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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第五十二夜 人形の中身

 これはとある風俗店で伝わっている話だ。


 セックスワーカーとなる女性には大きく分けて二種類の人間がいる。

 自ら望んで仕事をしている場合と、そうでない場合だ。


 彼女――ウタコという女性は後者だった。

 付き合っていた彼氏に「昼間の仕事より稼げるから」とそそのかされて入ってきた女性で、外見も中身も往々にして自ら飛び込んでくるタイプではなかった。その彼氏というのも遊び好きで、遊び人に騙されている感じが強かった。


 そういう女性だったので、仕事に入っても客の無理な要望をきっちり拒否することができず、たちの悪い客に好かれてしまっていた。

 周りの仲間もせめて昼間の店でアルバイトするか、男と別れたほうがいいと勧めたが、ウタコ本人は彼女たちの容貌で既に引いてしまい、「追い出されそうになっている」とすら感じていたようだ。

 次第に仲間たちは呆れて何も言わなくなった。


 ウタコはそういう女性だったのである。

 それでも固定客のおかげで稼ぎはそこそこあり、彼氏に貢いで(ウタコ曰く協力して)いたのだが、ある時期から、ウタコは体調を崩すようになっていた。


 吐き気や貧血が続き、とうとう我慢できなくなって病院に駆け込んだ。

 いくつかの検査の末にわかったのは、単純なことだった。


「妊娠していますよ」


 医者から告げられたのはそんな一言だった。

 本来は喜ぶべきことなのだろうが、ウタコにとってはとんでもないことだった。このままでは仕事ができなくなる。お金が稼げなくなれば、彼氏に嫌われてしまう。そもそも彼氏の子供なのかどうかわからないのだ。

 だが、ウタコは少なくとも彼氏の子供であると信じていた。誰とも知れない客の子供かもしれないのに、ウタコにとっては子供ができたら彼氏の子供であるのと同義だったのである。


「彼氏と相談してきます」


 ウタコはそう言って一週間ほどの暇を貰っていった。

 妊娠しているとなれば仕事もできなくなる。どうするにせよ結論は出さねばならなかった。


 だが、それからすぐに彼女が中絶したという話が広まった。

 ウタコが戻ってきたのだ。

 まだ十月十日が経たないうちに戻ってきて、おまけに顔には治りかけの痣があったというからお察しだ。それどころか、ウタコは大事そうに見た事も無い人形を抱えていた。

 はっきりと確かめはしないものの、そんなウタコの姿を見て誰ともなく悟った。


 ウタコは廊下に置いてあるベンチに一人で座っていることが多くなった。


「ねんねんころりよ、おころりよ……」


 慈愛に満ちた目で人形をあやすウタコを、周囲は遠巻きに見ることしかできなかった。

 こういった店で働く女性の中には、妊娠後に失踪したとか、仕事を辞めたとか、兄弟姉妹の家族に子供ができたのをキッカケに自分を見つめ直してとか、そういう女性はいることはいる。

 だがウタコの姿を見ると、そういう心境になる女はいなかった。恐怖か同情心のどちらかが湧いてきて、それどころではなかった。


 しかししばらくするうちに、ウタコの周囲に漂う奇妙な臭いに気付く者が出始めた。何か臭い。着替えていないとか、そういうことではない。

 偶々ウタコのいる前を通った女は、奇妙な臭いを敏感に感じ取った。


「うっ……?」


 排泄物の臭いとはまた違う。血のような、何かが腐ったような……。

 臭いの出所を探すと、どうもウタコしかいない。


 嫌な予感が足元から一気に駆け上がり、思わず手を出した。


「あんたっ、何持ってるの!?」


 慌てて人形を取り上げると、その下からどさりと赤黒いものが落ちた。

 腐りかけた小さな人間――まだ未熟な赤子だった。


 それから先は大騒ぎだった。

 あまりの恐怖に泣き叫び、放り出された人形をウタコは物凄い剣幕で拾い上げた。それからすぐに慌てるように立ち去ったウタコは、誰に捕まることもなくいずこかへと姿を消した。

 ウタコは二度と戻ってくることはなかった。


 しかし時折、世見町で人形を抱えて歩く女が目撃されるという。

 そして人形の中身にするために――小さな子供を探している、ということだ。

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