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月下の女神

作者: 潮浜優
掲載日:2019/07/19

この世界には、ごくまれに異世界から転生者が現れるという

転生者は不思議なチカラを持ち、魔法をあやつり、奇跡を起こすと言われていた

そのため、ある者は崇拝され、またある者は恐れられていた

月下の女神




あたしは夜の森を走っていた


「はぁっ、はぁっ」


わけも分からず走っていた


「はぁっ、はぁっ」


父が亡くなったあと、母が連れてきた男は最初こそやさしかったが


母が亡くなってから様子が変わった


暴力的な言動が増え、あたしを変な目で見るようになり

そして今日、突然あたしの部屋に入ってきて………


無我夢中で抵抗し

父の形見、護身用の短剣で


男を刺した



満月の光は森の木々で届かない

そんな暗闇の中、なぜ走っているのか自分でも分からない


ただ、あの家にいたくなくて飛び出した

死体といるのが怖くて…


自分が殺した死体と…




「は!」


行き着いた先は崖の上

断崖絶壁の上だった


眼下には山のふもとの町並み、リアンの町の灯りがみえる


山の中の家、町と交流が少ないとはいえ、いずれは誰かがやって来る

どんな理由があったとしても、人殺しに変わりはない


「もう…」


ここから1歩踏み出せば、楽になれる

何もかも無かったことにして、楽になる


そんなことが頭に浮かぶ


下を見るのが怖くて上を見上げると

綺麗な満月が夜空に浮かんでいた


「神様、月の女神様ごめんなさい」

「きっと、もっとうまくやれば、こんなふうに命を無駄に使わずにすんだのに…」


「もし、生まれ変わることができたら…」


「それが許されるなら…」


「どうか…」


「どうか人のために、あたしの命を使ってください」


あたしは崖から落ちながら最後のお願いをした






挿絵(By みてみん)






「は!」


「あ、お目覚めになりましたか?」


あれ?あたし生きてる?

目を開けるとベッドに寝ていた


「ここは?」


「ここはリアンの町です」

メイド服を着た大柄な女性がニッコリ笑っていた



リアン、そうかリアンの町か

あたしが住んでいた家は山の上

その山のふもとにある町だ


窓から見える景色は、山の上から見える見慣れたリアンの街並み

16歳になるまで、3回ほど来たこともある


「あなた様が空から落ちて来たと聞いた時は驚きましたよ」


あぁ、そうだ、あたし崖から飛び降りたんだ

この町の人が助けてくれたのか…


「空から落ちてきたってことは、あなたは転生者ですね?」


「え?」


この世界には、ごくまれに「転生者」が現れる


異世界からやってくるという転生者は不思議な力を持ち、魔法を使い奇跡を起こすそうだ


そのため、ある者は崇拝され

ある者は恐れられてた



「いや、あたしは…」


「この町に転生者様が現れるなんて」


「だから、あたしは転生者様じゃなくて…」


「謙虚ですね、あなた様はきっとこの町に幸運をもたらしてくれる、良き転生者様だ」


「あたしは崖の上から…」


「町長に目覚めたことを知らせて来ます!」


「ちょっと待って!」


「町長も喜びます、わが町に良き転生者様が現れたって」


バタン!


