第5話:魔王
叩き、斬り、壊す。
敵には人形兵が多かった。ここアモーラは治安がいい。冒険者としてくる荒くれ者どもは魔術師殺しのDが始末してるので、質のいい冒険者しか残ってないからだ。
(やるせないね)
そんな冒険者たちが傀儡になっておりその後の復帰が不可能なものと考え憂鬱になるクロードだが、決して手は止めず先へと進む。
しばらく進むと、ふと前方から声がかかる。
「おー、お前さんもこっちへ来たのか」
気さくな形で確かB級冒険者クラン閃風のリーダーだったかの剣士がこちらに振り向くと手を挙げる。
クロードはあえて普通の対応を取る。
「あぁ、流石にこの状況じゃ戦えるやつは出た方がいいだろ? あんたたちも解決に向かってるんだろ、流石閃風だ」
「よせやい、冒険者としてこの街に住ませてもらってるんだ。治安の維持は義務みたいなもんだろ」
そうか。と呟きクロードは言葉を続ける。
「じゃあ、後ろから俺を不意打ちしようとしてるあんたのお仲間さんの行動も治安維持の一環か?」
言い終わるや否や鉄底のブーツで後ろ回し蹴りをし、背後から袈裟斬りしようとしていた閃風のナンバー2の腕をへし折る。そして痛みに呻く相手を足で踏みつぶし振り返る。
途端に構えだす閃風の面々。
「お粗末なんだよ。俺の裏知ってるのはそもそも生きてねぇ。大抵のやつらは俺のことを非戦闘員とみるさ」
特に外から来た冒険者たちはな。そう独り言ちコンバットナイフを仕舞うと拳を構える。
(こいつら会話が出来た、となると魅了か)
厄介だな。と思っていると相手も刀を抜きじりじりにじり寄りながら話を続ける。
「悪いな。これも城主様の命令だ。魔王の寵愛を受けた者は特に見逃すな、とな」
「ハッ、寵愛? アレがか? いじめの間違いだろ」
軽口を叩きながら情報を整理する。やはりおかしい。ノエルより幼い魔人が起こすには被害がでかすぎる。大体、人形やチャームなんて非道魔術どこで学ぶってんだ。この街程度の正常な魔術学院じゃ決して習わない。そして城主、主である魔王を指す言葉だ。となるとこれは幼い魔人を拐そうとする外部から来た――
「なにボサッとしてんだ、よ!」
「おっと」
相手の鋭い剣筋を悠々と交わしながら心の中で嘆息する。
(魅了を解く魔術なんざ結構魔力を食うんだが……くそッ、閃風は剣士の集まりだったか。手加減は苦手だが)
前方三名の剣士集団、そのリーダーにまずは肉薄する。腹部にまとわりつくように腰を低め脇に手を配し踏み込んだ震脚の衝撃を全て手中に収めてそれを放つ。
『心打』
師匠から教わった内臓へ響かせる打法を脇腹に打ち込む。たまらず刀を落とす隙だらけの閃風リーダーに頸動脈を軽く締め気絶させそっと寝かせる。
「時間がねぇんだ。てめぇら程度、まとめてかかってこい」
魅了にかかっていても自意識は基本存在しているためか噴気をまとわせ迫ってくる残りの二人。それは自然と一心も宿っておらず荒々しい大ぶりな一撃になる。
(魅了魔術の欠点だよな、篤すぎる信仰心と直情気味になるのは)
一歩引いてそれを躱すと振り切った二人の顔が前へ突っ張ったためそこへフックする。そして怯んでる隙にそれぞれの握り手に向かい鉄棒を突き刺し、痛みに刀を落としたのを確認しつつ一人ずつ丁寧に意識を落とさせる。
「悪く思うなよ。急いでるんでな」
そう呟きその先へ進む。遠くで金髪碧眼の少年が息を切らせつつも追いかけているのには気づけぬまま。
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(光が濃くなってきたな)
ノエルの言っていた館の外壁に辿り着くころ魔力を行使するための魔力光があたりをダイヤモンドダストのように煌めいているのを確認できるようになってきた。その中心である正門には。
「師匠!」
「クロか……よかった」
相対する銀髪赤眼の魔王の証を持つ燕尾服を着た成人男性へ目を逸らすことなく、同じく流れる銀髪を汗で張り付けながら赤いルビーのような瞳をした美女、この街の「鉛と雨の魔王」は仄かに安堵の笑みをこぼしながら敵対していた。
「フッ、増援と思えば無魔の青年ですか。場違いにもほどがある」
相対する魔王を警戒しつつ師匠の下へ寄って尋ねる。
「師匠、なんたってあんたがこんなに苦戦してるんだよ」
「無茶云うな。慣れない術式の緩和と背後に庇護対象があるのだぞ? 私だけでは防戦しか出来ん」
「ってことは」
「あぁ、館の者は被害者だ。こやつめ、お前のとこにいる似非執事の方に先に行けばいいものを」
「おっと私を除け者にしないで貰おうか」
敵対する魔王は軽く腕を振るうと常人ではあり得ぬ速度で魔術式を編み魔術を放つ。咄嗟で対応できないクロードに変わり鉛と雨の魔王が防御術式を張る。ただの防御術式ではない、空間を歪曲させ別の場所に物体を移す。鉛と雨の魔王の極めた魔法の一つ空間魔法だ。一斉に殺到する殺意ある魔術は相手へ方向を変えるもすぐさま霧散された。
「ふん、つまらぬ。空間魔法と聞いて少しは楽しませてくれるかと思えば、こんな児戯しか出来んとはな」
「言ってくれるね、掌握と収奪の魔王。あんたの極めた魔法だって魔王にはほとんど効かないじゃないか」
すると、くつくつ嗤った掌握と収奪の魔王は、語りだす。
「それがどうした? 魔王になれる選ばれし存在はほんの一握り。その芽は若いうちから摘めばいい。この世界の大多数は悔しいが愚民どもだ。ならば私が消費してやるのが最も価値のある行為だろう?」
「つまりそれが目的で、それがこれまでの所業というわけね。クロ、いける?」
「はい、師匠」
「無魔に何ができるというのだ! 現にお前に守ってもらってたじゃないか!」
「こいつにはね。これがあるんだよ!」
鉛と雨の魔王は膨大な魔力が必要な雑な術式を展開し放つ。
「そんな雑な術式効くものか! いや、待て。その魔法式は……!」
確かに鉛と雨の魔王は膨大で雑な魔術式を展開しその魔術を放った。緻密で精密な魔法式を編み上げているクロードに向かって。
余波で砂煙が舞う、魔力光で辺りは眩しく光り両者目が眩む。そして――
「久しぶりだな。やっぱ師匠の魔力はすげぇや」
そこには黒髪黒目ではなく金髪碧眼のクロードが立っていた。




