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百話奇談Ⅱ ―眠らぬ町の怪―【コミカライズしました】  作者: 冬野ゆな


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第十九夜 怪談ライブバー

 怪談ライブバーというものがある。

 いわゆる「監獄」や「吸血鬼」といったようなコンセプトバーのようなもので、その名の通り怪談ライブを聞けるものだ。


 普段用意されている演目は九十九話。

 怪談を得意とする芸人やロック歌手などが交代制で行っていて、最近は桂馬という怪談でじわじわと人気を伸ばしている若手芸人もいる。彼の十八番である「居酒屋の男」は同じ世見町の話なので、臨場感があるらしい。

 たまにイベントなどで有名な怪談師などがやってくると、より盛況になる。

 そんなところだ。


 和久本がそんな怪談ライブバーに行こうと思ったのは、偶然からだ。


 和久本はもともと、動画サイトでネット配信番組を見ていた。番組内の企画のひとつに怪談があり、何となく面白くて見ていたのだ。怪談師たちが個人ライブを宣伝したりする中に、怪談ライブバーの存在があった。

 見知った怪談芸人も出ていると知り、興味をそそられた。世見町にあるのであれば、電車を使えば行ける距離である。それでまあ、話の種にでも行ってみようと思ったのである。


 店内の装飾もいかにもそれらしく、和久本は物珍しさも手伝って色々とみてまわった。いつ誰が出ているかわからなかったのだが、次のライブはちょうど桂馬が出演するらしく、和久本の期待はがぜん高まった。

 実際にライブが始まってみると、桂馬の語り口も「居酒屋の男」をやっていた時からずいぶん上達していて、いつしか和久本は話に聞き入っていた。


 ところが、だ。


 ――ん? あれ?


 女性が一人、舞台の隅でぽつねんとしゃがんでいる。

 最初はスタッフかと思ったが、狭い舞台のこと。こんなに目立つ場所にスタッフがいたら気が散ってしまうし、スタッフがいるとしても基本的にはこそこそして用事を終えたらすぐに降りる。

 それなのに、女性はじっと隅でしゃがみこんでいるのだ。

 変だなと思いながらも、やがて話が終わり、拍手が沸き起こった。


 話そのものは面白かったし、何らかのイベントか特別な企画で来たらしい桂馬は、その後も残ってしばらく挨拶をしていた。怪談でもない普通のトークだったが聞き入っていると、もうその女性はいなくなっていた。

 和久本は女性のことは忘れ、時間いっぱいまで楽しんでから帰った。


 普段は家でネット配信をタダで見ていることを考えると、値段は少しきつい気もする。だが臨場感と飲み物の豊富さを考えると、話の種としてはいいだろう。

 また行こうと思いつつ、その日は貰ってきたパンフを見ながら眠りについた。


 ところが、和久本はそこでふっと目を覚ました。

 時間を見ると夜中の二時過ぎだ。

 酒も飲んだせいだろうか。尿意を催して起き上がり、トイレで用を足す。

 子供じゃあるまいし、なんでこんな時間にと思いながら再び眠りにつこうとしたが、一度目が冴えてしまったせいかなかなか眠れない。

 やれやれと自分に呆れていると、急に体がびしりと硬直した。


 ――えっ。なんだ、なんだ!?


 指先すら動かない。

 金縛りか?

 これが噂の?

 まさか、怪談ライブなんて行ったからか。

 いやそれはさすがに……まさかだろう。

 普通に疲れているだけだろう。だけど、さっき用を足した時は特段何もなかったわけで。


 焦れば焦るほど何か得体の知れない恐怖が沸き起こってくる。とにかくどこか一カ所でもいいから動かさないと。

 もしかしたら急病かもしれないし、スマホはどこへいったんだ。

 とにかく腕を動かそうと必死になっていると、今度はまたふっと体が楽になった。


 ――……なんだ。やっぱりちょっと……どうかしてただけか。


 そりゃそうだ。

 妙なことなんて起こるはずがない。

 それに、怪談ならネット配信の番組でいつも見ていたはずだ。それがライブを見に行ったからといって、急に何か変なことが起こるはずがないのだ。

 ふうっと息を吐いて、スマホを探ろうとなんとなく目を開けた。


 その途端、自分を頭のほうから覗き込んでいる虚ろな女が目に入った。


「うわっ!?」


 落ちくぼんだ瞳、青白い顔、長い髪。

 それが頭の上からじっと自分を見ていたのだ。


 思わず布団をはねのけ、ベッドから遠ざかる。

 目一杯に身を引いて呼吸を荒げたが、気が付いた時には女は消えていた。

 あとはもう、心臓の音がドクドクと部屋に響くだけだった。

 それから和久本は眠れない一夜を過ごしたあと、朝になってお祓いに走ったのは言うまでもない。


 和久本は今でもその顔を鮮明に覚えているという。


「多分、ライブバーから連れ帰っちまったんだろうなあ」


 何しろその女は、舞台の片隅でしゃがみこんでいた女だったのだから。

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