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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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Tips5 怪異を退ける

 世の中に溢れたオカルトや創作物には、いわゆる怪異に対抗できる人間というのがいる。たとえば陰陽師なんかは最たる例だろう。実際の職業としての陰陽師とはイメージがかけ離れていたとしても、創作の力というのは凄まじい。

 現実においても人は恐怖を振り払う際、彼らの力を借りようとする。

 特に神社の神主や、住職、牧師や神父といった『神職』は、創作においても現実においても身近に相談できる対象だ。


「でもね、彼らに頼らずとも怪異の退け方なんて簡単だよ。皆方法を知らないだけさ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。まず第一に、正体を暴けばいい」


 ぼくはぽかんとしたが、ユエは当然のように言った。


「この間、心霊写真のことを話しただろう? あれだって心霊だなんだと喚く前に、調べてみればいいだけだよ。本当のことがわかれば、なあんだと思うはずさ。少しばかりガッカリしてみたりしてね」


 それはまあ、わからなくもない。


「……でもそれは、正体が幽霊じゃなかった場合では?」

「ふははっ! そりゃそうだ。毎夜、天井をトタトタ歩く音が住み着いたアライグマだった――なんて話、今じゃ珍しいことじゃない。でもそれだって、ただ足音がすると怯えるよりはずいぶんとマシだと思わないかい? それに――」


 ユエはにやりと笑った。


「本物の怪異であっても、正体を暴くのは効果的なんだ」

「そう……なんですか?」

「そりゃそうだ。正体を暴くことで、相手を正しく認識できるようになる、という意味では、相手がアライグマだろうが、天井裏に閉じ込められて死んだ女の霊だろうが一緒なんだよ。あとは恐怖を乗り越えていくだけだ」


 ユエは実に簡単なことのように言った。それから彼に似つかわしくない、女性が頼むようなカクテルを口にする。美味いのだろうか?


「簡単に言うなあ。それに、幽霊を祓うのに聖句や祝詞は必要なんじゃないですか? ほら、南無阿弥陀仏……だっけ?」

「信じていない者が唱えても意味は無いよ。その言葉は、自分には神が仏がついていると自分を奮い立たせる為のものだ」

「じゃあ、普通の人は唱えても意味が無い?」


 確かに、今のほとんどの日本人は無宗教を自称する人が多い。

 実際のところは年末には寺に行って除夜の鐘をつき、正月になれば神社に行って一年の無事を願い、クリスマスをケーキを食べて祝うという人が多いだろう。

 無神論者ではないが、特定の宗教を信仰しているほどではない。そういう人たちだ。


「まったく意味が無いってわけじゃないけどね。大事なのはね、自分の中に芯が一本あることだよ」

「芯? 芯が強いとかのそれですか?」

「そう。信じられるものがひとつ心の中にあるなら、それが神様だろうが仏様だろうが構わないんだ。特に怪異なんていう意味不明なものと対峙するなら、友人を助けたいとか、恋人を護りたいとか……、いっそのこと正義のヒーローだってまったくかまわないんだ」

「正義のヒーローって」

「そんな顔をするがね、なかなかバカにできないものだよ」


 ユエはおおまじめに言った。

 彼なりのジョークだろうか。


「神も仏も正義の味方も、本質的には同じなんだ。いざというときに目の前でかばってはくれないが、自分を奮い立たせてくれるものさ。信じる力というのはバカにできない。恐れず立ち向かう、なんて言うとチープに聞こえるかもしれないが――肉体を持たない怪異には有効なんだよ」


 そう言うと、カクテルを飲み干した。


「きみにはあるかい? 信じられるものが」

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