第4話《上》日暮れの唄
劇場での四肢切断ショーがおこなわれてから3ヶ月たった。
あの日から、俺への扱いはさらに酷くなっていくばかり。
このままこれが続けば近いうちにソランの心は限界を迎え壊れてしまうだろう。
ソランにはそれが解っていたが、そうならない確信もあった
何の色もない灰色だった世界にほんの少しばかり、光が差したからだ。
───ガラガラガラッ ガシャンッ!
「あっ、ソラン!今日は何をお話する?」
そこには、綺麗な銀髪の可愛らしい女の子がニッコリと笑って座っている。
同居人が増えた。ミリアという女の子だ。
彼女はいつも笑っている。本当にどうしてあんな笑っていられるのだろうか?
3ヶ月たったが未だに聞くことができないでいた。
「今日は、奴隷達の意欲向上に第三城壁の西側に行った」
「ねえねえ、そこには何があったの?」
「大きなライリール像があった」
「ライリール様が!?」
この国の宗教はいくつかあるが一番信徒が多いのがこの星、アーランドを造り出したと言われる『創造女神ライリール』を祀る『ライラ教』である。
もちろんミリアもライラ教徒だ。
「城壁の半分位の高さだった」
「そんなにも大きいの? すごいなぁ、私も見てみたい!」
ミリアとの会話は楽しいし心が温かくなる。
腕や足を切られる痛みや恐怖を一時の間忘れることができる。
このままずっとミリアと話せていられたらどれだけ素敵だろう。胸を張って、俺は幸せだと言える。
でもそれは、死者奴隷には、叶わぬ夢だ。
朝になれば、またあの痛みがやってくる。
ソランは邪念を振り払うように、気になっていたことを聞いた。
「ミリアはどこから来たんだ? どこの生まれなんだ?」
「私の出身はアルステラ王国のおう…じゃなくて、中級貴族のうまれなの。
とある理由があってここにきたの」
……とある理由か。嫌な思い出を思い出させてしまったな。
「悪い。なんか悪いことを聞いたな」
「ううん。大丈夫」
それにしても、「おう」て言ったな。国王と何か関わりがあるのだろうか。
俺には関係ないか。
「おいテメェら、夕飯だとっとと食って寝ろっ」
いつも通り兵士がやって来て夕食を乱暴に置いた。
これもいつも通り。一切れの味がない硬いパンだ。
でもいつもと違うのはそのパンをここで食べる者が一人増えたことだ。
やはり、一人よりも二人。
2人はあっという間にパンを平らげるとそれぞれの布団に潜り込んだ。
「それじゃあソラン、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ソランはそう言って深い眠りに着いた。
「ソラン、ねえソラン起きて」
そんな言葉と共に朝を迎えた。
重たい瞼を開け、起き上がる。
もう朝か。
「おはよう、ソラン」
「ミリア、おはよう」
「オイッ!起きたかガキ共ッ!」
荒々しく扉を開けて、兵士が入ってくる。
いつもは薄汚れた革防具だけの兵士が、今日はなぜか鉄のフルプレートアーマーで身を包んでいる。
戦争でも行うのだろうか。
「今日はお前ら二人、同じ場所にいってもらう。
だからといって細かい場所は違うからな。
死者奴隷が喜ぶんじゃねぇぞ。滑稽だ。」
歓喜に立ち上がった二人は静かに座る。
兵士に悟られないように下を向くが、その顔から笑みが漏れている。
ミリアと一緒か。途中ではぐれてしまうらしいけど、楽しみだな。
心踊らせながらソランは素早く着替える。
「グダグダしてんじゃねぇ!ちゃんと付いてこいッ!」
グイ、と二人の鎖を強く引く。
そうして馬車の前につれてこられた。
おかしいな。馬車は一台しかない。
するとミリアが後ろから。
「やったね、私達、同じ馬車みたいだよ」
小さく、しかし弾んだ声で話しかけてきた。
そうか、馬車も一緒か。
すこし軽くなっていた足取りが、さらに軽くなった。
馬車に乗り込むと続いてミリアが乗ってきた。
馬車は死者奴隷一人乗せる用のため、二人で乗るには少し小さい
そのため、二人は身体をぴったり合わせ、並んで座った。
「なんか、ごめんね」
申し訳なさそうに俯きながらミリアが急に謝って来た。
ミリアは謝る様なことなどしていないはずだ。
急にどうしたんだ?
「あっ、いや、悪い意味じゃなくてね。
この馬車って一人用で、ソラン専用ってことでしょう?
