第2話 事件発生
あらすじを変えました。
各クラブの会場を後にした私たちが本部に向かう途中、私の携帯が鳴りました。
「はいもしもし?え?会長・・・?どうなさったんですか?」
高等部生徒会会長からかかってくるなんて珍しいのです。私は中等部の生徒会長。高等部と中等部は校舎が離れていますし、接点と言えば学校の行事等で顔を合わせる位です。そんな彼女から電話がかかってくるなど初めての事でした。
というかアドレス交換しましたっけ?
「・・・え?それは本当ですか?・・・はい・・・わかりました。伝えときますわ」
携帯をきり、私は久原さんと三河さんに会長からの伝達事項を伝える事にしました。
「麗鈴の生徒が一人、行方不明らしいです。茶道部の高須千寿という名前で、風紀委員のお二方は直ぐに捜索に向かって欲しいとの事ですわ」
その言葉に他の三人は驚いております。すると久原さんが携帯を取り出しました。きっと他の委員に連絡をとるのでしょう。
「大丈夫ですわ。他の委員の方にはもう伝わっているようなので。風紀委員は取り敢えず茶室に集合らしいです」
「そうですか。では我々はこれから行方不明の生徒の捜索チームに加わりますので、お二方はこのまま本部へお戻りください」
久原さんはそう言うと、三河さんと共に踵を返し、どこかへ去ってしまいました。
佐治さんが不安そうな顔で私を見ているのが分かります。
な、何て言う事なの?
私は思わずフルフルと震えました。怖いからではありません。怒りと呆れからです。
こんな状況で女子を放っておいて立ち去るなんて、男としてどうなんですの?
こちらはか弱いお嬢様なのよ?もし、不埒な生徒に出会ったらどうするつもりですの!?ここは男子校だということをお忘れではありませんよね?品行がいい方たちばかりではないと自分たちの学校なのですから十分承知の筈!
お兄様だったら私たちを本部まで届けた後捜索に向かう筈ですわ!
それに比べて他の男と来たら!
私は風紀委員二人の行動に少し腹が立ち、がっかりしました。
私の中であの二人の株が急降下ですわ。
「・・・行きましょうか」
私がそう言うと佐治さんはハイと頷き、私と共に歩き始めました。
それにしても、行方不明の生徒はどこへ消えたのでしょうか。
「ねえ、佐治さん。行方不明の生徒はどこへ行ったと思う?」
「どこへですか?そうですね。普通に迷子になっているとしか考えられません」
「でも確か今回の交流会は、前回の交流会の時に迷子が続出したので行動範囲を絞ったって言っていましたわ」
迷子にならないように各クラブに2名ずつ風紀委員を配備して、何か会った時に対処すると計画書に書いてありましたわ。それに黎明の風紀委員は皆優秀だと聞いたことがあります。そんな彼らの目を欺き、普通の女子生徒が迷子になることなどありえるのでしょうか。
ハ・・・!もしかしたら・・・!
「もしかしたら・・・迷子じゃなくて、誘拐事件だとすれば?念入りに計画されて、風紀委員にも協力者というか仲間がいて、女子生徒を誘拐したとしたら?どう思います?」
「・・・あの会長。セキュリティ万全な黎明でわざわざ誘拐する必要が分かりません。狙うなら黎明に来るまでの移動時を狙うと思いますが・・・というか会長。もしかしてミステリーが好きですか?」
「ええ。推理とか好きですわ」
「とりあえず、ここは風紀委員の方たちに任せましょう」
地図を広げ、今いる所を確認しながら本部へ向かう途中、こそこそと人目を気にする不審な輩を発見したのです。
「あの方、凄く怪しいですわ。もしかして行方不明の生徒をさらった人物かもしれませんわ」
「た、確かに怪しいですけど・・・さっきの考え捨て去っていなかったんですね・・・」
呆れ顔の佐治さんに目配せし、不審な男子生徒の後を付ける事にしたのです。
人気のない廊下をこそこそと数メートル前を歩く男に気付かれないように歩き後をつける。地図を確認すると、今いるのは北棟という校舎らしく、普段使われていないようです。通り過ぎる教室には机どころか何も置かれていないのです。
男は相変わらず周りや後ろを確認しながら歩き続けます。
どこまで行くのかしら。この先には特に何もなく、地図には備品倉庫と書かれている部屋があるだけ。
備品倉庫?いかにもな所ですわね。もしかしたらそこに行方不明の女子生徒がいるのでは?