話す暇もなく女の人は出ていってしまった


「ちゃんと説明しなきゃ」

あたしはただの人だって…






「転生者様、どうかご慈悲を」

「ありがたいことじゃ」


町長だけじゃなく、町の有力者もぞろぞろとやってきた


「いや、あたしは違うんです!転生者様なんかじゃなくて…」


「さすが謙虚だ」

「おそばにいるだけでも、御加護がありそうじゃ」


「だから、違うんです、あたしはなんの力もなくて…」


「転生者様、お力なんて使わなくてもいいんですよ」

「そう、あなた様はわが町にいてくださるだけでいいんです」








「え、あたし、ここに住むんですか?」


「はい、町長が住む屋敷でしたが、今日から転生者様のお住いです」


町の中心にあるお屋敷、いや大豪邸

あたしがいた家は、代々町長が住むという大豪邸だった


「私達がお世話させていただきます」

そこにはさっきの大柄な女性の左に、2人の召使いが立っていた


「おそばで仕えることができるなんて、光栄ですわ」

真ん中の女性は、クルクルとしたツインテールを揺らしながら話した


「ボクたちにおまかせください!」

一番左には、ボーイッシュなショートカットの小柄な女の子が立っていた


いやいやいや、

あたしはあの山に住む、ただの娘だ


「転生者様、替えのお召し物をご用意いたしましたので、こちらへ」

「きっと、とってもお似合いになりますわ」

「ボクが選んだんですよ!」


有無を言わさず3人に衣装室へ連れていかれた



「うわぁ」

なんてキレイなドレスなんだろう


「さすがお似合いです、転生者様」

「想像以上ですわ」

「ボクいいセンスしてるでしょ!」


気は引けるけど、こんなドレスを着ると、やっぱりちょっと嬉しくなる


「では、転生者様、お食事…」

「その、転生者様はやめてください」


「?……ではなんとお呼びすればよろしいですか?」

「そう言えば、お名前を聞いておりませんでしたわ」

「ボク、転生者様のお名前を知りたい!」


「あたしはリエル、ねぇ、あなた達はなんて名前なの?」


「私はムーラ、召使いを束ねる責任者です」

「わたくしはリラと申しますのよ」

「ボクはルラ、リラの妹だ!」


「そっか、ムーラさん、リラさん、ルラさん、よろしくね」

「ではリエル様、こちらへ」


「様」は取らないのね…

まぁ転生者様よりはいいか



驚くほどの豪華な料理が広大なテーブルに並んでいた


「す、すごい…」


席に座るリエル

でも召使いの3人は立ったままだ


「?早くみんな座ってください」


「まさか、リエル様と同じテーブルなど、めっそうもございません」

「わたくしは食べ終わった食器を片付けますわ」

「ボクはワインを注ぐよ!」


いやいやいや、どう考えても10人前はある大量の料理

しかもみんなに見られながら1人で食べるなんてできない!


「あたしはみんなと一緒に食べたい」

「さぁ、みんなも席について、一緒に食べましょう」


「…リエル様がそうおっしゃるのなら」

「リエル様に従いますわ」

「ボクが一緒でいいの!」


「もちろん!4人で食べた方が美味しいから」






夜中、今日起こった夢のような目まぐるしい1日を振り返っていた


「やっぱり、こんなの良くない…」


ベッドを抜け出して、自分が着ていた服に着替えた


「申し訳ないけど、いつまでもみんなをだますわけにはいかない…」


そっと寝室を抜け出して廊下に出た


暗い廊下を歩いていると話し声が近づいてくる



「ヤバい、まだ誰か起きてるの?」


物陰に身を隠す

歩いて来たのはリラとルラだった


「しかし、さすがリエル様ですわ」

「ボクたちと一緒に食べてくださるなんて!」


「それにリエル様が来てくださったおかげで、ムーラはこの仕事に付けたのですわよ」

「ムーラは弟と妹がたくさんいるから大変だよね!」


「リエル様にこの町を気に入ってもらって、ずっといてもらわなければなりませんわ」

「弟たちを路頭に迷わすことはできないもんね!」


「それに、もしリエル様が出ていってしまったら、私達も町長に叱られますわ」

「大丈夫!ボクしっかりリエル様のお世話をするから!」


………


2人が通りすぎたあと、リエルは黙って寝室に戻った


「もう少し…ここにいよう…」






翌朝起きると、昨日のドレスではなく、自分の着ていた服に着替えた


ノックがする


「はい!」


ムーラが入ってきた


「リエル様、おはようございます」


「おはようございます、ムーラさん」



「リエル様、今日は町に行きます、町民に転生者様のお披露目です」

「は?」

「町民も転生者様が現れたと聞いて、とても喜んでいます」


…そうか、そうよね、転生者が現れたなら大ニュースだもんね


「お披露目用のお召し物をご用意しています」


「あたしはこれでいいわ…」



きっと1人くらい、あたしのことを知ってる人がいるかもしれない

そうすれば誤解もとける


そして、ニセモノだとバレて…

みんなにガッカリされて…


でも、その方がいいんだ





町の中心、お店が建ち並ぶメイン通りをムーラ達に連れられて歩く

リエルを見ると、町民達は深々と頭をさげてきた


キャッキャッ!

子供達がリエルの前に走ってきた


ステン!

