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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第6話 那須の鬼




 年が明けて、将軍・足利義昭が反信長の密書をあちこちへ出しまくっているらしい。破滅に向かって加速しているなと思うが、俺が動くと戦そのものがなくなってしまう。義昭をボコるのは我慢することにした。

 今後の戦を考えると、現在京で那須家が抱えている兵は二十数名。鷹司たかつかさ家の警護としては十分だが、戦となれば戦力不足だ。そこで俺は下野しもつけの父に文を送った。


 資晴から文が届いた。

 内容は「京で戦働きをしたい者を、各武家や農民(足軽、荷駄)から募って送ってほしい」というものだった。目標は武士百名、足軽百名。何と難しい注文を出す。

 だが追伸に「武器装備はこちらで支給する」とあり、資晴の部屋の半畳の床下に砂金の袋を隠してあると書いてあった。金のことゆえ儂が直接確認すると、半畳ほどの床下から約百匁の砂金袋が二十袋も出てきた。少なく見積もっても百六十石、兵を送るには十分すぎる銭だ。

 しかし、どうやってこれほどの金を……。考えるのはよそう。あ奴は昔から不思議なところがある。やはり、ご先祖様の生まれ変わりかもしれん。

 翌日から重臣を呼び、砂金の件を除いた文を見せて早速行動に移した。田植えが終わってから出立することとし、各家でくすぶっている若者を発掘する。結果、武士は予定より多い百二十名、足軽や人足は六十名と目標より少なかったが、「無理強いはするな」と伝えてあったので良しとした。

 資晴に「五月前には京へ着く」と返信を出すと、十五日ほどで再び文がきた。

「感謝する。銭は家のためにすべて使い切ってくれ。心配せずともまだ隠してあるから、足りない時は言ってくれ」

 銭で悩むと判断が鈍る。有り難いが……やはり、考えるだけ無駄だと思い、儂は文を閉じた。


 一月末から二月にかけて、佐和山城の磯野員昌いそのかずまさを調略したとの知らせが入った。剛の者と期待していただけに、戦えないのは残念だ。

 四月中頃、父から正確な人数と出立日の知らせが届いた。タイミングを北伊勢の戦に合わせるため、尾張を目指し、そこから北伊勢へ向かうよう父に指示を出し、現地合流することにした。

 五月初め、無事に尾張で合流。各自に装備を支給し、慰労の宴を兼ねて一日休んだ後、北伊勢の長嶋を目指した。各班に旗を持たせ、織田軍に合流。俺たちは織田家臣団の末席、太田口の柴田勝家隊の配下として働くことになった。

 今回は負け戦で撤退することになるはずだ。この戦のために、良い弓職人を紹介してもらい、新調しておいた。

 柴田様が声をかけてくる。

「今与一殿、弓での活躍、頼むぞ」

「はっ。近江で働けなかった分、ここで働かせてもらいます」

 俺が告げると、柴田様は「儂もそう思うぞ」とニカッと笑った。


 そして戦が始まった。

 一揆勢の百姓や武士、雑賀衆に対し、まずは弓と鉄砲による遠距離攻撃の応酬だ。視界に入る弓兵や鉄砲隊を次々と射抜いていく。百本の矢はあっという間になくなり、次を補充させる。半刻も経つ頃には、こちらに届く敵の攻撃は止んでいた。

 敵の鉄砲隊は、先の石山本願寺戦でかなりの負傷者が出ているはずだ。復帰していても完治はしていまい。

 俺は柴田隊の氏家卜全うじいえぼくぜん様に場所の移動を願い出た。より的が見える場所へ陣を移し、さらに四半刻ほど射ち続けると、敵の攻撃が完全に止んだ。

 一揆勢は堅固な砦に籠もり、出てこない。信長公が撤退を決めることは分かっていた。俺は氏家様に「大田川沿いの狭隘路で待ち伏せされる可能性がある」と指摘し、単独行動の許しをもらった。

