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血濡レノ瞳  作者: 柊木 慧流
prologue 『死者奴隷』
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第3話 銀髪の少女

「オイッ、時間だ!早く起きろ!」


ガンガンと檻の格子を叩く音で少年は目覚めた

朝か。

少年はまだ開ききっていない目を擦りながら兵士を見た


「起きたか、30分後に出発だ飯食って準備しろ」


兵士が檻のある部屋から出て行くと少年は小さく欠伸した後、静かに朝食のパンを咀嚼し始めた

味のしないパン。これも一体何日続くのだろうか。

小さく千切り口へ運び、咀嚼

小さく千切り口へ運び、咀嚼

毎日毎日、変わらずそれを繰り返す


「もっと辛い仕打ちを受けている死者奴隷(スレイデッド)もいるのだろうか。」


だとしたら、自分はまだ良い方だなんだ、幸せな方なんだ、と喜ぶべきなのか。

少年には分からない

少年がパンを食べ終え、服を着替えたところで、兵士が戻ってきた


「昨日も言った通り、西の地区だ、行くぞ」


強引に鎖を引っ張った

嗚呼、今日も色のない灰色の1日が始まるのか。

そして少年はまた、奴隷達のもとへと向かうのだった



「ア゛アァァァッッッ!!!」


西の地区に着くとすぐに足を切り落とされた

もう3年経つが未だに鋭い痛み、切り落とされる恐怖が消えることはない。

でも、それは更なる痛みの始まりに過ぎなかった


「この死者奴隷(スレイデッド)もここに来てもう3年経ちます」


兵士と一緒にいた術師が、そんなことを呟いた

それを聞いた兵士が、目を細める


「お前、急にどうした?コイツに情でも湧いたのか?」


「そんなわけないじゃないですか。

それよりも、そろそろコイツも痛みに慣れてきた頃だと思うんです。

なので、コイツを少々お借りしても宜しいですか?」


術師がニヤリと笑いながら兵士に問う

その笑みは酷く冷たく、少年の不安を更に掻き立てるものだった。


「別に構わんが、何かするのか?」


「いえ、折角魔導師が4人もいるのですから、少し資金稼ぎをしてくるだけですよ」


今回はいつもの兵士、術師の他に3人の魔導師級の魔法使いが同伴している

やはり、何か戦争でも起こすのだろうか。

最近、この辺りの兵士の数が異様に多い。

そうこうしているうちに劇場らしき所に着いた

少年は、鎖に引かれるがまま劇場の舞台となっている幕の内側へ入っていく


「お前にはしっかり稼がせてもらいますからね。

こんなことで死なないで下さいよ」


こんなこと?

少年は状況が理解できないまま椅子に拘束された。

訳も分からずに舞台を見回していると、約10秒後、静かに幕が開いた


「さーて皆さん!お待ちかね!死者奴隷(スレイデッド)切断ショーの始まりでーす」


司会者であろう紫の奇抜な服を着た男が、高いテンションで叫ぶ。

アーティファクトによって声を拡声させているため、近くでは耳が裂ける程大きく聞こえる。

近くにいる者は皆、魔法によって声の大きさを制限しているようだ。


「まずは右腕ッ!」


えっ!?右腕?

なんだ、何が起こる?


───ザンッッッッ!!!!


・・・・・は!?

右腕を見るがそこに腕はない


「アァァァァッッ!!!!」


もがこうとするが椅子に固く縛り付けられており動くことが出来ない

それに、動けば動くほど血が傷口から溢れだし、痛みが酷くなる


「次は左腕ッ!」


───ザンッッッッ!!!!


「アァ゛ァ゛ァ゛!!!」


耳鳴りがだんだん大きくなっていき、周りの音が遠くなっていく

痛い、痛い、痛い。

いくら叫んだとて痛みが和らぐことはない


「次は右足ッ!」


───ザンッッッッ!!!!