男の子がリエルの前で転んで、ヒザから血を流し泣きだしてしまった


「ウエーン!」


「こら!転生者様の前で!申しわけございません」

母親らしき女性があわてて来た


「いいんですよ、それより…」

リエルは男の子の前に行ってしゃがんだ


「大丈夫?立てる?」

「うぅ、いたい…」

「そっか、あたしはなんの力もないから、おまじないだけ」

「おまじない?」


男の子の頭をなでながら、そっとつぶやいた

「痛いの痛いの飛んでゆけ」


あっけに取られる男の子


「早くお薬付けるのよ」


「う、うん…」


「お母さん、早く治療してあげてください」


「は、はい!ありがとうございます!」


「リエル様、そろそろ行きましょう」

ムーラに言われ、リエルはその場を立ち去った




「ダメじゃない、転生者様の前で駆けたりしちゃ」


「うん、でもママ…」


男の子はスックと立ち上がり

「あのお姉ちゃんのおまじないで、痛くなくなったよ」





ひととおり町を見てまわったけど、あたしのことを「山の上に住む娘だ」と気づいた人はいなかった


確かに16歳になるまで3回しか来たことがない

「知らないのは当然か…」


それどころか、町民から崇拝され歓迎された

「なんの力もないあたしを…」


ムーラさんの働き口を見つけたら、町を抜け出そう


どこか死に場所を見つけよう



でも、それから毎日、お屋敷に子供達が遊びに来た

みんな「リエルお姉ちゃん」と言って懐いてくれた


大人の人たちもやって来た

みんな何かをお願いするわけでも、魔法や奇跡を期待するわけでもなく


ただ会ってお話しを聴くだけで「ありがとう、ありがとう」と言って喜んでくれた



「ねぇムーラさん、もっと良いお給料の所を探しましょう」

「リエル様、私はリエル様のおそばが1番いいです、どうかここで末永く働かせてください」


末永くは働けないのよ…

だってあたしは


山の上に住むただの娘、ニセモノなんだから…




そんなある日、不穏なウワサが流れてきた

となり町で「悪しき転生者」が現れ

人々を襲ったという


そのウワサは本当だった





いつものように寝室に行こうとすると、外が騒がしくなった

「なんのさわぎ?」


あわててムーラ達ががやって来た

「リエル様、大変です!町が襲われています」

「え!」


「おそらく、ウワサの悪しき転生者ですわ!」

「大変!町の人達を早く避難させて!」

「何をおっしゃいます!私たちでリエル様をお守りします」

「ボクが守る!リエル様は逃げる準備を!」


そんな!

町の人達を、みんなをおいて逃げるなんてできない


ムーラが2人に指示を出した

「とにかく、お屋敷の守りを固めましょう」

「そうしますわ」

「うん!わかった!」



すると玄関から慌てたノックの音がした

町長の使いが来たらしい



「いやだから!」

「でもしかし!」


玄関でムーラさんと使いの者が押し問答をしている


「ムーラさん、どうしたんですか?」

「リエル様、なんでもありま…」

使いの者が口をはさむ

「悪しき転生者が、この町の転生者様を、リエル様を連れてこいと!」


「え?」

あたしを?


