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妖精さん委員長になる

●市議を目指そうという人に向けて、少し解説します。(興味のない方は読み飛ばしてください)

地方自治のかたちとして、対象的な二つの型があります。一つが英米型。もう一つが欧州型。

時々、地方議員なんてボランティアで良いという意見を聞きます。しかし欧州型に源流を持ち、団体自治中心の日本の地方議会には、執行者(例えば市長の)の正統性を議会が法に基づいて保障するための「議決」が多いという特徴があります。例えば国が消費税を上げるたびに、現在は、市が徴収する使用料等について、それぞれの料金を定めた条例ごとに、「値上げ」の議決をしなければなりません。市長が、何か新しいことをしようとしても、市民の意見は様々なので、「市民を代表する議会の承認を受けた」後に、執行するという仕組みが必要なのです・・・これを「二元代表制」といいます。

【妖精さん委員長になる】


地方自治とは、地方のことを自ら治めることを意味し、国から独立して一定の地域を基礎とする地方公共団体が、住民の意思に基づいてその事務を処理することをいう(議員必携:岳陽書房P3)



6月定例会が始まった。

妖精さんは上機嫌でタブレットを操作している。しっかり議員必携を読み込んできたらしく、質疑・討論・質問・動議の違いも、きちんと理解しているようで、端末内に潜むオレも一安心だ。

田中陽生議員の現在の所属は「建設委員会」。

建設委員長の「原案通り決することに、ご意義ありませんか」という問いかけにも、

きちんと「意義なし」と返事を返している。オレがすっかり安心していた頃、それは起きた。


突然、

共産党議員が道路の占有料金値上げについて、「反対討論」を行った。

その時、妖精さんは「この人の意見、ヘンだよね」と打ち込んできたので、

『占有料金の値上げは国や県が示してきたもので、市としても追随せざるを得ない。

このまま国道や県道と、市道の占有料金が違うと、行政執行に大きな影響がでるんだよ』

と答えた。

「じゃあ、なんでハンタイするの?」

『共産党は弱い人の味方だから・・・かなあ』

「行政執行が複雑になると、役人の仕事が増える。それだけ人件費がかかる。結局それって税金で負担するんだよね」

『うん』


反対討論が終わるやいなや、

妖精さんは「委員長!」と手を上げて、発言する意思を表明した・・・(汗)

委員長は一瞬怪訝な表情を見せたものの、「田中委員どうぞ」と発言を許した。


「本議案について、賛成の立場から、討論いたします」


日本の教育とは違い、

「国際バカロレア(IB)」では「セオリー・オブ・シンキング(思考の理論)」が重視される。

これは、自分の頭でゼロから証拠を集めて組み立て、論理的に問題を解決する能力で、「発想学」とも呼ばれている。

妖精さんは、「値上げイコール悪」という先入観で思考停止せずに、どちらの方が最終的な税負担が少なくすむか、という発想で意見を述べた。


「・・・当局の提案の通り、可決すべきものと考えます」


手を上げて、委員長に指名されて、意見を述べることに、まったく問題はない。

問題はないんだけど・・・

多くの地方議会には、賛否が分かれる議案の場合、あらかじめ誰が討論をするか、仕込んでおくという「作法」があるのだ。

あくまでも「作法」なので、「慣例」であり、規則とはなっていない。

例規集にも書かれていないので、そこを妖精さんに突かれた。


 委員会後、賛成討論をする予定だったベテラン議員さんが話しかけてきた。

その方は、田中議員の肩をポンとたたいて、

「なかなか良かったよ(笑)」と言ってくれた。

若い議員には、みんな優しい。

タブレットの中でオレは、ほっと胸をなでおろした。(ムネないけど)


しかし、自由すぎる妖精さん。この調子では先が思いやられる。

忖度をしない、空気を読まない、解ったふりをしない・・・etc

頭を抱える(アタマないけど)オレに、その時一つのアイデアが浮かんだ!

定例会の最終日には、委員会の配属変更がある。


『なんとしても委員長ポストをとれ!』

「委員長って面白い?」

『面白いよ~』

「がんばる」


委員長選挙には「指名推薦」「投票」の2種類がある。

そして時前に、各会派の話し合いで、ポストの割り振りが行われるのが慣例。

田中陽生は二期目議員の最終年なので、場合によっては委員長ポストを要求できる。

最終年ということで、来年の4月には選挙の洗礼を受けなければならない。

その際、委員長は議会に縛られて、政治活動をやりにくい為、ポストを希望する人が減る傾向にあるのだ。


こうして、妖精さんは、今年度の「産業委員長」に推薦された。

なぜか、産業委員長を希望する議員がおらず、そのポストだけがポツンと残っていた。


委員会は、議案に対する当局の説明のあと、議員による質疑が行われる。

しかし、進行が役目の委員長は通常、質疑を行うことは出来ない。

そして、議事録を読むと、例えば以下のように書かれている。

 ・

 ・

 ・

(委員長)

質疑を終わります。

これから討論に入ります。

(委員長)

――討論を終わります。

 これから採決に入ります。

 お諮りいたします。

 議第〇〇号、〇〇に関し議決を求めることについては原案どおり決することに御異議ありませんか。

              (「異議なし」の声あり)

(委員長)

異議なしと認めます。よって本議案は原案通り可決されました。

といった具合に、議会事務局が議事進行に誤りがないように、事前に想定問答集を書いておいてくれるのだ。

議会事務局の振付けのあるうちに、妖精さんと良く打ち合わせをしよう。うん。

ともかく、時間は稼いだ。うん。


でもね、「産業委員会」のポストが敬遠された理由があることに、陽生はまだ気づいていない。

誰も、火中の栗を拾いたくなかった。


火中の栗。

それが、産業廃棄物の最終処分場建設問題だった。


議会事務局は地方議員にとっての「守り本尊」です。ここを大切にしておくと、一年生でも議員が務まります。

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