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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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Tips4 心霊写真

 心霊写真を見たことはあるだろうか?

 自分で撮ったことはなくとも、テレビ番組やネットなどで見たことがあるかもしれない。


 写真という人類の技術によって、幽霊という未知の存在が視認できるようになったのは興味深い事実だ。

 ところがこの心霊写真、現在ではたやすくパソコンやスマホを使って作ることができてしまう。かつては写真機の性能などの問題もあり、ほとんどの心霊写真は偶然の産物であるとわかってきている。きちんと説明がつくのだ。

 しかしそんな中でも、「これは」というものがあるだろう。それについてユエに尋ねてみたところ、面白いことを言い出した。


「本物か偽物かなんて、実は大差が無いんだ」

「いやいや、大差あるだろうよ」

「無いよ。問題は受け手にあるんだからね」


 ユエ曰く、これは怪奇現象全般に言えることなのだという。


「たとえばね、きみ。ここに一枚の写真があるとするだろう。そこには人のいないはずの場所……、そうだね、映っていないはずのテレビに恐ろしい顔がある。炎にまみれ、まるで今にも此方に飛びかかってきそうだ。そんな写真があったら、どう思う?」

「そりゃあ、まあ……怖いと思うよ。何かこちらに対して怒っているのではないかと思うね」


 月並みな返事が聞きたいわけではないだろうと、ぼくは付け足す。


「すばらしい。見た人たちは口々に写真に対して怖い、恐ろしい、気持ち悪い、手元に置いておきたくない……、などの感情を抱くだろう」

「信じる信じないは別なのかい?」

「別だ。ここで重要なのはそんなことじゃない。何がしかの嫌な感情を抱くことなんだ。特に誰が見てもひとめで『これはおかしい写真だ』と感じるものであればあるほど……、それが例え本当はテレビに映ったカーテンの皺だったとしても、写真は恐ろしいものになってしまう。自分で呪いをかけているようなものさ」


 自分で呪いをかける?

 ぼくは聞き返そうとしたが、ユエは変わらず愉快そうに笑っていた。


「だいたいね、多くの人たちが不安に駆られた時、『実はこの写真はトリックでした』なんて言ったって、どういうわけかそれすら信じない奴らは多少なりとも出てくるものさ。事実を隠そうとした嘘なんじゃないかと勘ぐられるだけだよ」

「そ、そんなの……」


 どうしようもないじゃないか。


「更に話を加えよう。例えばその写真を撮ったあとに、事故にあったらどう思う?」

「じ、事故って。写真のせい……に、なる?」

「その通り!」


 ユエは心底面白そうに酒をあおった。


「事故に遭う確率なんて宝くじよりずっと高いんだよ! 車社会なら尚更さ。人間がこうして生きているなんて奇跡の連続なんだ。ありふれた奇跡はただの事実と同化してしまう! もちろん事故に遭った不幸そのものを笑うわけではないけどね。相手の不注意や気の緩み! それが自分は何も悪くないのに降りかかってくる理不尽! その理不尽な理由をどこかに求めてしまったとき、偽物の心霊写真にさえ呪いはかかり、本物へ昇華するんだよ」

「……」

「それが事故でなく小さな不幸だったとしても、それが積み重なれば理由を求める。小さな不幸なんて日々どこかで遭遇するものなのにね」


 そう言い終えると、グラスを置いた。


「それに、心霊写真なんて誰にでも見える怪異だからね」


 信じやすい、ということか。

 ぼくは話を少し変えることにした。


 それでは、もし心霊写真らしきものを撮ってしまったらどうすればいいのだろう?


 ぼくが尋ねると、ユエは面白くなさそうな顔をした。

 男のぼくが言うのもどうかと思うが、ユエはそのへんのホストも顔負けなほどに見目麗しい。根城を間違えているとしか思えない。それなのに、こういう時につまらなそうな顔をするのは、どうも性格的に問題がありそうだ。

 ユエはしぶしぶといった風に続けた。


「そりゃあきみ、破いて棄てるのが一番さ。機種によってはそのまま消去すればいい」

「えっ。それだけ?」

「気になるならお清めの塩でも貰ってきてまいてやればいいんだ、神社とか葬儀の後で貰ってくるものがあるだろう、それでいい。それから棄てる。それも気になるようなら神社に直接行ってお祓いでもしてもらってからだ」


 ユエのことだから、もっと渋るかと思った。

 ここまできてずいぶんとあっけない返事である。


「怪異なんていうのはね、恐怖を拡散しないことが一番重要なんだよ」


 どうも、一番は気にしないことのようであるらしい。

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