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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第七十五夜 失敗写真

 猪狩がとある店で客をもてなしていた時の話だ。

 もてなす、というのはまあそのままの意味だ。猪狩はキャバ嬢のひとりだったし、客についてもてなすのが仕事だったのである。


 そのとき、猪狩の座ることになったテーブルには、ずいぶんとイケメンの若い男がいた。お世辞でもなんでもなく、素で「いいな」と思うレベルの男だった。

 だからちょっとだけ舞い上がっていたのは認める。他のテーブルや客のことなんて一切気にならず、仕事というにはあまりにも楽しい時間で、いろいろなことを話した。


 ところが何がきっかけだったのかはわからないが、その中で怪談の話になったのを覚えている。


「こういう所でも変なことは起こるんじゃないか?」

「えー? やだ、怖いなあ」

「ほら、あのあたりとか」


 きっと彼は冗談のつもりだったのだろう。

 だってそのとき、件のテーブルは妙に暗くて沈んでいた。あきらかに何か起きたのだというのは、傍から見ても理解できた。黙りこくって、そのテーブルの客が立ち上がった。しかし猪狩は怖い話だとかそういうのは関係がなく、

 だが確かに奇妙なことが起こっていたらしいというので、偶然というのは恐ろしい。


 猪狩が聞いたのはこんな話だ。

 そのテーブルにいたのは、よく店にやってくる常連客というやつだった。

 その頃、店ではお店の女の子たちとの自撮りに値段をつけていたので、よく写真を撮る客がいた。


 その常連客も、毎度のようにやってきては写真を撮っていたのだが。


「あれ、おかしいなあ」


 その日に限って、うまく映らない。

 どうしてもその男の顔だけが陰ってしまう。女の子たちは別に普通に映っているのに、客だけが逆光になってしまったようだ。

 それで二、三回撮りなおしてもうまくいかない。客の男だけが何度撮っても暗くなる。


 いつもだったらそれくらい撮れば満足する客も、さすがに首をかしげた。


「光の加減なんじゃない? 撮ってあげるよー」


 女の子の一人が見かねて手を差し伸べた。

 女の子はちゃんと映ってるしいいよ、と男は言ったのだが、それでも写真に違和感があったのだろう。そんなに言うならということで写真を頼んだ。


「これで大丈夫かな? それじゃあ撮るよー。はいっ、チーズ!」


 かしゃり。

 スマホから音がして、寄り合っていた客と女の子たちが一旦離れて期待の目を向ける。

 だがカメラマンを買って出た女の子は、眉をしかめた。


「えっ? 何コレ?」


 確かにそう言ったのだという。

 だがすぐにぱっと笑顔になって、気を取り直したように続けた。


「ごめん、もっかい撮りまーす」

「ええー?」

「もう、しっかりしてよー」

「まあいいじゃん。撮ろう撮ろう」


 単に失敗してしまったのだろうと皆思った。

 しかし、何度撮ってもカメラマンの女の子は納得せず、しかもだんだんと口数も少なくなって青白い顔になった。


「ねえ、どうしたの?」


 単純に何度も失敗されるのも苛々してくる。

 加えて裏事情としては、あんまり客から巻き上げても今後に響く。それでなくとも失敗ばかりという有様では、ボッタクリを疑われても仕方ない。

 だがカメラマンの女の子は青白い顔のまま、泣きそうになっていた。


「これ……」


 カメラマンの女の子はスマホを渡した。

 そこには、ありえないほど顔が陰になっている男の姿が映っていたのだという。逆光だとか失敗だとかいうレベルではない。

 それどころか、男の表情もおかしかった。

 女の子たちに何度も近くで囲まれてご満悦、という表情ではなく、カメラのほうを睨み付けるようなきつい表情になっていた。

 さすがにこうなると、客を含めた全員が黙り込んだ。


「……」


 客の顔は真っ青だった。

 もはや楽しく飲むという雰囲気は冷めてしまい、誰も静まりかえった空気を立て直すことができずにいた。

 客はむにゃむにゃと「今日は帰る」とか「また今度」とかいうことを言いながら、手早く帰る準備をした。もはや女の子と楽しむ余裕も無くなってしまったのだろう。


 猪狩が見たのは、ちょうどそんな場面だったのだ。


 それからその客は来なくなった。

 あんなことがあれば当然という向きもあれば、あの黒い顔が原因ではないかという話も出てきた。

 顔を近づけて同じように撮って、失敗するからと何度か場所も変えたりしたのだという。それなのに黒い顔で映り続けたというのだから尋常ではない。


 できれば客の身に何かが起こっていないことを祈るが、猪狩にはどうしようもなかった。

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