「リエル様を差し出せば町をこれ以上襲わないと…」

「リエル様、悪しき転生者の口車に乗ってはいけません!ヤツはきっとリエル様のお力を恐れているのです」


「リエル様、行ってはいけませんわ」

「ボクたちで守るから、大丈夫だよ!」


「…行きます」


「リエル様!」


「あたしを、その悪しき転生者の所に連れて行ってください」



もしこのまま隠れていたら、必ず悪しき転生者はもっと攻撃してくる

あたしが行けば、もう攻撃してこないかもしれない


あたしには不思議なチカラなんてない

みんなを守るチカラなんてない


なら、町を守れる可能性があるほうに……







騒然としている町

西の方で家が燃えていた


「リエル様、リエル様、早くお逃げください」

「あたしは大丈夫、それよりみんなを早く避難させて!」


「リエル様だ!」

「リエル様が来てくれた!」


「あたしが来たから大丈夫です!とにかくみんな逃げてください!」


慌てふためいていた人達も、リエルを見ると落ち着きを取り戻した


リエルは家が燃えている方向へ走った



町の端に来ると、悪しき転生者とその手下と思われる者達が暴れていた


「おい!この町の転生者はまだか!」

おそらくリーダー、悪しき転生者がそう叫んでいた


「ここからはあたし1人で行く、みんなはけが人の手当と、火を消して!」

「リエル様!リエル様!」

「大丈夫、必ず町を守るから」





3人に指示を出し、悪しき転生者に近づくと、男の顔が炎の光で見えてきた


「は!」


その顔を見て凍りついた


「まさか…」

それは、母が連れてきたあの男だった


「生きていたなんて…」



男はリエルに気づき、ニヤリと笑いながら顔を向けた

「よう、リエル、やっぱりこの町の転生者はお前だったか…」


「ひっ!」


足がすくむ

震えが止まらない



「あの時はよくも殺してくれたな」


それでも力を振り絞って叫んだ

「や、やめてください!町を襲うのをやめてください!」


「ん?やめてほしいのか?」


「あたしが来たらやめると聞きました!町を襲うのをやめてください!」


「かわいい娘の願いだ、聞いてやらんでもないぜ」


「ほ、本当に?」


「リエル、こっちに来い」


え?


「俺のモノになれ、そうすれば町を襲うのをやめてやる」


ゾワッ

あの日と同じように、あたしを…


「さぁ、どうする?お前の身体と引き換えにやめてやろうってんだ、早くしろよ」


ボワッ

また一軒、家に火が付いた


「や、やめて、やめて!」


あぁ、そうか


「言うことを聞くから、やめてください!」


みんなのために、人のために命を使うようにって、月の女神様にお願いしたから…


ふるえながら、男に歩み寄った



「おい、そこに縛り付けろ」


ロープで木に縛られた

あぁ、結局こうなるのか…

あたしは無力だ


でも、これで町を救える…





「さぁ、もっと燃やせ!逆らうヤツは殺せ!」


え!


「や、約束がちがう!襲うのをやめるって」


「俺はなぁ、従順な女はキライなのさ」


この男、何を言っているの?

言ってることが理解できない…


「ほら、その顔、そういう絶望の顔が好きなのさ」


あ、あ……


「あの日の顔も、最高だったぜ」


「うわああああぁぁぁ!」


月の女神様の嘘つき!

人のためになりますようにってお願いしたのに

そのためなら、この町の人達のためなら

この身を捧げてもいいのに!


月の女神様を恨みながら、夜空を見上げた

雲に隠れていた満月が雲間から見えてきた


「あ、あれ?なんで?」


見慣れたはずの満月は


「ここは……」


夜空に2つ浮かんでいる


「ここはあたしのいた世界と…違う…の?…」


2つの満月の月あかりは


「似てるけど、違う世界……」


リエルを力強く照らした


「あたし、あの時死んだんだ!」



ドドーン!

強烈な音が町から聞こえた


「は!」


見ると、男が魔法を使って家を燃やしていた


「そうか、あの男も転生者」


あの男も使えるなら、あたしも転生者なら!


リエルの体が輝きだした


「う、なんだ」


全身オーラをまとうリエル

ロープを消しさり、立ち上がった


「ふん!おとなしくしていればいいものを!」


「あなたは許さない!」


「俺にかなうとでも思っているのか!」


男が魔法で攻撃してきた

「二度と俺に逆らえないように、恐怖を与えてやる!」


リエルから月明かりと同じ色の光がはなたれる

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

渾身の力を込めたその光は、男を包み込んだ!


「ぐわぁぁぁ!」


悪しき転生者はあとかたもなく吹き飛んでしまった


「うわぁ、転生者様が!」

「逃げろ!」


手下達はあわてて逃げ出した




「リエルさまー!」


ムーラ、リラ、ルラと町の人達がやって来た


「みんな!」


「リエル様、ご無事でしたか」

「私達がふがいなくて、申しわけございません!」


「そんなことない!みんなありがとう!それより早く火を消して、けが人を集めて!」



けが人を前にして、リエルは手をかざした

「大丈夫、すぐに治りますから」


そしてリエルはそっとつぶやいた

「痛いの痛いの、飛んでゆけ…」




月下の女神

おしまい


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― 新着の感想 ―
[良い点] 濃いストーリーがギュッと凝縮されているようでした。 素晴らしい。お見事です。 [気になる点] 異世界恋愛カテゴリですが、恋愛要素はどこ?
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