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洞窟の中で妖精さんを発見したのです、って言ったらどうなると思う?

【帝都理科大学 自動車工学研究室にて】


「さて、どうする?」

僕らは実験室にいた。グレモンハンドルを閉めれば、音はまったく漏れない。シャーシダイナモに据え付けられたニャイト2000の車内。制御室にいる小春は、防音仕様のガラス越しにしばらくこっちを見ていたがすぐに興味を失ったらしく、渡されたミシュランガイドを読みながら、今夜何食べようか作戦を練っているようだ。


『まず、君らの顔が見たい』

「おっと。すまん」

と言いながら、運転席に座った飯田橋博士がドライブレコーダーのスイッチを入れた。

車載カメラを通じて、二人の顔が見えた。助手席の妖精さんはというと、オレの体を絶賛自動運転中。金平糖をもらって、ゴキゲンです。


「我々は洞窟の中で妖精さんを発見したのです、って言ったらどうなると思う?」

『ナンデヤネンって言う。間違いない。ボケたら、ツッコむ。それ、関西人の本能』

「ボケじゃないんだけど」

『・・・ソコが問題』


妖精さんは電磁波に弱いため、シールドボックスに入れられて地上に出た。新世界を見てみたい、それが彼らの希望だった。

研究中のAIと妖精さんは親和性が高かった。自由に世界を見て回れるよう、妖精さんの入ったカプセルをクルマに搭載した途端、一瞬で妖精さんの不思議科学力が現代テクノロジーを凌駕した。AIはもはや妖精さんの支配下にあった。

妖精さんは楽しいことがあると分裂する。強い電磁波で消滅する。現代社会は電波が飛び交っている。地上はもはや妖精さんが住める環境ではない。ニャイト2000のシールドの中が妖精さんの安住の地。そうなるはずだった。

「病院でMRIやCT検査を受けても、妖精さんは無事だというのか。そこが解らない」

『もしかしたら、オレの方がシールドから出たら消滅するノカ』

「たぶんそうだ。・・・AIを初期化しようとしたときは驚いた」

『知り合いがいて助かっタ』

「まさか陽生だったとは(笑)」


問題はまじかに迫る6月議会定例会だ。休ませるか?妖精さんに聞いてみたら、

「がんばるー」と言う。

楽しいことには目がないのだ。いや、楽しくないよ、大変だよ。

「S市議会はタブレット端末の持ち込みOKだよな」

『アア、議会事務局が随分と抵抗したが、去年からそうなった。政務活動費から支出できる』

「じゃあ話は簡単。カーナビをタブレット型にすればいい。取り外し可能な・・・少し出っ張るから、そうだな、リムーバブルメディア(記憶媒体)にコピーしてもいい」

『マテ、その場合、本体のオレはどうなる』

「無痛デリートされる」

『冗談はヤメロ』


かつて地球上のどこにでもいた「妖精さん」たち。

先史時代人類の衰退とともに現れたが、超新星の爆発によるガンマ線バーストの後、高度な(不思議)文明をあっさりと放棄し、歴史のはざまに消えていった。

しかし、彼らは滅んだわけではなかった。

(おやつをくれる)人類が文明を開化させるのを、息を潜めて待っていたのだ。


こうしてオレは、タブレット端末によって市議会に出席することになった。

最近では、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながらも、遠隔コミュニケーションロボットOriHime(オリヒメ:月額3万円)を駆使して登壇する参議院議員も現れたが、地方議会ではまだまだ理解が進まない。こうした地方の現状は、今後少しずつ変えていかなければならない。

タブレット端末の持ち込みですら、許可されていない市町村議会も多いのだ。


あと、問題は・・・

「もう少しAIの調整が必要ですので、クルマは後ほどディーラーまでお届けします。せっかくですから、ご一緒に夕飯でもいかがですか」

と聞く飯田橋博士に対して、

「神楽坂に美味しい店があるみたい。・・・もちろん、ハカセのおごりですわよね」

小春は満面の笑みで、そう言った。

「いくー」

妖精さんも嬉しそうだった。


ひとり残されたオレには、なんでクルマのAIにこんなものを、と頭をひねるバイト学生さんの手によって、市の条例やら、規則やら、いわゆる「例規集」を入力する作業が続けられた。

・・・学陽書房の「議員必携」も買って帰らなきゃな。アマゾンで電子版はないのかな。妖精さん、本を読むのが好きだといいけど。



この先、とんでもないことになることを、陽生はまだ知らなかった。


私の所属する市議会でも、今年度中のタブレット導入が決まりました。

議会改革検討委員会で声を上げて、他市町の事例研究や視察を重ね、8年がかりでした。

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