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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第二十五夜 シネマ七不思議・廊下の影

 日置は鬼王シネマで店員のバイトをしていたことがある。

 彼女の仕事は物販、つまりはパンフレットやグッズ売り場の担当だった。


 今でこそ大きな映画館では専用のコーナーがあり、セルフサービスで商品を取る形式だが、鬼王シネマはカウンターのような場所に店員が立っていて、カウンターの硝子ケースに見本が入っている。客は「パンフレットとペン」というように、一つ一つ注文する昔ながらのやり方だった。

 昔はパンフレットが中心だったらしいが、今ではグッズも多く、そこそこ売れる。


 バイトに入って数日もすると、ようやく慣れてきた。

 何しろ古い映画館とはいえ人数が多い。

 中には商品名を言わずに指だけで適当にそのへんを指し、「ん!」とだけ言ってくるようなおじさんもいる。そういうのは少数なのだが、下手に聞き返すと突っかかってくるのでたちが悪い。

 嫌な客というのは一人いるだけでも目立つものだ。


 反対に、映画の上映中はゆっくりできる。

 客は皆、客席のほうへと移動し、ロビーには人がぐっと減る。

 前の上映から残っている客もいるので、まったくゼロになるということはないが、それでも静かなものだ。

 上映中に退席する者も結構な数がいた。

 日置も映画をよく見るが、上映中に退席するなんてあまり無い。せいぜいトイレに行くぐらいだと思っていたが、たばこを吸いに出てきたり、ジュースを買いに来たり、途中で飽きて出てくる者もいた。

 此処にいないとわからないことだな、と日置は思ったが、それでもやや暇なことは暇なのである。


 スマホを触るわけにもいかず、日置はなんとなくロビーにいる人たちの人間観察をして暇を潰していた。


 それでもその日は、ロビーが珍しくしんとしていた。


 ――今日はみんな中に入ってるなぁ。


 少し気怠げになってしまうが、仕方ない。せめて扉から漏れてくる映画の音を聞くくらいしかやることがない。

 だがふと視線を動かすと、廊下の壁に人影が映っているのに気付いた。


 おや、と思って目で追う。

 自分が気が付かなかっただけで、誰かそこにいるのだろうか。

 人影がどこから伸びているのかと目線だけで探ってみたが、はっきりしている割にどこに人がいるのかわからない。

 とはいえ、何か置いてある物が光に照らされて人影に見えている場合だってある。

 それはそれで気になるのだが。

 すると、その人影が突然歩くように移動しはじめた。


 ――あ、なんだ。やっぱり生きてる人間だ。


 ロビーにはポスター用の柱が立っていたりするから、その陰にいたのだろう。あまりじろじろ見るのもな、と日置は目を離した。


 ――ん?


 カウンターの前にある壁を見ると、そこに人影が映っていた。

 思わず無言になって、まじまじとそれを見てしまう。


 途端に、日置からドッと冷や汗が噴き出した。

 物販カウンターの前には誰もおらず、めったなことでは光が当たることはない。その人影はカウンターの前でうろうろと歩いているし、それならどこかに影を作り出している人がいないといけない。

 なのに一番それらしい場所を見ても、誰もいないのだ。


 結局、日置はそれから映画が終わって人が出てくるまで、落ち着いて何かを考えることができなかった。

 人が出てきてからも、どうやって仕事をこなしたのか覚えていない。


 あれからすぐにバイトを辞めたが、そのときの主任の言葉が今も耳に残っている。


「あ……、そうか。きみも見ちゃったんだねえ」


 それはどうにも、諦めきった感情がこもっていた。

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