「だずげでーーーッッ!!アァァ▲☆●□▽●□───!!!」


もはや、声にならない

必死になって「助けて」と叫ぶ。

しかし、声でない声は誰かに届くことはなかった。


「次は左足ッ!」


───ザンッッッッ!!!!


「アァ゛ッ●□●□▽▲☆───!!!」


視界が霞み意識が遠退いて行く

このまま死んでしまうのだろうか?

少年の顔は、涙や涎でグショグショになってしまっている


「最後に、コイツの腹をこれで焼いてやりますッ!」


そこには、熱せられて真っ赤に光っている鉄板があった

観客は「殺せ! やっちまえッ!」とヤジを飛ばしている

嫌だ、止めろ、死にたくない、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い!


「☆●□▽●□▽●□▽▲───!!!」



奴隷達の仕事意欲向上の仕事の帰り

奴隷を運ぶ檻型馬車の中

今日は散々だった。

あの後少年は、術師達により四肢を全回復させられた

しかし、幾ら身体の傷が癒えようとも、最後に気を失う寸前の恐怖と痛みは、少年の心に大きな傷跡となって刻み付けられ、癒えることはない。


「傷は治まっても、痛め付けられる感覚は治まらないんだな」


いくら傷が無くなったとて、腕を失う瞬間の恐怖、痛みはそう簡単に消えるものではない

怖い、痛い、助けて。

思い出す度に手の震えが止まらない。


「この世界は俺を忘れてしまったのだろうか。

だとしたら、俺はここで生きていても良いのだろうか」


・・・分からない。

分からないからこそ簡単に死ねない。

今は苦しくとも、未来は幸せかもしれない。

今は灰色の人生だとしても、未来は輝いているかもしれない。

そう思えば思うほど死ぬのが怖くなってしまう


「俺って、けっこう臆病なんだな・・・」


そうだ、いつも俺は、臆病で逃げてばかり。

自殺する度胸すらなく、現実に存在しない夢にすがってばかりだ。

だから、終わらせてしまえば良いのに、もしかしたら未来は、等と言い訳を作ってはそれに逃げる。


「悪循環・・・だよな」


「おいッ!着いたぞ!」


兵士の声でどこかへと彷徨っていた思考を戻し、窓を覗く

窓から外を覗くとそこには、1台の檻型馬車が止まっていた

おかしいな、いつもはこれしかないのに・・・何かあったのか?

すると、勢いよく扉が開いた


「早く降りろ、腕を落とすぞッ!」


少年は静かに馬車から降りた

兵士は少年の首輪に鎖を付けると、それを引っ張り少年を牢屋へと連れて行った

もうひとつの馬車とすれ違う瞬間、ふと馬車を見た

そこには、特徴的な木のマークがあった

それには見覚えがある。隣の領地の紋章だ。


「隣の領地から、何かあったのか?」


どうやら、その呟きが聞こえていたらしく、兵士が反応した


死者奴隷(スレイデッド)のお前には関係のない話だ。

関係があるとすれば、後で分かるから気にするな」


後で分かる?俺に何かあるのか?

