親友
祐介は自分の教室に帰り、ある人物を探そうとしたが、逆にその人物の方から祐介に声をかけた。
「おい祐介、お前神の所に行ってたよな」
「ああ、行ってたが。何か問題でもあるの?」
その男はまるで苦虫でも噛んでいるような顔で祐介に近づき、小さい声で、
「いや最近のあいつってカルトっぽい所にいるじゃん……。なんか変わっていく人を見るのが嫌だ。怖くて、ときどき遠くからでもしかれないわ」と、言った。
「どっかで聞いたことのあるフレーズだな。まあ沙苗は確かに大いなる野望は秘めてるっぽいが、別に中身は変わってなかったぞ。」
「そっかー。まあ祐介が言うのなら、その通りなのかな」
その人物とは男で、整った爽やかな顔に少しパーマを当てた茶髪をしていて、まさに今風の正統派なイケメンと言ったところだ。決してチャらいという訳ではない。ただ少し顔に自身がなく、人によっては弱々しく見えることもある。
彼は良くイヤホンで音楽を聞いているのだが、身長が高いのもあって、その姿がまた似合う。後輩の間で同じイヤホンを付ける者が続出したほどだ。
名前を池綿茂手織といい、人物像を簡単にいえば、その名前に負ける事なく本当にモテてる人である。祐介はこう言った、「俺がその名前なら、名前負けどころか勝負すらしないだろう。どこかの森に一生引きこもってる」と。
出会いは小学生の時に名前で軽い虐めを受けていた池綿を見て、「名前ほどではないが、こいつはモテる素質を持っているな」と祐介少年の先見之明により友達にした。
友達になった理由は微妙だが、それから親交は続き、今では親友とも呼べる人物である。当然、沙苗とも面識がある。
「で、何で沙苗の所に行ってたわけよ? そんなガラでも無かろうに」
その質問に対し、祐介は怒りを露わにして
「なんだとお前! 悩みがないって、俺をバカって言いたいのか! 悩みを引かない俺はバカってか!」と、軽く突っかかった。
「悩みと風邪がごっちゃになってますねえ……。で、本当にどうしたの?」
「いや、俺の妹の事なんだけどさ……」
「あの可愛い花にはトゲではなく、可愛い花には爆弾があるの、お前の妹か……」
そして祐介以外で唯一、乙音の裏側を知る人物でもある。
夜中にランニングをしていた時にたまたま見かけたらしい。普段礼儀正しい乙音の事もよく知っており、祐介の確認を取るまでは本人も信じられなかった。
「で、祐介の妹がどうしたの? ついに誰か殺っちゃったとか?」
「いや、ある意味それよりヤバい事になってる」
「死人が出るよりヤバい事って無いだろ。あるわけが無い。」
祐介は頭を抱えながら、間を溜めに溜めて、険しい顔をしながら
「妹が────俺に惚れた!」と、言った
「まさかの死人が出るよりヤバいのきたあああああああ!!!!」
祐介も池綿も2人して頭を抱えた。周りから見れば、アホな2人であろう(事実アホかもしれないが)。
「で、お前はどうするのよ? これから妹ちゃんと付き合っていくわけか? 二重で大変になるな」
二重とは、妹と付き合う事は、要するに身内と付き合うということと、もう一つは爆弾である。
後者はもはや説明不要であるが、前者は当人の関係だけでなく社会的な目もある。煙たがる人も大勢いるであろう。
「別に俺は妹とイチャイチャする事は問題だと思ってないよ。現に妹は可愛いし性格も良いし、隣歩いてても気分が良いわ。そんなラノベに良くいる妹と付き合う事を躊躇してる奴らの方が分からんね俺は」
「まあ、生物学的に言えばそっちが正しいんだけどな……」
「だがしかし! 爆弾は怖い! 爆弾に見守もられながら付き合うってのは無理!どういう事かと説明させてもらうとだな!
デートしてる時も、
愛を語らってる時も、
将来を語らってる時も、
Aしてる時も
Bしてる時も
Cをやっちゃってる時も、
Dっちゃった時も!
すぐそばに爆弾がいるんだぞ! まだオカンに見られてる方がマシだわ!」
祐介はビシッ! 指をさした。実際にビシッとは鳴っていないが、鳴っているように感じるほど、それはたいそう美しい指差しであった。
「でもさ、爆弾で死人が出た事はないんだろ。だったら付き合っても良いんじゃねえの?」
「バカやろうお前! 例えばな、上空5000メートルぐらいでパラシュートで飛び降りろって言われたら怖いだろ? 死人は今まで出てないと仮定して」
池綿は少し考え、「うーんと。怖いと思う」と、言った。
「そうだろ。もう上空5000メートルまで来たら死人が出てないのは問題でじゃない。パラシュートが開くか開かないかの2拓なんだよ! 分かったか!」
「なんとなく分かったが、俺の場合は上空5000メートルを飛ぶことも手榴弾投げつける妹とも関係の無い人生だしなあ……」
「俺の妹をやろうか?」
池綿は腕をクロスさせながら「お断りします」と、はっきり断った。
教室が変にざわつき始めた。基本的に教室の自由時間は騒がしいものであるが、朝ということもあり、大きな声で喋っていた祐介達は注目の的になっていた。中には不快に思っている者も当然いるであろう。
それを感じ取ってか、池綿はごめんごめんと爽やかに陳謝した。すると男子は納得し、女子は目がハートになっていた。
ただ単に顔が良いと言うのもあるが、池綿には自分を上手く見せるコツみたいなのを持っている。そういうのが出来る人は顔の善し悪し関係なくモテるであろう。
そんな起点の利く池綿を見ながら、祐介はため息をついて
「なあ、お前に悩みを打ち明けようと思うんだが」と、言った。
「え! お前が?」
今までに祐介と池綿の間に、悩みを打ち明けるという行為は結構あった。しかし、そのどれもが池綿から祐介に悩みを話す事で、逆パターンは初めてであった。
昔はもっと消極的だった池綿は、いつも冷静に物事を判断できる祐介がとても大人に見えた。それは今でも変わらない。そんな祐介からの悩みということで、池綿も気合が入った。
池綿は背筋を伸ばし、祐介の肩を軽く叩いた。
「俺で良ければ何でも聞くぜ」
それを聞いて、祐介は怪しく微笑み、囁くような声で、
「ん? 今何でもって言ったよね?」と、言った。それを聞いて池綿は少し焦った顔をしながら
「訂正。えーっと、ホモ的なと言いますか、ケツを出す意外なら何でも良いよ」と、言った。
「なんだ……ケツはダメなのか……」
「っていうか、本当に何の悩みなの!」




