有子 in the School Life 後半
五時間目。体育。
私は体育館の壁際にへたり込んで、胃からこみ上げてくる甘ったるい吐息と格闘していた。
顔を上に向け、手足をだらりと床に投げ出して、完全に死に体だ。床の冷たさと、ほのかな木の香りが癒される。
体育教官は私のどす黒き顔色と、濁りきった目を見て保健室を勧めたけど、少ない気力を振り絞って固辞した。友達のミイちゃんやケイトちゃんも、うんうんと決死の表情で賛同してくれて、どうにかこうにか、体育館の端で見学する形に収まった。
どうして、保健室が駄目なのか? もし保健室に駆け込んだことがミツキに知れたら……想像しただけで胃がむかむかしてきた。
「ひどい顔してるぞ、ユウコ」
無遠慮に感想を告げたのは、シロだ。ミツキが強襲する時間を見計らって、早々に教室から退散した裏切り者だ。
これでもか、ってくらい文句を言いたかったが、口を開く言葉以外にいろんなものを吐き出しそうで、うーうーうなってやる。すると、いきなり首に冷たいものが押し当てられた。
「ひゃうっ」
びっくりして肩をすくめた。なにするのっ、と怒鳴ろうと振り向くと、目の前に黒い缶があった。
「ほら、口直し。正真正銘、無糖のコーヒー」
ぶっきらぼうに言った。呆然と目をしばたたかせていると、じれをきらして、私の手に缶コーヒーを握らせた。
「それで首でも冷やしとけ。何もしないよりはましなはずだ」
「あ、……ありがと」
「どういたしまして」
昼休みいなかったのは、冷たい缶コーヒーを買うため? ミツキのティーでグロッキーになるのが想像できたから……だったら、その場にいて身代わりになるなり、ミツキを止めるなり、直接的に助けてくれればいいのに。
気持ちがもやもやして、それっきり沈黙する。用は済んだはずだが、シロはなぜか立ち去らなかった。私は言われたとおり、首の横に缶コーヒーを当てながら――確かに、吐き気が軽くなった気がした――聞いてみた。
「あんた、サボってていいの? 男子は外でサッカーのはずでしょ?」
「今は別の二組が試合中。そうだな……、あと7分43秒はサボってても関係ない」
首から提げた懐中時計と閉じて、体操服の中にしまいこむ。呆れるくらい変わらないシロの態度に、私は心底呆れた。
「体育の時ぐらい、それ、はずしたら?」
「これがないと落ち着かないんだよ、ほっとけ」
「なーんか、時間に追われてるみたいでかっこわる~い」
シロがちらっと、私と見た。冷えた鉄のような黒い瞳が何を考えているか、想像する前にすっと視線を前に戻された。
何事もなかったように、今度はシロの方が質問を投げかける。
「今日も行くのか?」
目的地が外れていたが、私はしっかりとうなずいた。
「もちろん。今回は特に自信ありよ! 今度こそ、会長の鼻を明かしてみせるわ」
「懲りないな。ほどほどにな」
「あんたこそ、生徒会役員の端くれなら、会長に口ぞえするなり、ご機嫌取りしとくなり、手伝いなさいよ?」
私が言うと、シロは大きく嘆息した。
「こっち側だからこそ、そんなことするわけないだろうが」
すげなく答えるシロに、私は小さく、けち、と悪態をついた。
放課後。私は生徒会室の前で深呼吸した。 ちょっとした提案をするためだ。
生徒会長はいい意味でも、悪い意味でも、公平な性格の持ち主だ。『ぐずぐずするな、ちゃっちゃとやれ』が口癖。声を荒げず、絶対零度の低い声で言うから威力は絶大だ。そんな他人を睥睨するような、あるいは唯我独尊なあり方は、男女や先輩後輩はおろか、相手が大人だろうが、他人の親だろが、教師だろうが、市のお偉いさんだろうが変えない。
