第6話 心配2
寮館長にバレない様に部屋の窓から外に出た。
寮は黎明学園の敷地の端っこにあり、全部で三棟ある。それぞれ学年ごとに分かれており、一年生の寮は校舎側に最も近い場所にある。その為他の学年に見られないで済みそうだ。
「もう始まってるよな?」
「そうだな。きっと生徒会は風紀委員と見回りにいっている筈だ」
「へぇ~っていうか、よく知っているな」
そう言うと幸太はニヤリと笑った。
また例の情報屋か。
幸太は黎明学園にいる情報屋と名乗る生徒と仲が良く、よく情報を交換し合っているらしい。
校舎に着き、人気の無い北棟から侵入する事にした。普段もここは人気が無いから、不良共のかっこう溜まり場になっている。
俺は前ここで・・・。
過去の事を思い出し思わず立ち止まってしまった。前にこの北棟で会長の親衛隊に強姦されそうになったのだ。その時は直ぐに幸太が駆け付けてくれて助かったけど、今でもあの時の事を思い出す。
震えるほど怖かった。やめろと叫んでもやめてくれなかった。
ここにいると思いだす。あの時の事。
寒くないのに体が震えだした。
怖い。怖い!
「大丈夫だ」
身体が温かくなった。気がつくと幸太に抱きしめられていた。
幸太が俺をギュッと抱きしめる。
ああ――。
「もう怖くない。俺がいる」
「こうた・・・ありがとう・・・」
――温かい。
幸太はいつも俺の傍にいてくれる。いつも俺の味方でいてくれる。
俺にとって幸太は掛け替えのない大切な・・・
「ん?橘?」
第三者の声が聞こえ、俺は思わず幸太から離れた。幸太が名残惜しそうな顔をしたが、それも一瞬で直ぐに声のした方を見る。
そこには俺と同じ学年である校章をつけた男子生徒がいた。制服を着崩し、手や耳には装飾品が目立つ。目つきは悪いが、結構綺麗な顔をしている。
「柏木か」
「お前今日寮にいるはずだろうが。何でここにいんだよ」
「それはこっちのセリフだ。お前こそ何でここにいる」
「俺は・・・その・・・」
柏木という生徒は視線を彷徨わせ、頭をぼりぼりとかいた。
「俺のことはどうでもいいんだよ。お前らこそ何でいるんだ!」
「・・・万理の妹の様子を見に来た」
「万理って?」
「俺です」
名前を呼ばれ手を上げる。柏木はギロリと俺を睨む。
「万理?何万理だ?」
「高水・・・じゃなかった。鳳千万理です」
「ほうせん!?」
柏木が驚いた顔を浮かべた。そして何かブツブツと呟きだした。
「妹は・・・千尋か?」
え?
「何で千尋の事を」
「いや・・・さっき偶然会ったというか」
「さっき?妹はどうしてました?」
「・・・行方不明の生徒を捜していた。俺は今それに付き合わされている」
行方不明!?
「どう言う事だ?」
「交流会の途中で麗鈴の生徒が行方不明になったみたいだ。この事は他の奴らに公にはされていないようで、動いているのは風紀委員と生徒会みたいだぜ」
柏木は全く面倒だぜと呟き、俺たちの横を通り過ぎそのまま立ち去った。
何が起こっているんだと幸太と顔を見合わせた。
「取り敢えず妹は無事みたいだな」
「ああ」
「これからどうする?寮に帰るか?」
「・・・う~ん。そうだな帰るか」
窓枠に足を掛け、校舎の外に出る。今日の天気は晴れ。雲ひとつない。こんな日に寮で一日過ごすのはもったないよなと思ってしまう。
幸太が窓枠に足をかけ、校舎から出ようとした時だった。
「鳳千万理?何でここに!?」
後ろを向くと、どこかで見た事がある生徒がいた。彼の後ろには彼同様に驚いた生徒達がいた。
ああ、彼らは・・・。
「まあいい。違う人間が来たからびっくりしたけど、丁度良かった。僕達とつきあってくれる?」
ニヤリと笑う彼に身体が震えた。
こいつらは・・・あの時の・・・!
会長の親衛隊の三間坂!
「万理!」
視界が幸太の背中に遮られる。幸太が小声で話す。
「(校舎に戻れ。柏木を追いかけろ)」
柏木・・・?
さっきの奴か!
俺は幸太にごめんと言って、校舎に戻る。三間坂が追え!と叫んだのが分かった。
廊下を走り、柏木を捜す。
何処に行ったんだよ!
後ろから足音が聞こえてきた。
幸太かと思い立ち止まって角から伺う。
「何処に行きやがった」
「いたか?」
違う。幸太じゃない。親衛隊の奴らだ。
幸太はどうしたんだろうか。
「東棟や西棟も捜して見るか?」
「いや、よそう。そっちは人気が多い」
じゃあ俺は東と西にいけばいいんだな?確か同じクラスの津田が茶道部にいるはずだから、助けて貰おう。
そう思い、角の向こうの親衛隊から逃げようと思った時だった。
「見つけた」
――え?
誰かがそう呟き俺の視界は一瞬で黒く染まった。