スローガンその3「学園へ乗り込む調査員達」
本社やら支社やらで監査を行う日々に、変化が訪れた。
エリート監事であるこの私、蝶茶韻理早智へ「天寿」の伊ヶ崎波奈社長から、直々に指令が下されたのだ。
「『業務命令。立成18年度4月1日より2ヶ月間、星花女子学園での内部監査を命ずる』……!?」
私は、タブレットPCに表示されたPDFファイルを見て音読した。
あの女社長は、社員への通達をPDFと電子署名で済ませる癖がある。辞令も、解雇通告も、だ。本人曰く「恥ずかしがり屋さんだから」らしい。物理的な通知を作るのが面倒くさいだけだと思うわ。
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「うっ、重いわねこのソファー……。……でも、エリート・マッスルならどうにかなるわ」
いくら私がエリートといえど、上の命令には従わなければならないわ。だから、こうして「星花女子学園」に程近いこのマンションの一室をアジト……拠点として会社の経費で借りて、2ヶ月間暮らすための家具の搬入をしているのよ。
文書内に書かれていたその学園は、うちの社長が理事長として君臨している中高一貫の女子校だ。敷地が相当広いというのもあって、会社は2ヶ月という長い内部調査期間を設けたようね。
「『二ヶ月の間、教職員や生徒がどのように学園内で過ごしているか観察すると同時に、予算の適切な運用がなされているか調査し、それを会社の上層部に報告するように』……か。初めての仕事だね、蝶茶韻理」
「そうね。……でも、私達エリートに不可能は無いわ。そうでしょ? 碧」
「君がそう言うのならそうなのだろうな」
搬入を手伝っているこの女は、番門碧。私と同じく本社の監査室で監事をしているエリート社員で、今回の内部監査のバディよ。……悔しいことに、彼女は本社で17番目に偉い人間だけど。
「さてと……これで荷物は全て、かな。蝶茶韻理、君はそっちの部屋を使うといい。僕はこちらの部屋を使うことにするよ」
「そうしましょ」
「……いよいよ、明日から……だね」
「ええ。……私達の戦いは、これからよ」
「ご愛読、ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください」
「は?」
「いや、言うべきかと思ってね」
エリート・マッスル【名】:エリートの、エリートによる、エリートのための筋肉。