一本筋の通った会長の生き様に、女生徒は憧れや頼もしさを抱き、人を寄せ付けない空気と反比例して支持層は厚い。女が上にいるのが気に食わない旧体制的な考え方を持つ男子もいることはいるが、いざ面と向かって対決を望む猛者はいない。不穏な火種は、会長に選出されたその日に軒並み微塵に帰したという逸話もある。
「……よし。たのも~!」
先手必勝とばかりに高く声を出し、勢いよく戸を引く。
教室の同程度の広さの部屋に、かすかに甘酸っぱい匂いと萎凋させた茶葉の香りが漂っていた。
生徒会役員は出払ってるのか、部屋には会長しかいなかった。左右3つずつ長机が皇室に控える兵士のように縦に整列し、最奥の議長机に生徒会長、城宮ココロが物憂げに頬杖ついて座っていた。壁際の本棚には去年以前の資料が整頓され、左側は打ち合わせスペースにはソファーとテーブルが一そろえある。一瞬、ここが学校というのを忘れてしまいそうな、厳格な雰囲気が支配していた。
息を整えて、会長の座る席に踏み出すと、機先をとるように会長がゆるりと横目を向けた。ぴんとまっすぐな黒髪が、ほんのわずかに揺れる。会長が流れるように髪をかきわけると、形のいい耳と一緒に、赤いハート形のピアスが高貴な音を鳴らす。
「何用だ、夢野ユウコ」
ココロ会長はすぐに興を失ったように視線を戻した。
「あいにく、毎日のように貴様と戯れられるほど、私も暇ではないのだが」
もっともらしい理由を告げつつ、目を落とす単行本のページをめくり、ココロ会長は机上のりんごタルトをフォークで切り分け口に運ぶ。湯気を立てるティーカップはソーサラーの上にスタンバイ済みだ。これ、笑うとこよ?
「優雅にお茶しながら休憩してるようにしか見えないですけどぉ?」
「適度に休息することも、れっきとした上のものの責務だ。煮詰まって思考が固まってしまえば、正しき判断を下すことも、部下に指示を出して効率よく仕事を回すこともできぬ」
「無茶な量の仕事を、無茶な納期で投げられて、ほかの人たちが日に日にやつれてる気がするんだど……」
不用意に本音を漏らすと、鋭い視線をくれた。何か文句があるか、と目が告げている。威圧的ににらまれ、びくと身を硬くした。
「まあいい。本題に入れ。少しはましな議案を持ってきたんだろうな」
ココロ会長は怖い人だが、人の意見を聴かず否定することを無粋と考えている。
私は胸に手を当て深く息を整えると、鞄の中から一枚ビラのA4用紙を取り出した。
「校則の改善提案を持ってきました!!」
「ふむ。拝見しよう」
指で挟み、すっと私の改善提案書を引き抜くと、頬杖キープで内容を改める。
すばやく目を左右に動かし、たった一行でまとめられた提案を読みきると会長は口を開いた。
「夢野ユウコ。本気でこんな案を採用すると思ってるのか?」
「もちろんです! これ以上に学習効率が改善する方法はないに決まってます!!」
身を乗り出してうなずくと、ココロ会長はよほど感銘を受けたのか、額を手で支えて息を漏らした。
「そうか。……わかった」
「じゃ、じゃあ、早速印鑑を」
気がはやる私に手の平を向け押しとどめると、会長はサインペンを執り、引き出しから書類を出した。
「腕のいい精神科の病院を紹介してやる。父の勤務先の系統だ。私の名を出せば多少は優待してくれるだろう。ほら、簡易のものだが、紹介状だ」
話があらぬ方向に飛んで、私が頭の中が真っ白になった。そういえば、会長のお父さんって大学病院の教授だったっけ、と関係ない情報をぼんやり思い出す。
「て、私は健康だし! 病気なんて風邪くらいしたことないものっ」
「日ごろから馬鹿だとは思っていたが、二桁の引き算もできぬ大うつけだったとは。親御さんの無念が嘆かわしい」
