妻、小春
【妻、小春】
最近、うちの旦那が変。
いや、前から変だったけど。
事故起こして、生還してから、その変さ加減に磨きがかかった。
頭の中がお花畑という人は時々いる。
そんな政治家も時たま、いる。そんな市議会議員だったので、そこは変わらない。
だいたい、あの事故だって、誰も巻き込まなかったのは奇跡的。
電光掲示板の直径900Φの鉄の柱にまっすぐ突っ込んで、
柱にめり込んで止まった。
押されたエンジンルームから、いろんな部品が運転席にせり出してた。
うちの旦那ときたら、何故かその中の一つ、Aiっていうの?小さなブラックボックスを抱えて
スヤスヤ眠ってたそうだ。
(救急隊員から聞いた)
そのまま目を覚まさないのかと心配したが、
三日目に目をあけて、私がサクマのドロップ舐めてるのを見て、
「あめちゃんちょーだい」と言った。
思わず、「関西人かよ」と突っ込みたかった。
いや、そこじゃない。
なんかとても、どう言ったらいいのか。
その時は判らなかったけど、そうだ。やっぱり頭とか打ったに違いない。
ナースコールしたら主治医の先生も飛んできたので、聞いてみた。
「馬鹿になってるみたいなんです」
精密検査の結果は「異状なし」。もうすぐ退院出来そうで一安心。
馬鹿にはなっていないそうだ。
でもご飯よりも、お菓子を欲しがるようになった。不思議だ。
甘いものより、ビールとか日本酒が好きだったのに。
今もキノコ型のチョコをポリポリしながら、ふと思い出したように
「クルマ、どした?」
と聞いてきた。
「うーん。廃車かなあ」
「歯医者さん、いやーん」
と言うので、笑いながら「歯医者じゃなくて、修理工場」
と説明してあげた。そして
「修理工場で見てもらって、ダメならスクラップかな」
と言ったら、いきなり血相が変わって
「ピー-----」
心肺停止した。
慌てふためくお医者さんによって蘇生措置が施され、一命を取り止めた。あーびっくりした。
その後また丸一日眠り続けて、再び目を覚まして第一声、
「廃車だめです」
「うん。そうだね。ちゃんと修理してまた乗ろうね」
私の学習能力の高さを見よ。
何か知らんが、ニャイト2000を買い替えては行けないのだ。
何としても直さなくてはならないらしい。
「退院したら、クルマ見に行こうね」
そう告げると、納得したように、またスピスピ寝息を立てだした。
まるで、手のかかる子どものようだ。
そういえば、付き合ってる頃からそうだったな。後先考えず、無茶ばかりして。
関西から嫁に来て、一緒に買い物に行ったスーパーの駐車場で、中学生と思しきカップルが、大勢の不良少年たちに取り囲まれているのを見た時も、あっという間に飛び込んで、今度は自分が殴る蹴るの乱暴を受けてた。私が店長さんを呼びに行かなければ、どうなっていたか判らない。
突然「市議会議員に立候補する」と言い出した時も、そう。
この人には、私が付いていてあげないといけない。
うん。仕方ない。そうしよう。
「でも、せっかくだから、カーナビもAIも新品にしちゃおうかな」
修理工場へと電話するため、小春は携帯電話を手に取った。