裁判準備②
そのころ、勇者は黒い森で戦っていた。新装備のおかげで、順調に経験値とお金を稼いでいた。
「だいぶ、魔物を倒したし帰るか」後ろを振り向く勇者がいた。そこには誰もいなかった。黒い森の静けさが勇者の寂しさを誘い町の宿屋に戻ることにした。町に帰る途中勇者は思い出した。ずっと黒い森にいて宿屋の宿泊代を付けてもらっていたことを。
やばい。まだお金を払っていなかった。冒険者協会で報奨金をもらわなければと心の中で勇者はつぶやいた。冒険者協会では冒険者の頭に手をかざすだけで戦いの記憶が見れた。それから魔物を倒した数で報奨金を出していた。
勇者は冒険者協会で報奨金を米が二十キロ入りそうな袋がパンパンになるぐらいもらった。勇者は米袋を担いで宿屋に向かうと宿屋の前で賢者が待っていた。
「おひさしぶりです。元気でしたか勇者」
「まあな。お前こそ、元気そうだな」二人は久しぶりに会い、ほっとしていた。特に賢者は満面の笑みを浮かべていた。
「しばらく宿屋で待っていたんですよ。もうちょっとで黒い森に行こうか迷っていたんですよ」
「そうか。それにしてもお前帰るの早くないか。まだ裁判日の一週間前だぞ」勇者は先ほどまでの寂しさが吹っ飛んで強がりを言って見せた。
「それはないでしょう。裁判の弁護材料を集めてきたんですよ」
「おお悪い。ご苦労だった」少しいじけている賢者を勇者なりに慰めた。傷ついた賢者が大きな袋に気がついた。
「その袋は、何ですか?もしかして中身はお金ですか」袋を持って勇者は手で叩いた。
「当たり。魔物をたくさん倒してきたおかげでな。気持ちよかった~。装備が良くなったおかげで楽勝」尊大な勇者がいた。
「すごいですね。私も早く強くなった装備を試したいです」それを聞いた勇者の尊大さが増大された。身振り手振りで魔物を倒した講釈が始まった。
賢者はこの尊大になる勇者がなぜか好きだ。たまにヨイショして賢者は楽しむ癖があった。講釈が三十分くらいたって賢者は勇者の手を掴んで止めた。
止めなければ永遠に続くことを賢者は知っていた。
「すみません。私の話もいいですか」
「おお。そうだな」勇者も我に返っり、二人は宿屋の部屋に戻って話すことにした。途中勇者は宿屋の主人に宿泊代を払っていた。
「こんなに。いただいてすいません」
「いいて。取っとけ」お金を大盤振る舞いする勇者がいた。賢者は無視して部屋に行った。いつもの光景なので見飽きていた。軽やかなステップで勇者は部屋に戻っていった。賢者は椅子に座って待っていた。
「座ってください。これから現実を話します」椅子に早く座るように促した。勇者も心の準備をしながらゆっくり腰を下ろした。一気に場の緊張が高まった。
「いきなり結論からいいます。裁判には勝てません」
勇者は衝撃を受けた。少しの間、痺れて動けなかった。
「大丈夫ですか」勇者は動けるようになった。
「ああ」少し元気のない返事をした。
「驚かせしましたね。話には続きがあります。勝てませんが、刑は軽くなるか、もしかしたら和解できると思います」
「本当に勝てないのか」負けるのが嫌な勇者は、しつこく聞いてきた。賢者はきっぱり答えた。
「勝てません。状況証拠は、ほぼ完ぺきです。勝つことも大事かもしれませんが、全滅するよりはいいでしょう」何よりも、全滅を嫌う勇者も納得するしかなかった。無様に死ぬのは、勇者のプライドが許せなかったからだ。
このあと二人は裁判に向け打ち合わせを済ませた。たまに勇者が机をひっくり返す音が響いていた。これには宿屋の主人が困っていた。
あの客。あんな大きな音立て何かしているな。もし部屋でも壊していたら、訴えてやろうか。待てよ。さっきお金多くもらったな。もしかして手付金か~。宿屋の主人は心の中で叫んでいた。新たな訴訟問題が生まれそうになっていることを二人は知らなかった。