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勇者裁判  作者: ワンワールド
勇者裁判 初裁判
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出廷せよ

 「限がないな」

魔物が木の後方に、草むら、土の中から出てくる。

 「そうですね。勇者」賢者は呼吸が乱れながら答えた。

勇者と賢者は魔物が溢れ(あふれ)、日差しが入ってこない黒い森と言われる場所にいた。

この場所は近くの住民でさえ、誰一人入ろうとしなかった。

 「勇者、このまま黒い森の攻略を進めるのは難しい。町に帰りましょう」と勇者に相談を持ちかける。

魔物が勇者を取り囲んで襲いかかって来る。相談どころではない。二人は言葉を交わす暇なく戦いに明け狂う。気が付けば魔物の群れは姿を消していた。息を乱しながら、お互いを見つめ合う。

 「黒い森の攻略を断念するのは嫌だが、仕方ない。帰るか」勇者は賢者の肩に手を掛けた。賢者も疲れた顔から笑顔でうなずいた。

 

 二人はフラフラになりながら森を出、近くの町に着いた。

けっこう大きな町で人通りも多かった。ぼろぼろな二人の格好は目立っていた。目線は気になるが、気にもしていられない。まずは休まなければ。二人は一直線に宿屋に向かった。

 「大丈夫ですか」宿に着いた二人を見た主人のおやじはびっくりして声をかけてきた。

 「ああ。大丈夫、部屋を用意してくれ。金ならある。早くしろ」面倒そうに勇者は言い放った。

主のおやじは驚きながら会釈して、部屋を用意しに行った。その横暴な振る舞いに賢者は憮然とした顔でいた。

 「今の、酷くないですか?せっかく気遣ってくれているのに。その態度はないでしょう。疲れているとはいえ」あまり怒らない賢者が説教し始めた。勇者は嫌そうな顔をしながら聞き流していた。大きな声に主のおやじが部屋から一目散に駆けてきた。

 「お客様、他のお客様もいますので。静かにしてもらいませんか」賢者は申し訳なさそうに頭を下げた。勇者は知らん顔で、何が悪いと堂々としていた。

 「ばか」

賢者は小声で言いながら勇者の頭を手で押さえつけ、無理やり頭を下げさした。

これには主のおやじも目を丸くしながら、苦笑いをするしかなかった。

 「お客様。部屋が整いました。どうぞ」二人は小声でケンカしながら部屋に案内されて行った。

 

 二人は部屋に入るなりケンカを忘れ眠りについた。魔物の襲撃が来ても起きそうになかった。丸一日が立って二人は目覚めた。

 「魔物。倒してやる。魔王待っていろ」つぶやきながら勇者は起き上った。それを微笑みながら賢者は服を着ていた。

 「いつもの儀式ですね」服を着替え終わり優しく声をかけた。勇者は、謎の微笑みを浮かべながら相槌をした。

 「主に朝食を頼んできます」賢者は部屋を出て行った。勇者はその間に身支度を済ませて、窓から朝の陽ざしを浴びた建物を眺めていた。ふと気付いた。コーヒーの匂いと肉の焦げた匂いが近づいてきた。ドアがゆっくり開いた。

 「お待たせしました。勇者の好きなコーヒーとパンとベーコンにトマトサラダです」賢者の元気な声が部屋に響いた。机に二人分の朝食が並び、食べながら二人は話し始めた。

 「黒い森の攻略。どうする」勇者は賢者になげかけた。賢者は口に入ったパンをコーヒーで流し込み答えた。

 「そうですね。あの森は魔物が多いですから。私たちが強くならないといけないのは分かります。ただ・・・それだけでは」歯切れの悪い答えが返ってきた。勇者は賢者をじろじろ観察した。結果賢者の言おうとしていることが、なんとなく勇者は分かった。

 「お前、お金のこと考えているな」

賢者のこめかみが一瞬動いた。

 「わかりやすいな、お前」勇者は誇らしげに言った。賢者は少しむっとしているが、すぐに冷静な顔になった。

 「そうです。お金です」

 「お金があればな~」と言いながら賢者は体を回転させて勇者にお辞儀をした。

 「服に杖もボロボロだな、お前」勇者がチクリと言った。

 「勇者こそ」とっさに賢者も返した。

 「冗談は抜きにして、勇者。装備を買えるお金はあるのですか?手持ちは私が管理しているし、銀行の預金もないはず。いい装備が買えるとは思いません」疑問そうに伺った。

 「口座。お前と会う前にもう一つ口座作っていたんだ。けっこう貯まっているからそれを使えばいい」

賢者は話を聞いてうれしくなり勇者と握手をした。


 二人は朝食を済ませ、銀行におもむいた。賢者は、銀行に着くまで心が弾んでいた。勇者が通帳の額を教えていなかったからだ。銀行に着くと勇者は自慢げに通帳を銀行員に渡した。

 「全額おろしてくれるか」通帳を受け取った銀行員は、笑顔で答えた。

 「了解しました。少々お待ちください」奥に下がっていった。けっこうな時間が経っても行員は来なかった。どうしたんだろうと二人は待った。口座にお金がないのではと賢者は疑い始めた。勇者も少し疑いが生まれてきた。

 「勇者様。すみません」行員が戻ってきた。

 「通帳の額がとんでもないもので奥の部屋に来てもらいますか?あと勇者様宛に電報も届いてます。引き取ってもらえますか」頷いた勇者は部屋に通される。

銀行で電報を受け取ることが冒険者はたまにあった。冒険者協会と呼ばれる冒険者を支援する協会と全世界の銀行が提携して冒険者宛の電報を引き取っていたからだ。賢者は椅子に腰を掛けて、装備品のカタログ雑誌を読んで待っていた。十分くらいで勇者は三十キロの米が入りそうな米袋を担いで出て来た。

賢者と周りにいる人たちが唖然としていた。

 「それすべてお金ですか」袋を指でさす賢者。

 「ああ。お金だ」勇者は返事をしてきたが、どこか浮かない顔をしていた。賢者は気になったが、大金があるので、早くその場を去りたかった。銀行を足早に出て、装備屋に向かった。二人の姿は町で目立っていた。賢者が足を速くする呪文をかけて装備屋にあっという間に着いた。賢者は着くなり銀行で見たカタログの装備品をかったぱしらに選び、勘定を済ませた。あまりの速さと大金に装備屋の店主の口は開っきぱなしであった。その間、勇者は浮かない顔をしている。賢者は状況が一段落したので、冷静さを取り戻し浮かない顔の勇者に声をかけた。

 「先ほどからどうかしたのですか?装備もそろったのに」

 「ちょっとな。こんなのは、初めてで。戸惑っている」勇者は懐から電報を出した。これがどうしたのかと賢者は受け取り、一通り目を通した。そこには勇者宛てに、裁判所からの電報が来ていたのだ。

 「勇者。この電報の内容は」賢者が詰め寄ってきた。勇者は賢者から電報を取った。

 「見たろ。呼出状だ。どうも、裁判に掛けられるらしい。何様のつもりだ。このお」おもいっきり勇者は電報を叩きつけた。

 「俺様は、勇者だぞ。魔王から世界を守るために戦って、何で、何で、裁判だよ」暴言を吐きながら勇者は暴れだした。その様子に町の人々は何事かと見ている。賢者は呆れた顔で勇者を止めた。

 「落ち着いてください。まずは冷静に対処しましょう。私も手助けしますので、安心してください」優しく声を掛け、電報を拾い上げた。町の人々も何もなかったようにその場から離れていった。賢者の言葉が勇者を落ち着かせ、二人は宿屋に戻った。

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