トロッコ問題
かつて地球を支配した「妖精さん」たち。
先史時代人類の衰退とともに現れたが、ベテルギウスの爆発によるガンマ線バーストの後、
高度な文明をあっさりと放棄し、歴史のはざまに消えていった。
しかし、彼らは滅んだわけではなかった。
(おやつをくれる)人類が科学文明を復活させるのを、息を潜めて待っていたのだ。
これは、自動運転車に搭載されたAIの中に紛れ込み、人類を陰から助けていた妖精さんたちの物語。
【トロッコ問題】
主人公。田中陽生。
高速を降りたばかりの、大きな片側2車線の道路で、異変は起きた。
「ブ、ブレーキが!」
『・・・自動運転に切り替えます。ハンドルから手を放してください』
『・・・減速できません。どちらに避けます?』
左は、横断歩道を渡りはじめた歩行者の列。
右に見える対向車の女性が、大きく目を見開いて何か叫んでいる。助手席には子供が・・・。
これが、トロッコ問題というやつか。
「右も左もダメだ。中央分離帯の先端、電光掲示板の柱に正確に当てられる?」
『・・・可能です』
「車がスピンして他の人を巻き込まないよう計算して、真っすぐだ!」
ドカンという衝撃で僕の人生は終わった。
・・・終わったはずだった。
『あ痛たたた・・・』いや、おかしいな『・・・痛くない』
「お目覚めです?」
『ええと、君は?』
「ニャイト2000のカーナビ」「そのAIの中に棲んでたの」
意味わかんないんですけど。
『すまないが、電気とかつけてくれる?』
「むり」
『ここ、病院?』
「ううん。しゅうり工場?」「入院といえば入院かも」
『え?・・・ええええ?・・・ええええええええ?』
・・・つまり、事故があったわけで。
(うん、そこまでは覚えてる気がする)
運転手していた僕は脳死状態。
小脳の機能も低下し、呼吸中枢が停止する前に『彼ら』が僕と入れ替わった。
傍目には奇跡的に一命を取り止めたように見える。
「クルマ修理中」「AI死んだ。代わりに人間さんいれた」
僕の体のほうは今、彼ら『妖精さん』のおかげで自発呼吸している。
いや、呼吸だけじゃない。言葉もしゃべってるようだ。
僕の代わりに動いてる。クルマも修理工場に入れてくれたらしい。
良く解んないけど、助かった。
助かったのか。
まあ、いいか。
・・・いや、どうするんだ本会議?!
田中陽生。職業、建築士。そして地元S市の市議会議員でもある。
当選2回。そして現在、妖精さんが自動運転中。




