第1話 死ねない身分
今日よりなろうにて小説投稿させていただく、柊木慧流です。
小説初投稿という事で拙い文章ですが、向上させていきたい所存です。
更新は遅いかもしれませんが宜しくお願いします。
─── ヒュゥゥゥゥゥゥ!!! コォォォォォォォ!!! ───
耳を裂くような風の音の中、紅く染まった空に一人の男が漂っていた。
その男に腕はなく、引き裂かれた灰色のローブがだらしなく垂れ下がり風に靡いている。
ボロボロの薄汚れた衣服を纏い、汚ならしい身なりをしているが、頭には純白の環があり、誰もが崇めたくなるような神々しい光を放っている。
男は宙を漂いながらこの世界を見回す。
大地は大きく割れて宙に舞い、空は鮮やかな紅に染まり、そこには、黄色や緑、紫、橙などの光の線が走っている。
この世界を混沌とした世界ととるか、鮮やかな世界ととるか。
「争いのない世界に、とは言ったが・・・この有様か。
やっぱり俺たち人類には、この力はまだ早すぎたみたいだな」
と自嘲気味に言った
たくさんの同胞達を失い、たくさんの希望を背負ってここまで来たというのに、蓋を開けてみればこの惨状だ。
自分たちの星、アーランドは生命が存在することのできない世界に変貌を遂げようとしている。
そんなことを考えていると突如、男の全身が強く光り出した
「おっと、もう時間か」
光は男から周囲に広がっていく
男は、誰も彼もが争いなどせず、笑い合って暮らせる世界にしたかった、否、したいと最後の祈りを込め、天を仰ぐ
やがてその光は、辺り一面を白く染め上げていき───
─────────────────────────────
「───ハッッ!!! ・・・なんだ、夢か」
どうやら寝てしまっていたらしい
いつの間に寝てしまっていたんだ?
妙に現実味を帯びた夢だったな...
少年が思考を巡らせていると
───シュパンッッッ!!!
風を切る音と共に少年の右肩を強烈な熱が襲った
直後、その熱はとてつもなく激しい痛みへと変化した
「ウァァァッッ!!!!!!!!」
ゴトリッ、という音と共に少年の右腕が肩口から落ちた
熱いッ!腕がッ!
どうして、どうして俺は、こんな痛みを受けなければいけないっ!
その心の叫びに答えるものはいない
悶え苦しむ少年を横目に血のがベットリ付いた長剣を片手に持った兵士は、チラリと奴隷達を見やると
「いいかてメェら!! 少しでもボサットとしてみろっ、このガキみテェに死者奴隷に堕としてやるぞっ!!!」
高々に叫んだ
物質の荷運びを行っていた奴隷たちにどよめきが広がった
周囲の奴隷達は、なんだって!?もう駄目なのか・・・などと動揺が人から人へ伝わっていくのが分かる
「嫌ならとっとと働けっ!!!!!」
立ち止まった奴隷たちは、「死者奴隷なんかになってたまるか!」といいながらいそいそと持ち場に戻って仕事を始める
痛みに悶えながらもそれを見ていた少年は、ふと奴隷達の呟きを耳にする
「今回の担当兵士ははずれだったな」
「そうだな、他のところなら死者奴隷以外の奴隷は結構扱いがいいからな」
このグラム帝国には奴隷にも人権がある
逆に人権のない死者奴隷という身分を作ることで奴隷達に心の余裕を持たせ作業効率を上げているのである
兵士は奴隷が持ち場に戻ったことを確認すると、機嫌が悪そうに眉間に皺を寄せて言った
「オイ術師ッ このガキが死ぬ前に早く治せッ!!!」
無論、少年の身を案じてではない
死者奴隷である少年の商品価値が下がるのを危惧しての事だ
兵士の後ろに座っていた中肉中背の青いローブを着た術師と呼ばれた男が徐に少年の元へ行くと手のひらに自分の魔力を体内から集めると
「早く腕を出せ、見世物用死者奴隷に傷がついては意味がない」
冷たくいい放った
『見世物用死者奴隷』人権をもたない死者奴隷の中でも最も酷いとされる身分である
『見世物用』はその名の通り死ぬことすら許されず痛め付けられ、平民、貴族だけでなく奴隷にも卑下に扱われるのである。ただ、死ねないとは言えど死なない訳ではない。幾ら人として扱われて居なかろうが死者奴隷も死ぬときは死ぬ。この少年は、少し普通ではなかった。
少年はゆっくりと立ち上がると術師に切り落とされた腕をみせる。
『上級治癒魔法』
少年の腕は緑色の光に包まれ、仄かな温もりと共にみるみるうちに再生していく
この腕は一体何度切り落とされただろうか。
再生されたばかりの腕を眺めながら少年は思う。
「本当に、一体どんな体の構成になれば無くなった腕が只の上級魔法で治るのでしょうか?」
一連の流れを見ていた兵士は、不機嫌そうに
「見世物用などとっとと殺して次のを用意すれば良いではないか
何故それを生かしておく必要があるのだ?」
その問いに対して術師は
「そういうわけにはいかないのですよ
何度も何度も奴隷を代えれば死者奴隷としての価値が落ちてしまいます
そうすれば他の奴隷共の仕事意欲の低下に繋がりかねないからです」
「そういう物なのか?」
「ハイ、残念ながら」
「まあいい ・・・おいガキッ! とっとと着いてこい!!」
少年の首に繋げられている鎖を兵士は強引に引っ張った
毎日毎日強引だな。
あまりの勢いに少年はよろけながらも檻のある方へ歩いていった
───ガラガラガラッ ガシャンッ!