私は大型の馬車で他の奴隷たちと一緒だったから、二人で乗るのなんてなんか申し訳なく思っちゃうんだ」
死者奴隷一人が乗る馬車は此処だけなのか。
「別に申し訳なく思うことはないよ。
実際、ミリアといるのは楽しいんだ」
本当だ。ミリアと話している時だけは心が温かくなる。
それから、ソランとミリアは道中で見つけたものについてたくさん話し合った。
東区に近づいた頃、先頭の馬車が止まった。
それに続いて後ろの馬車も止まり出す。
「オイッ女ッ!着いたぞ、降りろ。」
先頭の馬車からいつもの兵士がおりてきて、そう言った。
ミリアは少し残念そうな顔をすると、すぐに笑顔を作り立ち上がった。
それを見ると兵士は乱暴にミリアの首に鎖を付ける。
それを後ろにいた小柄な兵士が引っ張っていく。
「それじゃあ帰りだね」
「そうだな、またな」
ミリアと別れたあと、残った馬車一行は、とある大きなテントの後ろに馬を止めた。
といっても、ミリアと別れてからすぐのところだ。ミリアとは、あまり離れていないだろう。
先程と同じように、先頭の馬車から兵士が降りてくる。
次は術師と一緒だ。
「オイッ、ガキ!ぼさっとしてんじゃねえ。
ここが今日の仕事場だ。とっとと降りろ!」
兵士はソランの首をつかむと、乱暴に馬車から引っ張り出した。
そしてテントの中へと引きずっていく。
今日はどんな痛みが待っているのだろうか。
そう思うと、さっきまで色のあった視界が薄暗く、灰色に変わっていく。
さっきまで弾んでいた心が、沈んでいく。
「座れ。
・・・何を怯えている?今回はいつもと違ってあんな大きな痛みはないぞ。
まぁ、痛い事には代わりないのだがな」
クックックと術師は不気味に笑った。
大きな痛みはない?どういうことだ?
ソランにはこれから起きることが全く理解できなかった。
促されるまま枷付きの椅子に座った。
「始まるにはもう少し時間がある。
この痛みのない時間をせいぜい楽しむんだな」
痛みを受けるよりも、この時間が一番嫌いだ。
これから受ける痛みに、心臓がドキドキして破裂しそうだ。
この永遠ともいえる時間を、上を見てじっと終わるのを待っていると、静かに幕が開いた。
「それでは、皆さんお待ちかね!
死者奴隷四肢切断ショー!・・・と言いたいところなんですが」
「言いたいところって、今日はやらないのかよッ!」
「なんの為に金を払ってここに来てると思ってるのよ!」
ざわめきが客席に広がり、司会の男にヤジが飛ばされる。
そんな状況に男は、「やらないとは、いっていないんだけどね」とため息を吐いた。
その光景に、ソランの不安は高まっていく。
「話は最後まで聞くように・・・
えー、今回は切断ではなく、拷問を行います」
ざわついていた客席が一気に静まる。
「というわけで、まずは爪剥ぎ。
術師、あとは頼みます」
そう言うと舞台袖から、術師が3人出てきた。
手には、何か物を挟む為と思わしき器具を持っている。
切断までは確かに痛くないだろう。だが完全に痛みがない訳ではないだろう。
───バチンッッッ!
「────ッ!」
重たい痛みが走り、爪のあった指先がジンジンと痛む。
なんだコレッ!痛い、痛みが止まらない!
止まらない痛みにソランは身悶える。
「次は2つ目だな」
何?2つ目?全部やるのか?
この痛みを指全部やるって言うのか。
ソランには耐えられるのか分からない。
術師は2本目の指に器具を添える。
───バチンッッッ!
鎖に引かれながら兵士の後を追う。
今日も終わった。2つ目の爪を剥がれた後からの記憶がないな。
記憶に残らなかっただけ儲けものか。
再度馬車に乗り込むと、暫くして動き出した。
帰路につく馬車に揺られ、来ることのない未来を妄想する。
いつか、美しい女性と結婚して死ぬまで幸せに過ごす。
一国の王となって世界を統一する。
・・・そうしたら、俺みたいな奴隷が出ない、みんな笑って過ごせる世界を作りたいな。
どれも、叶うことのない幻想だ。
どう妄想しても、そこに行き着てしまう
そうこうしていると、向こうの方から声が聞こえ、馬車が止まる。
「女ァッ!トロトロ歩くな!
