冒険者ギルド
魔法屋さんを出て今度はギルドへ向かう。
ゲームを進める上では必要のない施設だが、加入しておけばメリットがあるし、デメリットはないので加入しない理由がなかった。
意外なことに、ギルドにはそこまで人がいなかった。
恐らく魔法屋さんの店主と話しているあいだに波は去ったのだろう。
並ぶのが億劫でフィールドに出ていった人達が帰ってくる前に登録を済ませてしまおう。
「こんにちは、冒険者登録をしたいんですが」
「はい、ではこちらの水晶に触れてください」
なんか疲れて目の焦点が微妙にあってない受付嬢が小さめの水晶を差し出してくる。
それに触れて少しすると水晶が青白く光り、登録が完了した。
「それでは『ルフレ』さんは冒険者として登録されました。詳しくはあちらの初心者相談室へお求めください」
「ベータ……最近ルールとか変わったりしましたか?」
「いえ、ここ数年は変更されていません。詳しくはあちらの初心者相談室へどうぞ」
随分疲れてるなぁ。
ベータテスト時代から変わってないなら問題ないかな。
最初に受けることが出来るクエストはランク1のクエストを一つだけなので『ゴブリンの討伐×20』を受ける。
このクエストは20匹倒すとカウントがゼロに戻り、再びカウントが始まるタイプのクエストでひと枠のクエストで複数回クリアできるものだ。
疲れきっている受付嬢に初期から所持しているポーションをひとつ差し入れしてギルドから出た。
ギルドの入口から吹き飛んで街の外へ出る。
街から出るに門は衛兵がいるが、プレイヤーは別に門から出る必要はない。
転移魔法とかで大変なことになっちゃうからね。
地面に生えている草の高さだけ浮遊しながら草原を移動する。
【精霊魔法】で薬草なんかを集めながらの移動だ。
魔法屋さん出もらった指輪がすごいのか、あまりMPを使わない。
この減り方なら【精神力回復】のスキルの効果とも合わさって10分くらいはアイテム収集を続けられそうである。
そして、少しすると緑色の巨人が現れた。
なお、実際の身長は150センチに届かないくらいである。
精霊さんに薬草の採取を中断してもらい、戦闘準備。
【魔力放出】で3メートルほどまで浮かび上がると火の精霊に攻撃をしてもらう。
ボッとゴブリンの体が燃え上がり、火だるまがこちらに向かって突撃してくる。
しかし、獲物の長さを含めても届いていないので一方的だ。
土の精霊に地面から槍を生やしてもらい、ゴブリンを撃破した。
それにしても、浮遊する【魔力放出】の使い方はMP消費が激しいな。
今までは瞬間的に放出して吹き飛ぶ感じでやっていたが、ずっと放出して浮かんでいる必要があるから厳しいのだな。
戦い方を色々考えてみよう。
パターン1、風の精霊に浮かせてもらう。
風の精霊に吹き飛ばされて失敗。
スキルが育ってより精密な魔法行使ができるようになれば可能となるかもしれない。
ちなみに、精霊精霊言ってるけど実際に精霊にお願いしたりしている訳では無い。
上位の精霊魔法になれば実際に四大精霊を呼び出したりできるかもしれないが、今やってることは普通に属性魔法を使っているようなものである。
スキル枠ひとつで四属性を使える【精霊魔法】は便利な魔法だが、その能力値が【霊力】であることから普通の魔法使いでは扱いづらく、さらにマスクデータの一つである『親和性』を高めないと威力が出ないため特定種族でないとまともに扱えない魔法である。
しかし、種族妖精でさらにエリミネイトの指輪を持っている今、『親和性』の問題はほとんどない。
単純に便利魔法だ。
閑話休題
空中浮遊の話に戻るとする。
パターン2
無属性魔法で足場を空中に作ってそこに乗る。
足場が落下してそのまま落ちた。
パターン3
空中に作った足場を風の精霊浮かべてもらう。
サーフィンをしているような感覚だが少しの間浮かぶことが出来た。
しかしすぐにひっくり返ったため却下。
パターン4
椅子と取っ手を作った足場に捕まって風の精霊に浮かせてもらう。
安定して浮遊できるようになったが足場を作るのに消費するMPが多いので本末転倒。
パターン5
水を空中に浮かせてその中に入る。
成功。無属性の足場は落下するのに何故か精霊魔法の水は落下しない。
水の維持にもそこまでMPを使わないため便利である。
それから【魔力放出】で直線的に吹き飛んだ後に水に当たれば速度が殺せることがわかった。
練習すれば便利な急加速急プレーキができるかもしれない。
両手から魔力を一気に放出して吹き飛び、水クッションで速度を殺したあとに水を消滅させて再び魔力放出で吹き飛ぶ。
便利な移動手段ができた。
気分はあさりマフィアの10代目である。
前と後ろに魔力を放出して敵を攻撃する方法が見つかるかもしれない。
なお、【魔力放出】の本来の使い方はニトロ的に移動に使うものであるため、攻撃判定があるかは不明である。
草原を縦横無尽に飛び回り、ゴブリンを乱獲していく。
ゴブリンの討伐自体はゴブリンを発見したら斜め上に吹き飛んで空中で着水してから上から火の精霊で燃やすだけなので楽だ。
MPが減ってきたらそこら辺の木の枝に着陸して集めたアイテムを眺めていればいい。
5分ほどでMPは全回復する。
そんなことを繰り返してゴブリンの討伐クエストの5回目が終了した時――つまりゴブリンを100体倒した時にソレは現れた。
棍棒や木の枝を持っていたそれまでのゴブリンとは違い、刃こぼれはしているものの剣を持っているゴブリンだ。
名前をゴブリンソードマン。
ゴブリンの上位種のようなものだ。
体格も得物の長さも向上しているので普通のゴブリンと戦う時よりも高い位置に陣取って燃やしていると、低い声で甲高くゴブリンソードマンが叫んだ。
すると、浮かんでいた水球が破裂し、浮力を失った。
慌てて真横に魔力放出して吹き飛び、距離をとる。
タイミング的にはゴブリンソードマンが叫んだ直後に水球が破裂した。
もしかしなくてもモンスターの叫びにはそういう効果があるのかもしれない。
まあそれでも離れて燃やして近づかれたら吹き飛んで適当なところで止まって燃やしてと繰り返すことで一方的に攻撃が可能で、ノーダメージ撃破をすることが出来たのだが。
まあ、妖精で物理モンスター相手にダメージを受けることイコール死であるためノーダメージは当たり前なのたが。
従来のRPGとは違い、避けるというコマンドが追加されたことにより自由度が増したな。
アクションRPG特有のとりあえず回避ができる要請という種族はかなり強いのかもしれない。
ゴブリンをたくさん倒して移動中に薬草をたくさん集め、そこそこスキルレベルが上がったような気分になりながらギルドに帰り、5回分のクエスト報告と、薬草の納品クエストを行ってギルドランクを上昇させた。
これでランク2までの依頼を2つまで受けることが出来る。
ランク3に上がるためにはランク2のクエストをやらないといけないため、残った薬草で今度は【錬金術】でポーションを作ることにしよう。
魔力で吹き飛ぶ感じなかなか移動速度が速そうで便利そう