まさかと思いつつ、男の後を追いました。
そして男が備品倉庫の扉に手を掛けた時でした。
「きゃあっ!」
後ろから佐治さんの悲鳴が聞こえ、何かがどさりと床に落ちた音がしたのです。
慌てて振り向くと、そこには一人の男子生徒がいました。黎明の制服を着崩し、指や腕には装飾品が目立ちます。綺麗な顔をしているのですが(もちろんお兄様には敵いませんけど)、目つきが悪く眉間にしわが寄っているので台無しです。
足下を見ると佐治さんが倒れていました。
「何者!?」
「見られたからは仕方がねえな・・・大人しくしてもらおうか?」
男が手を伸ばし、私に掴みかかろうとしました。
こんなクソ野郎に捕まる位なら死んだ方がマシですわ!と一瞬思いましたが、その次に浮かんだ光景が私の行動を鈍らせたのです。
もし私が誘拐犯に捕まったらお兄様が助けに来てくれるのでは!?
ああ!頭の中にその光景が浮かぶわ!
暗い倉庫に閉じ込められている私。一人寂しく誰かの助けを待っております。
するとその時、倉庫のドアが開き、血相を変えたお兄様が入って来たのです。
額には汗が浮かび、私の顔を見て表情が柔らかくなるお兄様。
『助けに来たぞ千尋』
『お兄様!』
―――抱き合う二人。お兄様は優しく私の頭を撫でてくれます。
『怪我は無いか?』
『ありませんわ。でもとても怖かった』
『俺がついている。もう大丈夫だ』
『はい!あの、お兄様?』
『ん?』
『今日怖くて眠れそうにありませんの。一緒に寝て下さらない?』
『千尋は甘えん坊さんだな。いいよ。今日は一緒に寝ようか』
『大好きお兄様!』
と妄想しているため大人しくなった私を見て男は、
「ほう、賢いなあんた。安心しな。危害は加えねえから。おい!桑原!」
と誰かの名前を叫ぶと、備品倉庫からがっしりとしたがたいの良い男子生徒が現れました。
お兄様と一緒の布団に寝られるなら、ここは大人しく捕まっておきましょう。
「この二人も中にいれてやんな。手出しはするなよ?まあ、興味ないだろうけど」
興味ないとはどういう事ですの!?仮にも貴方がたは思春期真っ只中の男子高校生でしょう?
桑原という男は指示されると、佐治さんを肩に俵を担ぐように持ち上げたのです。
どういう運び方をしておりますの!?普通はお姫様抱っこでしょう!?女性を乱暴に扱わないで欲しいですわ!
私は前を歩かされ、備品倉庫へと足を進めました。
備品倉庫は少し埃っぽくその名の通り、授業で使う辞書や地球儀。なぜか飛び箱や平均台など、様々な備品が置かれていました。倉庫は結構な広さがあり、教室二つ分位あります。そこに黎明の制服を着た男子生徒が十人位でだらけていました。そして私と佐治さんが後をつけていた生徒もいます。
「あれ?柏木さん。そいつらは?」
「てめぇの後をつけていたんだよ。ったく。あれ程気をつけろっつっただろうが」
佐治さんを気絶させた男子生徒は柏木という名前らしい。頭の中で抹殺リストにいれると背中をおされ、倉庫の一番奥に進みました。
マット運動で使う白いマットの上には、一人の男子生徒が眠っていました。可愛らしい寝顔に少し緊張が緩みましたわ。
「さて、お嬢様。どこのクラブに入ってんだ?」
柏木が私の前に座ると顎を上に向かされ、質問してきたのです。
お兄様の足元にも及ばないけど、まあまあ綺麗な顔をしておりますわね。眉間に刻まれた皺がいい感じですわ。
「私は、どこのクラブにも所属しておりませんわ」
「何言ってんだよ。交流会にはクラブの人間しか来られねぇ筈だぜ?」
「貴方馬鹿ですのね。交流会参加メンバーにはそのクラブの他に参加する義務がある者たちがいる事を知らないんですの?大体貴方がた、交流会に参加しない生徒は寮で自宅待機の筈ですがどうしてこんな所にいらっしゃるので?まさかと思いますが、この可愛らしい少年に何かしようとしていたわけじゃありませんわよね?」
からかうように答えると柏木の顔が変わりました。次の瞬間、頬にするどい痛みが走ったのです。どうやら柏木に平手打ちされたみたいね。それと口の中が切れたのでしょう。少し血の味がします。
柏木の行動に驚いたのでしょう。倉庫内にいた男子生徒の全員が驚いた表情を浮かべているわ。
柏木をギロリと睨むと彼の顔は一瞬罪悪感に染まったが、直ぐに表情を戻しました。
一体何故?
