新沼・ボンバーマン・乙音
朝、祐介は布団の中にいた──充血し、真っ赤になった目を大きく開けながらである。
「くっそ……、妹が起こしに来ると思ったら怖くて寝れなかったわ……。デレる前から結構過激な起こし方してたしな。……朝起きれないからの「私の理想の人とは違う!!」と言われて、手榴弾で爆死エンドも充分に考えられる」
昨日の妹が祐介に恋をした理由は、以前から自分を守るように告白して来た男を無理やりブロックしてくれた人はいるのだが、昨日は会った男に対し、祐介の話し合いだけでの引き離し方が、大人っぽくて素敵に見えたとか。
まだ外も暗い朝の4時、祐介は喉が乾いたので水を取りに台所へと向かった。
祐介には廊下の様子が不気味に見えた。廊下や壁が木で出来ているのだが、その模様が夜になるとオバケっぽく形が浮き出てくるのである。子供の時はよく親と一緒に降りてきてもらったものだ。
しかし台所へと向かう途中、暗闇の廊下で一筋の明かりが見えていた。光を目で辿ると、乙音の部屋に明かりがついていた。
そして耳を済ますと、何やらカチカチと、不規則な音が鳴っていた。
「不規則ってことは、時計の音じゃないよな……」
祐介はとても嫌な気がしていた。乙音の部屋のドアは可愛い装飾がしてあるものの、今この状況でみれば不気味以外の何ものでも無かった。
しかし、確認をしないわけにはいかず……
「おい乙音! 開けるぞ!」
祐介は勢い良く乙音の部屋のドアを開けた。
────バタンッ!!!
「へ?」
すると、そこには産まれたままに近い状態、いわゆる下着の状態で手榴弾を弄っている乙音の姿があった。
二人は驚いて少しの間、何も言えなかった。
乙音は急に兄が入ってきて下着姿を見られたという衝撃、そして祐介は妹が夜な夜な自分へ向けてであろう手榴弾を作っている妹の姿をみた衝撃に声を失ったのだ。
とりあえず祐介は顔を横に何度か振り、いつも通りの表情を無理やり作り「なあ乙音、そこで何してるんだ?」と、平静を装って聞いた。
すると妹は両手に手榴弾を持ち、左手で胸を、右手でパンツを隠すようにしながら、
「キャアアアアア!! 兄さんのエッチーー!!!!」と、叫んだ。
「お前はどんな下着の隠し方してるんだよ!!!!しかも全然隠せてねえし!!」
「いいから、いいから見ないで下さい!」
興奮した乙音は手をぶんぶんと振った。
「わーー!! その手に持ってる物を投げるなよ! 投げるんじゃねえぞ! 振りじゃねえぞ! ここに上島竜兵はいないぞ!」
「ううう……恥ずかしい……」
乙音は座り込んでしまい、顔を赤くして下を向きながら、ぷるぷると震えて下着を隠した。
祐介はとりあえず興奮している乙音を落ち着かせようと思い……
「おい乙音、とりあえず落ち着け。落ち着いてこっちを見ろ」
「……はい……」
乙音は半泣きのまま、祐介の方を見た。
すると、そこには上半身裸でズボンをずらしてトランクス一丁の祐介の姿があった。
そして祐介は優しい表情をしながら「な、乙音。俺も裸だからこれで良いだろう。入るぞ」と、言った。
それを見て、乙音は一旦目を点にしてから……
「キャーーーー!! 変態!! いやーーー!!」と、更に混乱した。
そして右手を投手のように振りかぶった。
「わーーーーーー!!!! いやジョークだ! ジョークやねん! 面白く無かったら謝ろう。ごめんなさい……。だからとりあえず投げるのは止めようマイシスターよ!!!!」
乙音は振り上げた右腕をゆっくりと振り下ろした。
まさに現場は混乱していた。そして、この状況を他の人が見れば、夜這いに来た兄としか見られないであろう。
そして祐介は少し落ち着いた乙音を見て、
「まあ、とりあえず落ち着こう。ちょっとズボン上げるから待っててね」と言った。
しかしズボンを上げようとした時、裾が引っかかり後ろ向きにこけてしまった。