「ちょっ~~~、言うに事欠いて、何失礼なこと言っちゃってくれてるの!」
机を叩き、前のめりになって訴えると、ようやく会長は顔を上げた。
正真正銘、本域のしかめっ面で私をにらみ付けた。身の毛のよだつ恐怖を感じて、とっさに数歩身を引いた。
「では、まず、貴様が持ってきた案について改めて貴様の口から言ってみろ」
ひときわ低い声で、会長が質問する。ここで引き下がったらいつもの二の舞、女も廃るっ。正念場と気持ちを切り替え、はっきりと提案を復唱する。
「授業一回につき、15分の居眠りを許容する、ですっ」
ココロ会長が、ぴくりと右の口端だけを器用に吊り上げた。
「そうだな。では、尋ねるが、貴様、当校の授業時間は何分だ?」
「45分です!」
「そうだ。45分だ。つまり貴様の提案は、貴重な授業時間の、実に3分の1を睡眠に費やすことを認めろということだ」
会長が丁寧に私の提案を説明する。間違ったことは言ってない。なのに、会長は今にも笑いこけそうなくらいに唇を弓なりにゆがめていた。毒々しくも、蠱惑的な見事な笑みに引き込まれそうになる。
ただし、目が笑っていなかった。まぶたを限界まで開き、目端はぴしぴしと痙攣している。いつ血管が切れるかはらはらする憤怒が、ついに我慢の限界が訪れた。会長が大きく息を吸う。
「こんなふざけた提案を承認できるわけないだろうが!!!」
窓や鼻のガラスをがたがた震わせ、室内のありとあらゆる備品を吹き飛ばすように怒気を飛ばした。会長の声圧には圧倒されたが、聞き捨てならないと踏みとどまる。
「ふざけてなんてない! だって、先生たちの話なんて子守唄にしか聞こないもの。そんな睡眠欲をかきたてられたら、うとうとしてきて授業を受けるどこじゃないもの!!」
「それは貴様の不徳の致す結果だろうが! 不断の努力を欠いておきながら、いけしゃあしゃあと責任の所在を他者に求めるな!」
「そういう難解な言い回しが、眠気を誘うの!」
「だったら、簡単な言葉に言い換えてやる! いいか? 授業の内容が理解できないなら、理解できるように努力しろっ。予習するなり、復習するなり、頭のいい友人や担当教員に分かるまで質問するなりしてな。理解する努力をせず、理解できないのは先生の説明が悪いと責任転嫁するんじゃない!」
どうだ、と会長はぜはぜはと荒っぽい呼吸を繰り返す。むむ……。まるで私だけが悪いような言い草! 授業は難しくて悩んだことのない人には、到底わかんないのよ!
「少しは、定期試験のたびに3、4回も追試を実施する羽目になる教師の苦労も考えてやれ」
「そんなの生徒が解けない問題を作るほうが悪いもん」
「出題範囲は事前にきっちり伝えて、練習問題も解かせているだろう!?」
「問題文の言い回しとか、記号や数値を変えられたら分かるかけないじゃない!」
「開き直るなっ! 多少の変化くらい柔軟に対応しろ!!」
「だったら、追試なんてしなきゃいいじゃない!」
「教え子をどうにか進級させたい親心から付き合ってるんだろうが!!」
ぜえ、はあ。なかなか折れない会長に、私は息も絶え絶えだった。
「それに、おんなじ鬱憤を抱えてるのは一人二人じゃないはず! きっと私の案に賛同してくれる人は多数いるもの!」
「だったら、だらけきったそいつらを雁首そろえてここに連れて来いっ! 高校3年分の学習要綱をみっちり頭に叩き込んでやる! 一日8時間、うち休憩1時間っ。週休二日は保証してやろう。なんなら、箸休めに私の手作りタルトもつけてもいい!!」
売り言葉に買い言葉、喧々囂々とヒートアップする。もはや自分がなに言ってるか分からなくなってきた。
