三日目の別れ
勇者と賢者は緑青の海を離れて二日目、滝の洞窟付近の草原にいた。冒険者協会本部にはまだついていなかった。普通に行けば三日で着く工程だった。
「パリ~ン」
「またか」鼻を抑える勇者と賢者が困惑していた。勇者の背中は汚れている。緑青の海で魔物に液体を投げられて以来、他の魔物にも何度も液体を投げられていた。
その都度勇者の汚れを落とすため川や滝により大幅に日程が遅れていた。
汚い液体を投げてきた黄色い子鬼が野原をゆっくり逃げている。
「このやろ~くらえ」勇者は右手を前にして炎系呪文を放とうと、黄色の子鬼に標準を合した。あとは呪文を声に出すだけだったのに、左手の前に賢者が立って阻止をした。
「だめです。ここで使ってはいけない」と言われたので勇者は左手で賢者を退かした。
黄色い子鬼に逃げられると思ったが、ゆっくり逃げているので魔法から剣に切り替え後を追った。敵の背中が大きくなってくる。剣の間合いに入った。剣を振り上げた。
「パリ~ン」
「目が」野原から二個の小瓶が前方より飛んできた。勇者の目の前で二つの小瓶がぶつかり合い中の液体が弾け、目に入った。目についた汚れを落とそうと袖で拭いた。その隙に黄色い子鬼は野原から出て来た影に担がれ逃げて行く。賢者も追わんとしたが勇者をほっとけなかった。
「勇者。目に入ったのですか」
「俺はいいから追え」と強い口調で賢者に指示した。自分の心配より魔物を捕えたかった。何回も臭い液体をくらっているので、魔物の集団的に統一された意識が伝わって来ていた。長年魔物と戦ってきたが、統一された行動は皆無だった。勇者は理由を知りたかった。
「ダメです。逃げられました」野原には二人しかいなかった。魔物たちは消えていた。責任を追及する勇者。事の重大さを分かっている賢者は謝った。普段の過ちなら許していただろうが、今回は違った。捕まえられなかったこともそうだが、最近の賢者の失敗の多さに頭に来ていた。勇者は決断する。
「お前、先に冒険者協会がある黒い森の近くの町に行け。一人で。俺は汚れを落としてから行く」突き放す勇者の言葉が賢者に突き刺さる。
「一人ですか。でも勇者、また魔物が液体を投げてくるかもしれません」
「気をつける心配するな」
「でも」心配が尽きない賢者の態度に勇者はもっともらしい言い訳を考え付く。
「お前。旅の目的を忘れたのか」
「忘れていません。汚い液体を協会に届けることです」
「それだ。液体を届ける。で、いつまでここにいる。散々わかったろ。俺といると協会に着くのが遅れる」と力説する勇者に賢者も柔軟に答える。
「遅れているのが勇者のせいだと言いたいのですね。魔物が勇者ばかりを狙って液体を投げるからと。たまたまかもしれません。次は私が狙われるかもしれないじゃないですか」
両耳を手で抑え、右手を耳元で握り親指、人差し指、中指と順に指を立てたのち、走り出す勇者。
「えっ。勇者」早い。勇者は全力で走っている。訳も分からず賢者も追いかけるが引き離される。賢者は足に呪文を掛けて走る。勇者の背中が見えてきた。追いつく所で勇者が急に止まった。賢者は勇者を越えていって。
「ばっさん」
川の中で止まった。賢者はずぶ濡れになった。勇者は平然と顔を洗っていた。
「びっくりするじゃないですか。顔を洗いたかったのですね」
「う・る・さ・い」小声で勇者が言いながら、拳を握って中指、人差し指、親指と順番に耳元で立て両耳を抑える勇者。
「もうしゃべっていいぞ」
「魔法ですか」先ほどからの行動を賢者は理解できた。耳の聴覚を上げる魔法を勇者が使っていることに気が付いた。
「ああ目が見えないから、魔法で川の音を探っていた」
「しかし、急にするからびっくりするじゃないですか」顔を洗い続ける勇者が片目を開けて煙たそうに賢者を見る。
「顔がべたつくから早く洗いたかっただけだ。で、お前まだいるの。早く協会に行け」冷酷な言葉が飛んだ。
賢者も勇者が走り出す前の意見の答え求めた。
「う~んとリスクの分散だ。お前も狙われているなら、二人している理由がなくなる。片方が協会に早くつけばいい。俺にも液体を渡せ」もっともらし言い訳をした。しぶしぶ賢者は納得し液体を分けた。
二人は別行動をとった。賢者は田舎村を経由して冒険者協会を目指し、勇者は天空の山の裾野を抜けて黒い森を突っ切る道を選んだ。