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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第八十四夜 自販機の人影

 それは、夏の終わりのことだ。

 芥田はバイトからの帰り、喉の渇きを覚えた。ただでさえ暑いのに、この頃は夜になっても気温が下がらなかったから、たまったものではない。

 じっとりとした汗で服が貼り付く。

 四十度を超える気温が続くと虫も出てこないようで、最近は夜になってもセミの声がしない。うるさくないのはいいが、それはそれで不気味だ。

 おまけに暑いからいいというわけではない。少なくとも今は、早くクーラーの効いた駅に行きたかった。


 カバンを開けてペットボトルからお茶を飲もうとしたが、もうそこそこしか入っていなかった。とうてい満足できる分量ではない。


 ――確かコンビニってこのへんにあったかな。


 ついでに何か買っていこう。

 このへんに無くても、駅まで行けばコンビニだけでなく弁当屋もある。

 芥田はいまだ気温の下がらない道を歩いた。しばらく道を歩いたが、さすがに住宅街に近いところだとコンビニも見当たらない。表通りのほうならともかく、裏道のほうだとそれらしいものは無かった。

 だが、僅かに灯りがついた下に、赤い箱が見えた。


 ――ああそうか、自販機って手もあるな。


 芥田が自販機に向かって歩いていると、自販機の前には既に先客がいたようだった。黒服が見える。

 誰かいるのでは少々買いにくい。

 どうするかな、と芥田が思っていると、その黒服が何かおかしいことに気が付いた。


 黒服は自販機の前に立っているのだが、立っているだけなのだ。

 要は自販機の前にいるなら、硬貨を入れるなりボタンを押すなり何らかの動作があるはずなのだ。それなのに、その黒服は自販機の前で――それも、少し猫背気味に――突っ立っている。

 屈んでジュースを取ろうとか、はたまた自販機の下に落ちた硬貨を拾おうとか……そういう動作すら無い。


 ――こりゃダメだな。


 おかしな奴と関わり合いになるくらいなら、少し遅れても駅のほうまで行く。

 当然だ。

 だが遠回りできるような道でもなかったので、そのまま少し離れたところを通り過ぎることに決めた。次第に相手の姿がはっきり見えるようになる。


 ――あれ?


 上には灯りがあるから、当然下の黒服は照らされていることになる。

 けれど、近づくことではっきりするはずの黒服は、服ではなく逆光のように真っ黒なのである。これはひょっとしておかしな奴ではなく、本格的にやばい奴なのではないか。

 芥田はそう思って、足早に通り過ぎようとした。


 見ないようにしていたのに、ちらりと芥田はそっちの方を見てしまった。

 芥田の視界に入ったのは、真っ黒な人影のようなものだけが自分のほうへと伸びてくるところだった。

 思わず早足から、そのまま慌てて表通りへと走り出した。

 人影はまるで腕を前に伸ばすように――捕まえようとするように追いかけてきて、芥田は脇目も振らず走り続けた。走って、走って、ようやく表通りにたどり着いたときには、目の前を走る車の流れに安堵の息を吐いたほどだった。

 だがそれ以来、灯りのあるところに、本当はいないはずの影を見ることがあるという。


 その人影はだんだんと近づいてきていて、前に伸ばされている腕もあきらかに自分を捕まえようとしていた。


 ――あいつに乗っ取られたら、どうなるんだろう……。


 一番最近見たのは、マンションの部屋の前なんだ、と芥田は自嘲するように笑った。

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