会長は机に両腕をつき、ぐったりとうなだれている。私も酸素不足で貧血手前だった。
「とにかく、貴様の改善案は棄却だ」
疲れたように、結果通告される。体から飛び出そうとする意識をかき集めて、食い下がるため口を開くより先に、会長が私の制服の襟をつかんで廊下に投げ捨てた。受身が取れず、鼻の頭から床にキスをした。
「授業のあり方を非難する前に、自分の生活態度を見直すことから始めろ! 以上だ!!」
がしゃんと締め出されてしまった。私は強打した鼻をさすりながら、床にぺたんと座り込む。
「いった~~。あの暴力会長め。最後は腕力に物言わせやがってぇ~~~」
生徒会室に向かって、あっかんべぇしてるとため息交じりの声が聞こえた。
「自業自得だろ」
いつの間にかシロが近くに立っていた。窓側の壁に背中を預け、年季の入った懐中時計を平坦な表情で見下ろしている。
「12分44秒。会長も、まともに付き合わず追い返せばいいものを。律儀というか、苦労性というか」
「ふん! どうせ暇つぶしでしょ? い~~~つも、お茶して寛いでるし。書類仕事や、部長や先生との折衝とかは下に任せて、自分では何一つしてないでしょ?」
「ユウコと一緒にするな。会長はよくやってるよ。仕事の絞め方と、力の抜き具合がうまいんだ」
なんか、シロが手放しに会長を褒めてるのが気に食わなかった。なんだろう、会長に宣告された怠惰を言外に肯定された気がしてもやもやするからかな。
ふん、腕組みして顔をそらすと、シロはフォローのつもりかこんなことを言った。
「まあ、ユウコが来るのを心待ちにしてるって点は、あながち間違ってもないかな」
「ふえ? それって、どういうこと?」
思いのよらない意見に反射的に問いただす。口を開けば喧嘩してばかりなのに、楽しみにしてるなんて、意味が分からないもの。
顔を上げると、世にも珍しいものを見た。
シロが口に手を当てて、声を出して笑っていた。いつも時間に追われるように時計ばかり見て、雲みたいに掴みどころのない無表情が、砕けた表情で笑っていた。
「え。ええ? な、なななんで、笑ってんの! どういうこと? ちゃんと説明して!?」
「くくく、……いや。ほんと気づいてないんだなって」
私がいくら理由を聞いても、シロは笑って誤魔化した。目端に涙なんてためちゃって、思う存分笑いこけた後、ようやく一言だけ答えてくれた。
「つまり、誰に対しても厚顔無恥に振舞う女王様でも、声を大にして鬱憤を晴らしたい時もあるってことさ」
ひどくもったいぶった言い方だ。女王様ってのが、会長に対する揶揄だとは気づいたが、こいつがしょうゆ顔の割に性根が曲がってること以外はちんぷんかんぷんだ。
「意味わかんかい」
「そうかい」
私を起こそうと手を差し出すシロの表情は、無表情に戻っていた。声に談笑の余韻を引いていたけど。
余裕ぶった態度が尺にさわり、シロの手を払うと自力で立ち上がる。埃まみれのスカートとブラウスを乱暴に払うと、顔を背けたまま廊下を歩き出した。
あわせず騒がず、足音が一人分付随する。私は振り返って確認なんて間抜けなことはせず、突き放すように言った。
「ココロ会長に用があったんじゃないの?」
その質問を待っていたかのように、間をおかず飄々とした答えが返ってくる。
「ないわけでないけど。あれだけ力いっぱいわめき散らした後だ、疲れてるやら、みっともないやらで、報告や相談の類なんて耳に入らないだろうさ」
「嫌みったらしい。会長の心理状態なんてお見通しですかぁ? ほんと、さいってい」
「おいおい、勘違いの上に妙なかんぐりするなって」
口調に焦りが見えたが、私は無視して上履きをシューズに履き替える。
