬間扉が開き男が紹介していた美登利と言われていた女が入ってきた。

「おー!目、覚ましたんだね!!そりゃよかった。んで、あんたあのスーツ共を追ってるんだって?」

「ん、あぁ、、、まぁな。」

「だったら、この酒場にいたらどうだい?情報ならいくらでも入ってくるし、戦闘となったらこの居候が役に立つよ!」

と美登利は男に指を指す。

「居候で悪かったな、、、つーわけだ、悪い話じゃないと思うがどうだ?」

「本当にいいのか?」

「もちろんよ。改めまして、私は美登利よ。」

「じゃあ、お言葉に甘えて世話になる。蒼馬だ。んで、あんたの名前は?」

と男に問う。

「あー、そういやまだ名前言ってなかったな。俺の名前は龍弥。記憶喪失のせいで曖昧だが多分龍弥だ。これからよろしくな。」

そうして、龍弥、蒼馬、美登利の3人での酒場での生活が始まった。これは、これから彼らが巻き込まれることになる壮大な物語の序章にすぎない。














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