早く乗れッ!」
そういえば、一緒にミリアも来ていたな。すっかり忘れていた。
タタッと軽快な足音を響かせ、ミリアが乗り込んでくる。
その体は汗や何かの液体で濡れて薄汚れていた。
「ミリア、今日はどう───「ソランはどうだった!?」」
ミリア慌てて声を被せてきた。
余程聞かれたくなかったのだろう。そういう事なら詮索しないでおこう。
心の中で思いながら、ミリアを見る。
「あまりいいものじゃなかった。
・・・拷問をされたんだ。」
ソランは、今日劇場であったことを全部話した。
途中で気を失ったため、記憶にある全て、だったが・・・
うんうんと頷いたり、同情してくれたりと母親のように慈愛の微笑みを浮かべながら、ミリアはソランの話を聞いていた。
なんて聞き上手なのだろう。
ソランは、どんどん饒舌になっていく。
「・・・俺はそんな1日だった。」
「大変だったのね。お疲れ様」
一通り話したところで、馬車がと止まった。
長かった1日も、もう終盤だ。
そう思うと、自然と体が軽くなった。
「今日ももう終わりなのね」
ミリアはそう言うと、布団であったボロ布に崩れ落ちた。
ミリアも相当疲れているようだ。今日はそっとしておこう。
間もなくして、ミリアはすやすやと静かに寝息をたて始めた。
明日も早い。心も身体も疲れたし、今日はもう寝るか。
ソランも静かに床についた。
「いつもいつも何時まで寝てやがるッ!起きろ!」
兵士の怒鳴り声で、ソランは目を覚ました。
丁度ミリアも起き上がったところの様だ。
今日はいつもと違い、もう食事が置いてある。
そして、まだ日は登っていなく小さな窓からは月明かりが射していた。
「今日は戦争の最前線にいってもらう。
時間がない、直ぐに着替えろ」
低い声で冷たくいい放った。
ソランとミリアは一度顔を見合わせると、いそいそと着替え出す。
『戦争』という言葉に底知れぬ不安を抱えながら。
「乗れ」
兵士に言われるがまま、二人は馬車に乗り込む。
馬車も何やら、不穏な空気を放っている。
「なんか、ちょっと不気味だね」
「俺たちはこれから戦場へ行くんだ。
向こうはもっとひどいだろう」
「私たち、どうなっちゃうのかな?」
「大丈夫。また戻ってこられるさ。
でも、こんな生活続ける位なら死んだほうがマシか」
ソランがそう呟くと、突然ミリアが抱きついてきた。
密着した身体から、小さな心臓の鼓動が伝わってくる。
「ダメッ!ソランは死んじゃヤダッ!
ソランは生きて、生きて幸せにならなきゃ!」
ソランはハっと気がつく。
自分は何て事を言っているんだ。
大切な物がここにあるじゃないか。
涙目でこちらを見上げるミリアを抱き締め返す。
「そうか、そうだな。
俺にだって大切な物がやっと出来たんだ。まだ死ねない。」
二人は目を閉じ、格子にもたれ掛かる。
檻の中に沈んだ空気が漂う
すると馬車の前方から、4人の兵士たちのとある話が聞こえてきた。
「なあ、また隣のルール王国へ戦争を仕掛けるらしいじゃねえか?」
「そもそも何で俺らは戦争してるんだ?」
「貴方はそんな事も知らないんですか? この世界には手にした者を神へと昇格させ万物の願いを叶える『星杯』というものがあります
それを巡って12の種族が戦っているんです」
「でもなんで人間族同士で戦っているんですか」
「もし、我々が『星杯』をてに入れたときに巨大な勢力が幾つもあれば国家間での小競り合いが増えるからです」
「でもそんな事で人間族が数を減らし合ったら他の種族に遅れをとるんじゃないか?」
「さぁ、頭の固い国王達の考える事なんて俺らには解んねぇよ」
俺も『星杯』を手に入れればこの世界を変えられるのだろうか・・・
まぁでも死者奴隷の俺には叶うことのない夢か・・・
そんなこんなで俺は、戦場の前線に到着した。
「オイッ!早く降りろ!」
怒涛、憤怒、歓喜、悲鳴。
様々な声と感情が、渦巻くその大地へ、恐る恐る足をつけたそこには、悲惨な光景が広がっていた。
奴隷達の死体は山積みにされ、それを見た他の奴隷が膝から崩れ落ちたり、呆然と立ち尽くしたりと、怯えて動けなくなっていた。
「グヘヘ、お前はこっちだ」
卑下た笑みを浮かべる太った兵士がミリアの鎖を掴んで天幕の方へと引っ張っていく。
それを追おうとした時、
「貴様はそっちじゃない!」
左腕に熱が走った。
「ア゛ァァ!!」
兵士が腕を切り落としたのだ。
兵士は落ちたソランの腕を上に掲げると。
「オラァ奴隷共ォ!ボサッとしてるとこうなるぞッ 嫌ならさっさと戦えェ!」
と高々と叫んだ。
「オッ・・・オオォォォォォォォ!!!」
多少どよめいたが奴隷達はすぐに雄叫びをあげて最前線へと戻っていく。
「術師!!いつものだッ、死んじまう前に治せ!」
「やれやれ、本当に人使いが荒い人何ですから・・・これじゃ体が幾つあっても足りませんよ・・・」
さっと少年の腕を再生させる。
「さて、私も行きますかね」
そういって何処かに消えていった。
……30分はたっただろうか。
ソランはそう考えていると。
───ガシャンッ! ダッダッダッダッ!!
「申し上げまーすッ! 戦場の北側に、『戦姫』が現れました!!!」
「なんだと!? 奴はまだラギア大陸から帰ってはいないはずだっ!
『戦姫アトラティーナ』ルール王国最強の剣士ソードテイマーである。
若干12才にして流派『魔斬刀』の奥義を習得した若き秀才だ。
「何ッ!奴は北の大陸に行っているんじゃないのか!・・・分かった、俺が行く・・・」
ちなみにこの兵士も帝国で1、2を争う実力者で、この戦争の鍵を握っているらしい。
話を聞くと兵士は急いで装備を準備して最前線へと出発した。
それをソランは呆然と見ていた。
だが、あることに気がつく。
ここに俺を気に止めている兵士たちはいない。
今なら、ミリアと一緒に逃げ出せるのではないか……
このあと後編投稿しますので、お楽しみに!