「・・・あ・・・ちっ。これだからお嬢様って奴は・・・アンタ今自分の状況分かっているのか?」
「十分承知しておりますわ。それより貴方がたも分かっていらっしゃるの?」
「どう言う事だ」
「風紀委員が動いているのよ?見つかるのも時間の問題ね」
「風紀委員?一体何の事だ?」
「何って・・・貴方がたが誘拐犯なんでしょう?だからアジトを知ってしまった私たちを・・・・!」
あら?
私は今自分が言った事に疑問を感じました。そして倉庫内を見回した。
この部屋にはいないのです。行方不明になった生徒が。
我が麗鈴女学園の女子生徒の姿が。
「貴方がたはここで一体何をしているのですか!?」
「・・・見ての通り。たむろってんだよ」
「たむろ・・・つまりここは貴方がたはサボっていた場所がばれて私たちに口封じさせようとしただけですの!?」
「・・・わかってんじゃねぇか」
私が一人で叫ぶと柏木が眉を顰めた。
「そうだったのですね・・・では私の見当違いという奴ですわね」
「どう言う事だ?」
「と言う事は犯人が他にいると言う事ですわね」
「犯人??」
これで犯人が捕まると思っていたけれど、全くの勘違いでしたわ。怪しい人間は他に見かけなかったし、行方不明の子はどこにいるの?ただ本当に迷子になっているだけでしょうか。
考えていても無駄ですわね。
それよりも、お兄様と一緒のベッドで寝る夢が潰えました・・・空しいですわ。
「はぁーあああああぁ~・・・柏木」
「・・・すっげー溜め息だな・・・何で呼び捨て?」
「私にはやらねばならない事がありますの」
「はぁ?何言ってんだよ。解いたらアンタらチクりに行くだろ」
「何でそんな面倒な事をしなくてはいけませんの?私は行方不明の生徒を探しに行かなくてはならないのですわ」
「さっきから何なんだ?」
「・・・交流会が終わる頃、携帯に連絡があったのですわ。女子生徒が行方不明だと。まあ、一緒のいた風紀委員の二人は私たちをおいてさっさと捜索に向かいましたが」
「行方不明?ってか、おいおい。風紀委員を連れて歩くだなんて、アンタもしかして麗鈴の生徒会・・・」
「中等部生徒会会長の鳳千千尋ですわ。私と一緒にいた子は書記の佐治さんよ。そんなことより、貴方がたの手をかりたいのですが」
「はあ?何で俺らが」
「行方不明の生徒を探しに行くからに決まっているでしょう?そのかわり、この場所のことを黙っていると言ったらどうします?」
「・・・交換条件ってやつか?でもよ。そんな事をして俺らに何のメリットがあるんだ?アンタらを脅して黙らせる事も出来るんだぜ?」
柏木は余裕そうな笑みを浮かべた。
これは私が試されているのかしら?
