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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第二十八夜 シネマ七不思議・七つ目

 これは元浦という男の友人で、Aという友人の男が行方不明になった時の話だ。

 Aはオカルトや怖い話が好きで、どこから仕入れてきたのかわからない話をたくさん知っていた。

 元浦はたいていそれに巻き込まれ、面白がって聞いていた。


 そんなAがあるとき、こんな話を持ってきた。


「世見町に鬼王シネマってあるだろう?」

「ああ、あるな」

「あそこ、七不思議があるんだよ」


 そう切り出されると、思わず笑ってしまった。

 映画の誘いかと思ったのに、よりによってオカルトの話を持ち出してきたのだ。でも、そのほうがAらしい。そう思って流した。

 何しろあの映画館は古い。幽霊が出るとか、ちょっと変な噂があるのも事実だ。


「噂があるのは知ってるけど、七つもあんのかよ?」

「おう、学校みたいだろ」


 といっても、元浦の世代は学校の怪談や七不思議そのものがもう一世代前のものになっていた。本やネットの中でそういうものがあったと知るだけで、自分の学校には七不思議なんてものは無かった。


「でさあ、その七つ目がさ、これまたよくあるやつなんだよ」

「よくあるやつって?」

「七つ目を知ってしまうと、行方不明になる」

「ああ、そういう?」


 これまたよくあるやつだ。

 学校の七不思議の場合、実際のところは六つや八つというケースが多い。その場合、七つ目を知ると殺されるとか、八つ目の不思議を知るとどうとかいう尾ひれがつくのだ。他にも、実は二つ三つしかないので、残りは有名なのを引っ張ってきて無理矢理七つにするケースがある、というのがAの持論だ。


「有名なのはトイレに出るって奴だろう?」

「ああ、そうそう。トイレに自殺した男の霊が出るってやつな。だけどな、これ本当は違う話らしいんだ」 

「違う話?」


 どういうことだ、と尋ねる。


「実はな、トイレの不思議っていうのは元々、トイレの鏡に人が映らなくなるって話だったらしい」

「それがどうして自殺した男の霊になるんだよ」

「俺の爺さんが知ってたんだよ。俺の爺さんは昔、東京の下町にいたらしくてな。トイレの鏡の話も知ってたんだ。ところがそれがある時、鏡に映らない人がいる、という話になった。それが次第に幽霊になって、ついには自殺した男だという話になった。そもそも男子トイレの話だしな。話が伝わる内に簡略化されて、尾ひれまでついたんだろう」

「えー、そんなことあるかあ?」

「あるよ。数人でやる伝言ゲームでだって途中からおかしなことになってくだろ?」

「そりゃ……そうだけど」

「口伝ての話っていうのはこういう事が起きやすいんだ」


 つまり、Aはこうやって元を辿ることで本来の七不思議に近づけるのではないかと、そういうことを言いたいらしかった。

 それからというもの、Aは映画館について調べてはその進捗をメールで送ってきた。


『二つ目がわかったぞ。スクリーンの謎だ』


『三つ目は映写室なんだが、スクリーンの謎と同じなんじゃないかなあ。でも違うのだろうか』


『やはり映写室とスクリーンは別の不思議かもしれない』


 最初は元浦も面白がっていたが、それが五つ目になるとさすがに不安を覚えた。

 七不思議なんて心の底から信じているわけではなかったが、もし万が一、本当にAが行方不明になったら……。

 いや、そんなのは考えすぎだ。

 そして六つ目の不思議が解き明かされた頃、ぷっつりとAからの連絡が途絶えた。


 一ヶ月、二ヶ月経っても連絡は無く、もしかしてと思い始めた頃、再び連絡が来た。


『遅くなったな。七つ目がわかったぞ!』


 元浦はホッとして返信で茶化す。


『おせーよ! それとも行方不明になってたか?w』

『すまないな。だが今は上映中だから後で送る』

『なんで上映中にメールしてんだよ! 後にしろよ』

『ああ。本当にすまない』


 謝るなら自分じゃなくて映画館の中の人だろ、と思う。

 だがそれ以降、メールは送られてこなかった。


 ――……ホントに行方不明になってるとかないよな?


 そろそろ「教えろ」とでもメールしてもいい頃かも知れない。

 そんな折り、Aから電話が掛かってきた。


 文句の一つでも言ってやろうかと思っていたが、電話の向こうにいたのはAの親を名乗る人たちだった。

 Aを知らないか、という電話だった。


「一週間ほど前にメールはしましたが。どうしたんですか?」


 元浦が尋ねると、彼らは驚いたような声をあげ、あれこれと逆に尋ねてきた。

 話を聞くと、Aは鬼王シネマに行くと言ったまま行方不明になっていたらしい。それがなんと二、三週間前の話だという。

 元浦は信じられなかった。


「本当にAの親御さんですか? 悪戯じゃなくて」


 呆れ気味に言ってやったあとは最終的にはAの自宅まで赴いたが、結局行方不明なのが事実だということがわかっただけだった。

 世見町は今でも行方不明者や失踪が多いが、そのほとんどは裏通りの怪しげな店などで起こっている。

 だからきっと何か事件に巻き込まれたのだ。

 そう思わないとやっていられない。


 だが、あれ以降一度だけ来たメールを前に、元浦は今も迷っている。


『鬼王シネマに来いよ、今すぐ』

『鬼王シネマで待ってるから』

『鬼王シネマで待ってる』


 あれから元浦は一度も鬼王シネマに行かぬまま、鬼王シネマは閉館し現在に至っている。けれども今の天映シネマにもどうにも行きにくいのだという。


「もしあそこの映画館に行ったら、鬼王シネマに行ってしまう気がして……。だって、六話目までは俺も知ってるわけだから」


 だから、元浦はあれから一度も世見町に行っていない。

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