気温が下がって空気は澄み切っていた。空も、石畳も、帰る人も、並木の梢も、仲良く淡い赤色に染まっていた。もう一本、と掛け声とともに、グランドから景気よい金属音が鳴り響いた。
「一つ訂正しとくが、俺が生徒会室にいたのはお前を迎えにいったからだからな」
追いついてきたシロが弁解した。ふうん、そうなんだ。胸の中心で蟠っていたもやが、どうしてかすっきり晴れていくのを感じた。さっきまでのことは水に流してやるか、とふふんと鼻を鳴らしながら思う。
「ほら、今日ってお前が好きなバラエティがある日だろ? アイドルグループが、ゲストとスポーツを取り入れたアトラクションで対決するやつ。ユウコのことだから、番組あるの忘れてそうだし」
しかし、続けざまの一言でシロの評価は、がくんと急直下した。偶に嬉しいこと言ったと思ったらこれだ。
「ほんと、分かってないのはどっちだっての」
無意識に、誰に言うでもない不満がもれたのだった。
「せんぱい、せんぱい! 今帰りですか!」
前方から宵の雰囲気をぶち壊す、落ち着きのない声が、私を呼んだ。
「奇遇ですね! 放課後もせんぱいに会えるなんて、ラッキーです! ハッピーです!」
ミツキは飛び跳ねて喜んだ。ほっとくと、一人でもオクラホマミキサーを踊りだしそうなはしゃぎっぷりだった。
「はあ。ミツキは悩み事がなさそうで羨ましいなあ」
「そうでもないですよ。明日のおやつは蜂蜜たっぷりハニートーストにするか、もちとろな白玉の黒蜜のせにするか、さっきまで悶々と考えてたんですよ! うーん蜂蜜のねっとりした奄美の捨てがたいんですけど、黒蜜の上品な感じも偶に恋しくなるんですよねぇ~」
「甘いものばっかり食ってると、頭の中まで砂糖菓子みたいに激甘になるぞ」
「なりません~。女の子の半分はお砂糖でできてるんですからっ。ね、せんぱい!」
「あ~。うん、そうねー」
ハイテンションで、ミツキが私の腕に自分の腕を絡めてくっつくので、いつものように髪をなでてやる。髪がくしゃくしゃになるのも構わず頭を押し付けてくるミツキを見ていると、些細なことに一喜一憂するのが馬鹿みたいに思えてきた。
「せんぱい、意地悪なシロさんなんてほっといて帰りましょっ。駅前のジェラート屋さんが新作出したらしいですよ」
「ふぅん。でも、ごめんミツキ。今日は見たい番組があるから。だから、寄り道は今度にしよっか」
「えー、そーなんですか……。うぅ、せんぱいと寄り道したいですぅ」
「三橋、あんまりユウコを困らせんな」
駄々をこねるミツキを、シロが横から引きはがす。強引な手段で引き剥がされてご立腹なミツキは、シャーと逆毛を立てながら猫みたいにシロを威嚇する。ほほえましい(?)光景を見て、うじうじ考えるのをやめようと思った。
「仕方がないなぁ。ちょいと駅前まで、寄り道いきますか」
呆れたようにため息をつくと、シロとミツキが同じタイミングで私を見た。息ぴったりじゃん。声には出さす小さく笑う。
「ほんとですか、せんぱいっ!! わ、わ、感激ですっ。よっりみち、せんぱいとよっりみちぃ!」
くるくると猿回しのように小躍りするミツキを見て、シロが、いいのか、と視線だけできた。
私は、いいのよ、とこれ見よがしに胸を張ってやった。
偶には寄り道だって悪くない。ミツキに習って、甘いものをたらふく食べたっていい。分からないこと、知らないことばかりの不思議な世の中なんだから、思いつく限りの経験をして、少しずつ分かろうと努力していくしかないじゃない。
そうやって、今は遠回りでも、いつか自分の中にあった感情を素直に吐露できるよう、さまよい続ける。
どこかしらネジが外れた変人たちが暮らす、変てこな世界を。