・・・そんなわけないか。

牢屋に行く道の途中でも、すでに20人位の隣の領地の兵士とすれ違った

まぁ、あったとしても俺が処分される話だろう。

そんな事を考えていると、自分の牢屋にたどり着いた


「とっとと入れ、ガキが!」


そう言って兵士は、少年の背中を乱暴に蹴る

兵士の鍛えられた脚力で蹴飛ばされた少年は、のけぞりながら、倒れ込むようにして両膝をついた

顔を上げた少年は、ふと牢屋の影になっているところに目を凝らした

もう3年もここで生活していたからだろうか。

遠目から見て真っ暗な檻の違和感に気がついた

誰かいる。そう思った時、兵士が口を開いた


「隣町の見世物用(ショウ・スレイデッド)だ。せいぜい仲良くするんだな」


兵士はそう吐き捨てて部屋を出て行った  

2人になった檻で、少年は同居人を見つめる

そこに居たのは少女だ。

その姿は誰がどう見ようが慰み者にされたと分かるくらい薄汚れている。

が、磁器のような真っ白な肌に碧眼の瞳、長い銀色の髪を持つ、まさに絵から飛び出したような美少女だ

首には深紅のペンダント、髪は緩くウェーブがかかっている。

身長は少年より、拳一つ大きい。


「私はミリア、貴方の名前は?」


ミリアは優しく微笑んだ

なんて綺麗な娘だろう。動きや行動の端々から気品が見てとれる。

どうして貴族であろうこの娘が見世物用死者奴隷(ショウ・スレイデッド)になってしっまったんだろうか。

俺と同じく何かの策に嵌められたのだろうか。

ミリアと名乗った少女をまじまじと見つめていると


「名前は?貴方の名前は何て言うの、教えてくれる?」


「名前か。俺の名前・・・名前?」


少年は大きく首を傾げた

名前ってなんだ?

死者奴隷(スレイデッド)に堕ちてから今まで、否、少年が生きてきた中でまともに自分の名を呼ばれたことがほとんどない

そのため、自分の名前など記憶にはなかった。


「そう、名前。貴方はいつもなんて呼ばれているの?」


「いつも呼ばれている名前か。・・・クソガキとか、お前・・・とか?」


少年が言うとミリアは悲しそうな顔をした

いつもの呼ばれ方を言っただけだが、何か彼女を悲しませることを言ってしまったのだろうか。

だとしたら申し訳ないな。

すると、少女が下から少年の顔を覗き込むようにして近づいた


「・・・貴方、名前が分からないのね?」


少年は、うん、と小さく頷いた

少女は、どうしましょう、と顎に手を当て考える

その光景がなんとも可愛らしく少年は見とれてしまう

この娘も俺と同じで誰かに嵌められてここへ来たのだろうか。

そんな推測をしていると少女は、よし、と手を打つと手を広げて言った


「私が付けてあげるわ!そうね・・・」


付ける?名前を?俺に?

状況がまったく飲み込めない

そんな少年を傍目に、少女は右頬に手を添えて考える

そんな行動も少女が行うと、とても可愛らしい。

つい、ぼーっと見いってしまう。


・・・10分はたっただろうか。

中々動かない少女が不安になってくる。

・・・・・30分はたっただろうか。

なかなか動かない少女に、流石に心配になって声を掛けようと近づいたその時だった


「そうだっ!」


いきなり立ち上がる少女にビックリした少年は後ろに尻餅をついた

急にどうしたんだ?


「あっ、ごめんなさい!・・・でも、貴方の名前思い付いたわ。

貴方の名前は『ソラン』・・・どう?」


少年は目を丸くしてじっとミリアを見つめている

次から次へと起こることに、余計に少年の頭がこんがらがっていく


「貴方はソラン・・・気に入ってくれたかしら?」


少女のその一言で、少年は状況を把握しようとする思考を淵へと追いやると『ソラン』という名前に意識を向ける

少年は下を見つめ何かを確かめるように新たな名前を繰り返した


「ソラン・・・ソラン・・・俺は・・・ソラン?」


「そう、貴方はソラン、私はミリア。よろしくね?」


「俺は、ソラン・・・ミリア、よろしく」


少年の言葉を聞いたミリアは、ニッコリ笑って


「そうね・・・じゃあ今日は何を話す?───」


───この日、この星にソランという名の少年が、誕生した。

楽しげに話すミリアを見つめながらソランは思う。

ミリアはどうしてこんなに笑っていられるんだろう?

毎日、毎日痛めつけられているはずなのに。

気がおかしくなるほど心も身体も痛いはずなのに。


その答えは目の前にいるミリアのみぞ知っている。

ミリアに聞いてしまえば簡単なのだが、まだ、ソランには聞く勇気が持てないでいた。


0章はあと、《下》で終わりとなります。

また、アドバイス・感想・レビュー宜しくお願いします!

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