時雨流の始まり
なんでこのM男に剣を教えようと思ったのかは自分でも分からない。強いていうなら「女の子の勘」ってやつかしら?この秀一とか言う眼鏡との立ち会いで彼は自分でも気付いてないだろうけど異彩を発揮していた。一振り一振りの美しさ、スムーズすぎる3連技。大したことじゃないようで驚くべき才能だった。そして何より彼の目はただの練習にも関わらず、溢れんばかりの殺気が漏れていた。
それから3日。私はひたすら彼ら(秀一含む)に基本的な時雨流の形を伝授していた。この時雨流は今、話題の一撃に籠める剣術とは違い5,6の連続技を確実に決め、相手を着実に追い詰めるものだった。
秀一はようやく基本的技の「単桜」という体を回転させながらその威力を崩さずに相手の右肩から左ももにかけて傷をつける超基礎技を覚えた。
一方、凌は半日でこの「単桜」を修得し今はもう「二羽鷲」という、「単桜」とその逆の左肩から右ももにかけて傷をつける「単紅葉」を連続して出す技を覚えようとしていた。
「赤嶺くん、さっきも言ったけどまだ回転に無駄が多いわ。もっと小回りに回るのよ。その大回りじゃその間に横腹に一本入れられるわよ」
「 わ、わかってるよ!くっそ…難しいな」
二本目の「単紅葉」の回転がどうしても上手く行かない。右足を固定することは分かっているのだが、どうしても両足を回してしまい大回りになるのだ。単純作業の様に見えてこれが難しいのだ。
秀一はさらに数日がたつ頃には才能の違いを痛感し、サポートメンバーとなってしまった。
「バカップルさーん!二階のジム13時から予約とれましたよー」
「ええ、わかったわ。バカップルという言葉がしゃくに触ったけど半殺しで許しといてあげるわ」
秀一は180度回転して逃走を図るが、それもむなしく捕まり立ち絞め技を茜にかけられた。
ギブすらも言えない少年は「うっうっ」と小さなうめき声をあげたまま茜の柔らかい胸と筋肉に包まれた腕の中で落ちていった。ようやく凌の気持ちがわかった…。
バカップルはどっちだろうか…。
そんな下らない事をしていると剣道場の入り口から「トントン」というノックが聞こえてきた。
「誰かしら」
泡を吹く秀一を離し扉の方へ向かった。扉を開けるとそこには新撰組の制服を来た二人組がたっていた。
「こちら新撰組第6隊所属山本白信である!」
「同じく黒川大輝である!」
勇ましい声を響かす二人を見て、ついに傷害で茜が捕まるのかと下らない事を考えていると二人は茜の前にひざまずき、仲良く声を揃えてこう叫んだ。
『星川グループ御曹司、星川茜様でありますね?こちらの剣を預かっては頂けないでしょうか?もちろん父上様にも了解は得ています!』
状況を理解できない茜を無視して二人は黒色の剣を渡しその場から足早に離れていった。
4話をお読み頂きありがとうこざいました。
今回は後半いっきに本編へと進ませて頂きました。恐らく読者の皆様はこれだけでは理解しきれないと思いますので、ここまでの経緯を次回新撰組視点で描かせて頂こうとおもいます。
本編「黒暗竜の剣編」ようやくスタートです(^-^)