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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第二十夜 ダンス教室の不幸

 これは、小出というヒップホップを中心に活動しているダンサーの体験した出来事である。


 世見町の西側、通りを一本入った場所に、ダンス教室があった。

 ヒップホップを中心にした若者向けの教室で、今はもう別の所に移転しているが、当時はその場所に移ったばかりの新しい教室だった。


 ダンス室は板張りの床に一面の鏡というシンプルな作りだが、入ってすぐの受付は原色を使った曲線の椅子が採用されていて、ポップな作りになっていた。


 小出は小学生の頃ここに所属していたが、その間だけでも妙なことが続いた。


 ある日、鏡で自分のフォームを確認しながら踊っていると、鏡の後ろのほうに女の子が立っている。

 生徒が忘れ物でもしたのかと思って振り返ると、もう誰もいない。


 おかしいなと思ってまた鏡を見ると、さっき後ろのほうに立っていた女の子が、自分の目の前にいるのが見えた。

 鏡の中だけにしか存在しない女の子に、当然悲鳴をあげて逃げようとした。

 だが、気が付いたときには女の子は消えていた。


 他にも、先生が珍しく説教をしているとき。タイミングがいつまで経っても合わないので、頭にきたのだろう。廊下を変にパタパタと走り回る音に、これまた珍しく注意をしようと様子を見に行った。

 しばしの間廊下をきょろきょろとしていたが、誰も見つけることができなかった。

 先生が扉を閉めたとたん、パタパタと走り回る音があろうことか教室の中から響き渡ったのだ。


 ビルから出て何気なくダンス教室の窓を見上げると、真っ黒な人影が見ていたこともあった。


 ただそれは、あくまでダンス教室の中の出来事だ。


 二ヶ月も経った頃だろうか。


 ある日、小出がいつものようにダンス教室から出ようとした。すると後ろのほうから、カツ、カツ、と小出と同じ間隔で降りてくる足音がある。

 建物を出て駅へ向かっても、足音はついてくる。

 声もかけられないし、まあそういうこともあるだろう。小出は気にせずに歩き続けた。

 そこでふと、自分の携帯電話を取りだし、近くの喫茶店の壁際に寄った。

 そうすれば後ろを歩いている人は先に行くだろうと思ったが、視界の端に黒い足が見えた。その途端、ぎょっとして顔をあげられなかった。何しろその足は、小出をじっと見るように突っ立っていたし、輪郭がぼんやりしていたからだ。


 やばい、やばい、やばい。

 見てはいけない。


 結局、小出は後ろの喫茶店から客が出てくるまで動けなかった。


 そんなことがあってから、ぽつぽつと生徒たちから変な噂が立った。

 ここに来てから妙に運が悪くなって、財布を落としたり物が無くなったりするというのはいいほうだ。

 原因不明の怪我が多くなって、なかなかダンスに復帰できなかったり。

 教室から出た瞬間に、道路からはみ出してきた車に押しつぶされて入院したなんて生徒もいた。

 もうそうなってくると防ぎようがない。

 ここに引っ越してきてからというもの、生徒は続々と辞めていった。

 しかもそれも、辞めた瞬間にぱたっと落ち着き、原因不明の怪我は急に良くなったりするというから驚きだ。


 とうとう先生にも影響が出始めた。

 関連があるかどうかはわからないが、先生の後ろを黒い影がついて行ってから数日後、かわいがっていた犬が泡を吹いて死に、健康が取り柄だった先生の父親と母親がほぼ同時期に別々の病で倒れた。


 もはや教室を維持することが精一杯となり、やがて引っ越しを決意した。


 すると驚いたことに、それらの不調はぴたっと収まったのである。

 先生の両親の術後の経過も良く、生徒の怪我も急によくなった。あそこで何が起きていたのかまったくわからない――知らないほうがいいのかもしれない。


 これが、小出がたまに番組などで話す「怖い話」である。

 ネットでも芸能人の体験した怖い話として有名だ。


 だが、一般に知られていない話がある。


 小出は大人になってから、あの建物が昔、なんだったのかを調べたことがある。なにしろ妙なことばかり起きた。自分のダンス人生の中でも特異な出来事である。

 きっと事故や事件があったに違いない。もしかすると建築前に祠を取壊したとかそういうことかもしれない。

 ネットや新聞を駆使し、それらしい事件を当たろうとした。


 だが、それらしい事件にはたどり着かなかった。

 事故物件でもなく、その建物の周りでも何かあったというような話は聞けなかった。昔のことだし諦めようとした矢先、突然、事故にあった。

 バイクが急に突っ込んできて、危うく足が巻き込まれるところだった。


 だが、小出がハッとしたのはそのせいではない。


 道路の向こう側。

 建物の窓から、人影のようなものが――黒い人影が、こっちを見ていたのだ。

 場所は奇しくも世見町。

 かつてダンス教室があった場所だった。


 小出がすぐに調査を中断したのは、言うまでもない。

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