「貴方がたは私の話を聞いていらっしゃらなかったんですの?私は中等部生徒会会長よ。その会長がいつまでたっても戻って来ないとしたら風紀委員が動き、ここの場所は直ぐにわかるでしょうね?それに、さっきここに来る途中。本部に直ぐ戻るって連絡しておりましたのをすっかり忘れておりましたわ」
勿論嘘ですわ。連絡する時間なんてありませんでしたし。
私はどうする?と柏木に訊ねました。
「・・・ちっ・・・仕方ねぇ」
柏木は舌打ちをして他の男子生徒に指示しました。男子生徒達は頷いて備品倉庫から出ていきました。
そういえば、と疑問に思った事を聞いてみました。
「この少年は一体誰ですの?」
「ん?ああ、俺の友人だ。ちょっと訳ありでな」
「そうですの。では起こさない方がいいかしら?」
「そうしてくれると助かる」
柏木の表情が柔らかくなったのを私が見逃す筈がありません。柏木はこの少年が好きなんだと気付きました。
「その・・・殴って悪かったな。口の中平気か?」
「殴られておりませんわ。平手打ちされたのです。少し切りましたが、平気ですわ。放っておけばその内治るでしょうし。それに私がきっと貴方のカンに障る事を言ったのでしょ?こちらこそ謝りますわ。申し訳ございません」
「何か・・・外見と中身が違うなアンタ」
良く言われますわ。
私はその場に地図を広げ、柏木と行方不明の生徒について話し合いました。
人気のない所や絶対に見つからない所。柏木が教えてくれましたが、今いちピンときませんの。
「おい」
「私は『おい』ではありませんわ。ちゃんと鳳千千尋という立派な名前がありましてよ?」
「・・・鳳千?鳳千・・・どこかで・・・」
柏木が何か考え始めましたわ。柏木の襟には青色に白い線が二本入った校章がつけられています。ということは柏木は高等部の生徒。そしてお兄様も高等部の生徒ですわ。名字でお兄様の血縁者だとバレるかもしれません!それはそれで面倒ですわ!
話題を逸らさなくては!
「柏木!」
「うわ!何だよ急に人の名前叫ぶな!」
「・・・下の名前は何ですの?」
「光一だが・・・」
「ではこれから光一と呼びますわね」
「はぁ?何で出会ったばかりのアンタに名前呼びされなきゃいけねぇんだよ」
光一は恥ずかしいみたいですわ。顔が真っ赤。
ふふふ、楽しいですわぁ。
「いけませんの?それに私。貴方とはうまくやっていけそうな気がしますの。あ、告白ではありませんわよ?」
「こっ!?あ、あったりめぇだ!」
「そんなことより、光一。ええと、茶道部の会場はどこでしたっけ?」
「だから名前で呼ぶな・・・茶道部は茶室で決まっていんだろうが。茶室はええと、ここだ」
光一は東棟の一階を指差しました。一階には茶室と華道部が使う普段は空き教室の部屋と、準備室や備品室が二部屋。何故備品室が二つあるんですの?
「・・・この準備室と言うのは何がありますの?」
「そこは茶道部が使っているみたいだぜ」
「ではその横にある備品室は?」
「あー?・・・茶道部の使わない物があるって聞いたけど」
「じゃあ、もう一つの備品室は?」
「・・・・・・同じ様なもんじゃねえか?普段全く使われていないみたいだけどな」
「使われていない?」
「もっぱら物置と化してるぜ。普段使う道具は茶室か準備室に置いてあるから、備品室なんぞ使わねぇって言ってたな。ていうかさ、その行方不明になった女子生徒って茶道部の奴か?」
「・・・ええ。中等部二年の高須千寿さんです」
「高須・・・?たかす・・・」
光一がまた考え始めましたわ。すると何かを思い出したみたいで携帯を取り出し、どこかにかけ始めました。
「おい山口!高須って確か二年にいたよな?知ってる奴はいるか?・・・ああ・・・何!?本当か?・・・わかった!サンキュ!」
光一は電話が切ると着メロがなった。メールのようで、光一が携帯を操作し、私に画面を見せてきた。
そこには茶髪に人の良さそうな顔をした男子生徒がいた。なんでしょう。思いっきり撫でたくなりますわ。
「高須拓真ってやつが高等部の二年にいる。そいつには妹が一人いるらしいんだが、去年両親が離婚して離れ離れになったみたいだ。で、その高須拓真だがこいつも今行方不明みたいだぜ?寮からこつ然と姿が消えたそうだ」
「は?」
つまり、兄弟そろって行方不明だということ!?
もしかして誘拐された?もしかして身代金が目当て?
でも誘拐するなら一人で足りる筈。二人も誘拐する必要は無いわ。
それにこの黎明学園はセキュリティが完璧な筈。外からの侵入など、普通の人間には無理よ。我が鳳千家に仕える『影』の者ならともかく、普通の人間には。
「本当にどこに行ったのかしら・・・」
11/22 修正