祐介は赤ちゃんのような姿勢になり、そしてトランクスの間から……砲台と黄金の手榴弾(隠語)が姿を現した。
乙音はそれを見て、それが何かを理解するまでコンマ一秒もかからなかった。
「キャアアアアアアア!! 成仏してください!!」
今度こそ、右手から手榴弾が放たれた。
「わあああああああああああ!!!! やっちまったああああああああああ!!!!」
逃げようにも体勢が体勢なだけあって動けない。焦れば焦るほど足が絡みつく。
そして手榴弾は放物線を描きながら、ゆっくりと祐介の元へ行き……
──祐介はそれを手で受け取った
「て! 何で俺はキャッチしてるんだーーーーーー!!!! 」
動く物を取るというのは、多分人間の本能的なものであろう。
祐介は手榴弾をジッと見つめ、
「死の間際だと言うのに、隠してるエロ本の場所が気になってる俺って……」と言い、
────死を覚悟して、目をつむった。
しかし、いつまでたっても爆発することは無かった。
祐介は目を開けて周りを見た。そこには恥ずかしそうに目を伏せている乙音の姿があった。祐介は、
「なんで爆発しないの」と、聞いた。
「まだ安全ピン外してないですよお……。家で爆発させるわけ無いじゃないですか……」
祐介はため息をつき、「外でもやったらダメですよ」と、言った。
祐介は廊下に出てズボンをしっかりと穿き、妹が服を着るのを待った。
「それじゃあ入るぞ」
「……はい」
そこには座布団が2つ敷いてあった。祐介はどっかりと座り、乙音と対面した状態になった。
「まあ、お前の下着を見たのは謝ろう。そして、手榴弾についても一旦置いておこう。後で必ず確認するけどな!」
「はい」と、乙音は少し涙目ながらも、いつもの感じで返答した。
「それより、昨日とさっきの反応から察するに、もしかしてお前の中で俺とお前は付き合ってる事になってるんじゃないか?」と、祐介は恐る恐る聞いた。
そして乙音はポっと頬を染めて、
「そうですね、付き合ってます」と、はっきり言った。祐介は呆然として「何で?」という間の抜けた質問しか出来なかった。
「はい。私の場合は、例え相手の片思いでも尊重してお付き合いをしてきました。それで今回は初めてと言ってもいい、私の片思いです。よって私と兄さんの関係はお付き合いしていると断定できます」
「なんでお前の事情で俺が付き合わないとダメなんですかね……」
そして乙音は目をカッと広げ、片手で手榴弾を上げながら、
「兄さんとなら、私との爆発的(物理)な恋を成就出来ると思います!」と、胸を張りながら言った。
「こっちはそれが原因で嫌って断ってんだよ! 一人でボンバーマンでもやっとけ!」
祐介がそう言うと、なぜか再び乙音は目をウルウルさせて、恋する乙女を通り越し、発情しているかのような顔でこちらを見た。それを見て、祐介は更に混乱した。
「え? また俺は地雷を踏んだのか? どこだ? ボンバーマンのくだりか? 俺と話しててボンバーマンをやりたくなって顔を赤くしてるんだな! 確かに一人じゃあれクリアするの無理だよね! ボスとかめっちゃ強いよね! しかも途中でゲームオーバーになったらまた初期状態の装備になるか辛いよね!」
「違います。それで私は、一人で全クリしたことがあります」
「すげえ!」
「そんな事よりも、ですね、兄さん……」
そして乙音下を向きながら、囁く程度の声で、
「手榴弾が無かったら、私と付き合っても良いって事ですよね?」と言った。
聞いてすぐに意味を理解出来なかった祐介は、ボンバーマンの前の発言をゆっくりと思い出した。
『こっちはそれが原因で嫌って断ってんだよ』
この言葉から導かれる意味とは、
『それが無ければ付き合っても良い』と言ってる意味と何ら変わりなく……
──そして兄妹二人して、顔を赤くした。