少年はいつもの檻の中に入れられた
それは意外にも広く少なくとも10人は入れる大きさがある
しかし、そこにはスライムタンクの付いた簡易トイレと
ボロボロの薄い布が敷かれているだけだった
少年はその布...もとい布団に入ると、静かに目を閉じた
意識が遠のいてゆく───
─────────────────────
───ザクッ! ザクッ!
青年は一心に鍬を振るった
特に何か考えているわけでもなくただ、心を無に、無心になって鍬を振るい、畑を耕し続ける
「ふぅ、やっと終わった。
今日の仕事はここまでだな」
一段落ついて、青年は額の汗を拭ったところで、丘の方から大きな声が聞こえてきた
ふと空を見上げるといつの間にか太陽が地平線へと落ちかけ、茜色から青紫色へ変わっていた
もうこんな時間か。
「おーい、──。夕食ができたよー。
もう戻りましょう。」
自分の名前を呼ばれているのだが、自分の名前がよく分からない。
青年を呼んだのは、黄色の可愛らしい服を着た、誰もが見とれるような美貌を持つ美しい女性だ
まぁ、呼ばれているのは自分だから気にすることでもないか。
ちょうど一段落ついたところだ。
腹も減ったし片付けて、行くとするか。俺の嫁は早く行かないと少々拗ねてしまう所があるから、少し急ごう。
「分かった。今行くから、先に戻っていてくれ」
青年はそう言ったが、妻はそれを聞かずにどんどん近づいてくる
どうしてこっちへ来るんだ?
少年は慌てて布で身体に付いた泥を落とすと、首をかしげて聞いた
「どうして戻らないんだ?
こっちに来たら、俺も汚れていることだし、君も汚れてしまうよ」
「貴方が疲れているのなら、お疲れ様、と言いに行くのが妻の役目。
夫である貴方が汚れていて、妻である私が汚れていないなんておかしいでしょう?そういうものなのよ」
そうきっぱりと言われてしまっては、返す言葉もない。
俺は、どうしたものか、と肩を竦め、農具を倉庫に片付けるため農具をまとめると、青年は家の方へと歩いていく
妻は、待ってよぅ、と言いながらこちらを追いかけるが足を引っ掻けて水溜まりに顔から突っ込んだ
我ながら何とかわいい嫁だろうか。
「今日のご飯はなんだい?
昨日はジーライヘムだったろう」
ジーライヘムとは、ジーラムという魚を煮込んだものだ
「今日はね、レイリンダイだよ。
私が特別に作ったのよ」
レイリンダイとはレイレンという鳥を焼いたものだ
そうか、今日は俺の妻のお手製料理か。
彼女の料理は絶品だからな。中々楽しみだ。
そんな他愛のない話をしていると我が家にたどり着いた
俺の家は一言で言えば屋敷だ。
それもそのはず、俺の一族は代々、辺境の領主をやってきた。
この辺境の領主は、村人と共に畑を耕し、作物を作る事で有名で、周りからは非常に好印象なのである
「先、夕飯を食べるべきか?
あまり置いておくと覚めてしまうだろう?」
「うーん、でも私達汚れて要るからね」
「じゃあ風呂に入ってからにするか。
出来立てを食べられないのが残念だけど、仕方ない。
魔法で温め直せばいいか」
青年たちは、素早く風呂に入ると服を着替え、食堂へと赴く。
青年が席に座ったところで、メイド達が机に食事を並べていく
心無しかメイド達が何か試すような笑みを浮かべている
・・・なんか、いずらい。
食事を並べ終えるといつもの祈りだ
「創造女神ライリールよ、我々に食の恵みを与えていただきありがとうございます。
そして、感謝と共に、頂きます」
「頂きます」
妻が、あとに続く
祈りと感謝を終えると妻がニッコリと笑ってこちらを見ている
どうしたのだろうか。
そんなことを考えていると
「ささっ、食べて食べて」
妻が食べるのを急かしてくる
そうか、そう言えば彼女が作ったんだっけか。
言われるがままに青年は食事を口に入れた
刹那、口の中にピリッとした辛みとほんのりとした甘みが広がった
・・・うまい!
「ねぇ、味はどう?
不味くなかった?美味しく出来てた?」
「とても美味しかったよ。
また作ってくれると嬉しいな」
「うんっ!!」
彼女は満面の笑みを浮かべた
あぁ、彼女のこの笑顔が一番好きだな───
──────────────────────────────
朝日に照らされて、少年は目を覚ました
起き上がって周りを見渡す
そこには、いつもと何も変わっていない城の中の牢屋の光景だった
少年はまた、崩れ落ちる様にして床に仰向けに倒れ込んだ
「何も変わっていない・・・な」
何も変わっていない。
何一つとして変わっていない。
目が覚めるたびいつも思う
夢の中の俺はいつも、物語の主人公の様な恵まれた生活を送っている。
「夢は所詮、夢で終わり・・・と言うことか」
夢で見た幸せそうな生活を送ってみたい。
誰か大切に思える人と結婚して、寄り添いあって人生を歩んでいきたい。
どれもが、叶うことのない夢、どこまでいっても現実にはならない。
「それでも、それでも死ぬときに、幸せだ、と笑って死にたい。
まだ死なないで、と泣いかれて死ねる人生にしたいな」
こうして、少年のなんの彩りのない灰色の世界へといつものように少年は、足を踏み出すのだった
少々短いですがこんな感じで続けていきます