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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第八十夜 廃ラブホ

 幽霊話で盛り上がることなんて、よくあることだ。

 少なくとも佐木の中では話の流れでそうなることはたまにあるし、その日もそういうことだと思っていた。


 居酒屋で盛り上がったあと、酔った勢いもあってその怪談に出てきた場所に行こうということになった。

 何しろその場所というのが世見町の今は閉店したラブホテルだというのだから、おそらく半分以上はラブホテルに対する好奇心だろう。

 世見町で閉店したところは比較的すぐに別の店になることが多いのだが、そのときは半年ほど放置されていて、「すぐ行ける廃墟」のような扱いだったのだ。

 ヤクザが仕切ってるとかそういうことはまったく考えていなかった。特に所有者がいるというコンプライアンス的なことは、まだまだ認識が甘い時代だった。むしろ今だって仲間内のなかでそんなことを言い出したら「つまらない奴」になりさがるにちがいない。


 そういう空気の中で、佐木を含めた三人でその廃ラブホテルに行くことになった。

 ラブホテルに幽霊が出るという噂は結構あって、佐木たちが行こうとした場所にも当然のように変な話があった。

 知らない女が部屋の中に入ってきたとか、シャワーを浴びてたら湯気で手形が浮き上がったとか、そういう話である。


「こういう廃墟のラブホテルって、大体は山奥にあるイメージなんだけどなあ」

「あー、なんかほんとにラブホかよって思うような、コテージみてえなとことかだろ」

「マジか、今度ネットで探してみるわ」


 しばらくそんな話の続きをしていると、当のラブホにたどり着いた。

 妙にしんとしていて、冷えた風で既に酔いも覚めてきそうだった。


 驚いたことに鍵は開いていた。

 ここまで来ると、さすがに佐木も他の二人も「鍵が閉まってるから帰ろう」という空気でやってきていたのだが、後戻りができない。三人で牽制しあうような格好になってしまい、恐る恐る中へと入り込んだのである。


「おう」

「やっぱ雰囲気あるな」


 などと言い合って、中へと進んでいく。

 スマホを懐中電灯代わりに、とりあえず一周して帰ろうということになった。


 一階を見回りながら思ったのだが、次第にこのラブホテルは構造がおかしいことに気付いた。

 何しろ何度か増築を繰り返したらしく、普通の廊下なのに何故か二段上がらないといけないとか、一段下がったところに消化器が置いてあるとか、変な作りのところが多々あるのだ。

 幽霊がどうとかではなく、その構造自体が妙に気持ちが悪かった。

 その異様な光景も相俟って、廃ラブホ自体も不気味なことこの上なかった。


 それで、しばらく一階を見てまわって暫くした頃だ。

 ちょうど三人で二階へあがろうということになり、階段をのぼろうとすると、二人のうちのどちらともなく「ちょっとばらばらに見て回ろう」というようなことを言い出した。


「えっ?」


 と尋ね返す間もなく、示し合わせたように他の二人がふいっと別々の道を行き始めてしまったのだ。佐木は慌てて立ち止まり、二人の背を見送った。


 ――マジかよ。怖ぇなぁ。


 何しろ他の二人はもうとっくにここからいなくなって、スマホの光がすーっと違う方向に消えていく。

 心の中では怖くて嫌で仕方なかったが、しょうがなく佐木は二人の向かっていない三階へと向かうことにした。


 三階はほとんど長い廊下で、同じようなドアが並んでいる。そこにも微妙な段差があったり、壁に妙な凹みがあったりと、わけのわからない構造があったりした。

 そのとき佐木が思い出したのが、海外の屋敷で、幽霊から身を守るために増築や繋がっていないドアなどを付け足し、わけのわからない構造にした話だ。とはいえここは日本だし、まさかなという感じだった。

 確かに構造としては変だが、かといっていざ変な音が聞こえたりとか妙な人影があるとかいう事はなく、あっけなく反対側の階段までたどり着いた。

 二人はもう他を見守っただろうかと思いながら階段を下りようとすると、下から「おーい!」と声が聞こえた。


 一瞬どきりとしたが、聞き覚えのある声は一緒に来た友人だということがわかった。


「佐木ー!」


 自分を呼んでいるようだ。

 ホッとして階段をおりていく。すると、スマホの光が自分を照らした。


「おー。上はなんもなかったぞ」


 いいながら佐木が戻ると、他の二人は妙に切迫した顔をしていた。

 それどころか、急に怖気だったかと思うと。


「うわあああああ!?」


 ……と、大声をあげて逃げ出したのだ。


「えっ、ちょっ……お、おい、待てよ!」


 慌てて二人の背を追っていく。

 こんなところで置いていかれたらたまったものじゃない。大急ぎで二人を追っていくと、やがて入ってきたドアのところにたどり着き、外で息を切らしている二人が見えた。


「おい、ふざけんなよマジで!」


 どうせ二人が示し合わせて逃げ出したんだろうと思った。

 だが、佐木が二人のところまで来ると、更にビクリとして逃げようとした。


「お前なん……なんなの!?」

「マジで冗談よせよ!? 急にいなくなったと思ったらよお!」


 あまりの剣幕なので、佐木は言い返した。


「はあ!? お前らが違うところを探そうって言ったんだろうが!」


 ……すると、二人はお互いを見たあとにこんなことを言い出したのだ。


「はっ? 勝手に上がってったのはお前だろうが」

「そうだよ。お前が一人で急にどっか行っちまうもんだから、驚かすつもりでいるのかと思って」

「……何言ってんだ?」


 佐木はさすがに動揺した。


「それで探してたらお前が三階から下りてきたんだよ。そしたらお前……青白い女を一緒に連れてたんだ」


 二人があまりに真っ青な顔をしているので、佐木ももうそれ以上言い返せなかった。


 ……それからしばらく、佐木の周りでは奇妙な現象が続いた。

 女の髪の毛が風呂場に落ちていたり、電話をしている時に「部屋に誰かいるのか」と聞かれたり、寝ている時に奇妙な息づかいを感じたりもした。


 それは、ついに耐えられなくなった佐木が神社に駆け込んでお祓いをしてもらうまで続いたそうだ。

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