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妖精さん失言する(ホントのことを言っちゃう)

地方公務員法第30条(服務の根本基準)

「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」


地方公務員法第32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)

「職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」


地方公務員法第35条(職務専念義務)

「職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」

【妖精さん失言する(ホントのことを言っちゃう)】


建設業界と商工会議所から陳情を受けた市長が、頭をひねって、

新たな処分地建設場所を探すためにどうすればいいか…そこで考え付いたのは

民間企業である「環境保全公社」に、市の職員を出向させるというアイデアだった。


地元の町内会とは「現在の最終処分場の近くには新たな処分場は造らない」という合意があり、これを反故にすることは出来ない。

しかし、その町内会からは「広域避難所となる公園が欲しい」という要望も上がっており、現在の最終処分場(市のゴミ捨て場)の跡地には、地域の公園の整備を進められる予定となっていた。


民間企業の人間が、地元町内会役員にいくら頭を下げても、次の穴を掘らせてもらえる見込みはないが、市長の後ろ盾があるとなれば話は別だ。

市の職員の身分を兼務した人間に用地交渉に当たらせ、同時に「公園工事の着工を早めますよ」と囁かせれば、町内会も心を動かすかもしれない。

その上、近年では、東京圏の工事現場から出る「建設残土」を、山麓に不法投棄していく大型ダンプが横行しており、この取り締まりをもっと厳しくしてほしい、という声も後を絶たない。

地元地権者に対してバーター取引を持ち掛け、交渉を有利に進めようというのが市長のアイデア。しかも、民間企業への出向という形をとるので、市のほうから合意を破るという形にはならない。

企業と住民の合意のもとに、新たな協定を市と結ばせようという「大人の知恵」だ。


しかし、そんな「大人の知恵」は、妖精さんには通用しなかった。


まず、出向される廃棄物対策課長が泣きついてきた。

陽生と課長は、以前、不法投棄の現場を押さえようと、山麓で一緒に張り込みをした仲だった。

その時は、不法投棄の証拠写真を撮ったまでは良かったが、

ユンボのオペレーターに見つかり、ダンプの運転手たちに取り囲まれ、

「山に埋めちまうぞ、コラ!」と凄まれ、ほうほうのていで逃げ出した。

陽生の警察への通報が遅かったら、課長は本当に埋められていたかもしれない。


課長は言う。

「地元地権者との交渉に失敗したら、私は二度と役所に戻れないかもしれません」

公共の利益のために奉仕するのであれば、堅気ではないヤツラとも対峙たいじする。

でも、何も悪くない地元住民との取引をさせられるのは納得いかない。

課長の話はもっともだと思いながら陽生はタブレットの中で、地方公務員法の条項を検索していた。

第30条「職員は公共の利益のために勤務し、全力を挙げてこれに専念しなければならない」

第32条「職員は市長の職務命令には忠実に従わなければならない」


うーん・・・。

お?・・・これが使えるかもしれない!


6月定例会が終わったばかりで、次の定例会まで間がある。

そうした場合、市長は議長にはかり、全員協議会を開催することが出来る。

その協議会の場で、廃棄物対策課長を市が30%の株を保有する「株式会社環境保全公社」に出向させる旨の方針が語られた。

しんと水を打ったように静かな会議室で「議長!」と妖精さんは手を上げた。

陽生はタブレット上に、地方公務員法第35条の条文を表示させる。

議長の指名を受けて、妖精さんは語りだす。

「公務員法第35条には、職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない、とあります。いまの市長の説明は、この第35条、つまり市職員の職務専念義務に抵触する恐れがあります。課長を民間企業に出向させるためには、特別に条例を定める必要があると考えますが、いかがでしょうか?」


こうして、市長のアイデアは沙汰闇さたやみとなった。


こうして陽生は、地元の建設業界そして商工会議所の両方から

「あいつだけは許さねえ」と恨まれることになった。


この恨みの声は静かに地の底に浸透して行く。


妖精さんは、課長からお礼の電話を貰い、褒められて、すっかり上機嫌。

次の選挙まで9カ月。

この時はまだ、この選挙で最大のピンチを迎えることに、陽生は気づいていなかった。


もちろん、条例で定めれば職員を出向させることも可能です。しかし、条例を定めるのは議会の権能けんのうであり、議会と対立してまで業界団体の肩を持つ必要もないと判断した市長は、ほこを収めてしまいました。以前説明した「二元代表制」とはそういう仕組みなのです。

次回は【妖精さん追い返される】です。

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