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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第七十七夜 焼けた子供

 今から十年ほど前のことだろうか。

 植野は当時、世見町でヤミ金の取り立てをしていた。

 金を返さない債務者に対し、家具の没収をしていた時のことである。


「でもこんなのって売れるんですか?」


 植野は尋ねた。


「売っても二束三文だよ、こんなの。だから好きなモン、持ってけ」


 ヤミ金といってもテレビや映画であるような暴力的なものはなかった。植野の所属するヤミ金にはそれなりのやり方があった。もちろん、こういうものは上司のやり方がそのまま受け継がれるので、たまたま植野のところはそうではなかったというだけである。

 家財道具の没収も、どちらかといえば屈辱を与えるのが目的だ。特に若い連中は金が無いので、ありがたく持って帰ることにした。

 植野が持って帰ったのは小さな文机だった。テーブルに良しテレビ台に良しという優れものに見えたし、引き出しがあったので便利そうに見えたのだ。何をどう収納しようかとあれこれ適当に出していると、奥の方に何か残されているのに気が付いた。


「……なんだこれ?」


 中身は木箱だった。何も考えずに開けてみて驚いた。


「うわっ」


 中に入っていたのは、真っ黒になった小さな生き物だったのだ。

 そのときの植野には、学術的な資料だとか供養だとかそういうことは頭になく、単に気持ちの悪いものと映った。


「なんだよ、これ」


 カラカラで、質量はほとんどない。

 人間の赤子のようなものだが、本当に真っ黒だった。


「ミイラか? なんでこんなもん入れてんだよ」


 掘り出し物だと思ったのに、とんだ逸品だ。さすがに気味が悪くて捨ててしまったが、それでもそのときの植野にとっては貴重な家具。本当はテーブル代わりに使うつもりだったが、隅のほうへと追いやって、物置に使うことにした。

 それからしばらくした頃である。


 夏でもないのに、やけに寝苦しい日が続いた。

 朝起きると暑さで汗がびっしょりで、頭から足まで全身に汗をかいていた。高熱でも出たようなほどで、下着どころか布団までぐっしょり濡れているほどなのだ。

 しかし起きてみるとそれほど暑くもなく、日差しも別にそこまでではない。

 特に植野の部屋は日差しが入らない構造なので、夏はともかく、夜中は寒いくらいなのだ。

 汗のせいか布団はカビ臭くなるわ、それが原因で今度は体がかゆくなるわ。しかし夜になるとあっという間に眠いこんでしまう上に、起きた時には汗がびっしょりというありさま。


 それどころか、次第に妙な夢まで見るようになってきた。


 植野は火のかけられた小さな箱に閉じ込められていて、目を開けることも助けを求めることもできないまま暑さに苦しんでいる夢なのだ。


「……!」


 なんとか「おおい」とか「助けて」とかそんな声をあげようとするのに、喉の奥が詰まったように苦しい。やがて視界が真っ赤に覆われ、火にまみれたところで意識が途切れるのだ。

 そして朝起きると、心臓の高鳴りと汗をびっしょりかいている――という有様だった。

 ちゃんと眠っているにもかかわらず、次第に水分不足と寝不足でボロボロになっていった。


 その頃には、体じゅうにやけどのような皮膚病が表れはじめた。

 火に触れたわけでもないのに、じくじくと皮膚が痛み、病院へ駆け込んでも「普通のやけどですね」の一言で困惑したように診察が終わる。

 そんなわけが無い、ちゃんと診ろ、しっかり何事か調査しろと、採血したり癌の調査までしたりしたが、結局はただのやけどであるとの診断が下った。


 植野はほとほと困り果ててしまった。

 おまけに普段の症状は水分不足。

 あきらかに自分は乾いていて、ありもしない火にあぶられ続けているというのに、この症状はどこからやってきているのかわからないのだ。

 いったいどういうことなのかと首をひねるしかなかった。


「お前、一回神社でも寺でも行ってお祓いしてもらったらどうや」


 さすがにここまで来ると、そうしないとやっていられなかった。

 植野は藁にも縋る気持ちで、世見町にある神社へと向かった。

 神主だという初老の男に今までの経緯を説明すると、ひとまずお祓いだけはしてもらえることになった。

 最初はさすがに半信半疑だったが、神主が準備のために席を外したあと、おそらく神社関係者の若い男の言葉に震え上がることになった。


「きみ、なにか妙なものを捨てたね?」

「捨てた? 何を……?」

「きみの後ろで何かが燃えているんだ。子供のような真っ黒なものが。……ああそうか、きみ、保管されていた子供の焼死体を捨てたんだな。体が無くなってしまった子供が、代わりにきみのところに憑いてる」


 植野は引きつっていた。

 心当たりがありすぎたし、これはもうここで何とかしてもらうしかないと思った。神主と入れ違うように若い男はどこかへ行ってしまったが、去り際の一言だけは覚えている。


「気を抜かずに祈りたまえよ」


 まるで他人事のような物言いだったが、植野はお祓いの最中、じっと真面目に祈り続けたことは言うまでもない。

 ともかくそれから変な夢を見ることはなくなった。


 あとで聞いたところによると、例の文机の持ち主だった債権者は、かつて二回も火事を起こし、そのたびに借金をしてとうとうヤミ金でしか借りられなくなってしまったという。

 それがあの黒い死体とどんな関係があるかはわからなかったが、下手に物を捨てないほうがいいということは、それ以後胸に刻むようになったのだった。

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