 俺と部下三名は、気配の多い場所を目指して駆け出した。当然、三名は俺の速度についてこれず、置いてけぼりだ。

 潜伏している敵の弓隊や鉄砲隊に麻痺攻撃を仕掛け、次々と切り込んでいく。あっという間に五十人ほどを討ち取り、接近戦に弱い者たちをなぎ倒した。全員を無力化し、次の拠点へ向かう。

 敵も油断していたらしく、麻痺攻撃と横からの奇襲で大半が負傷、あるいは斃れた。待ち伏せ部隊を撃破し、敵のゲリラ戦法を逆に利用して壊滅させたのだ。

 一揆軍は伏兵による援護を失った。槍や刀で仕掛けてきても、もはや柴田隊が揺らぐはずもなく、なぎ払うように退けた。

 氏家隊の殿しんがりが近づいてきたので合流。警戒を緩めず大田川沿いを抜け、撤退を完了させた。那須家の面々は無傷で生還し、遅れた三名とも合流できた。氏家様もご存命だし、柴田様も旗指物を奪われずに済んだ。

「どんな方法で待ち伏せを倒したのだ?」

 氏家様に聞かれ、俺は「弓使いの弱点は私が一番知っています。弓や鉄砲を撃てなくしておきました」と答え、本隊との合流を急いだ。


 撤退後、俺たちは京に向かった。

 郊外の寺に、武士たちのための長屋を新築して与えた。数名の武士に管理を任せ、遠征部隊の指揮を執った大関の家臣ら代表三名を連れて、完成した鷹司邸へと向かう。

「出迎えご苦労。負け戦で逃げ帰ってきたが、幸い全員無傷だ」

 大家である鷹司様に帰還の挨拶を済ませ、新居に入ると、お春の出迎えを受けた。これでやっと一休みできる。


 夏が近づき、これといった役目のない俺は、有志十二名を引き連れて近隣の山賊狩りを行っている。寺に留守番をしている連中は、空き地を開墾して畑にし、食料の確保に励んでいる。

 大和屋利平に銭を払い、山賊の勢力を調べさせて簡単な地図を作らせた。これを元に作戦を立て、戦利品は大和屋が買い取る手はずだ。

 俺たちは躊躇なく矢を放ち、接近部隊が突撃する。今回のかしらは手配書の回っている奴だ。三十名ほどの山賊のうち半数は俺の矢の的となり、頭は生け捕りに、残る数名以外は討ち果たした。

 規模の大きな山賊だったため、財宝も豊富だった。

 一番厄介なのは、囚われていた女たちだ。行く当てがある者はいいが、多くは近隣から攫われてきた者たちで、砦から解放しても「皆についていく」と言う。とりあえず寺で二百人分の飯炊きなどの仕事をさせ、様子を見ることにした。落ち着けば身の振り方も決まるだろう。


 近隣から山賊がいなくなり、治安が目に見えて良くなってきた。

 だが最近、別の山賊砦に何者かが入り込んでいる気配を感じる。俺は一人で一番大きな砦に潜入した。

 中からは子供の声や女性、そして多数の成人男性の気配がする。観察した結果……甲賀か伊賀の乱波らっぱ透波すっぱ、忍びの類だと分かった。いずれにせよ、盗賊まがいの集団である可能性が高い。

 俺はその場を離れ、あえて正面の道から堂々と中へ向かった。

 男が俺に気づき、警戒の合図を出す。即座に全体が緊張に包まれ、ぴりぴりとした殺気が伝わってくる。

「お前たちは何者だ。ここは数ヶ月前まで山賊の砦だったはずだが、新しい山賊か、それとも別の何かか?」

 俺が尋ねると、奥から声が響いた。

「お前こそ何者だ。こんな所に一人で来て、死ぬのが怖くないのか」

「俺か? ここの山賊を倒した者だ。俺に刃向かうなら、前の山賊と同じ運命を辿ることになるぞ」

 脅しをかけて反応を待つと、中から動揺した声が漏れた。

「やばい……噂の『那須の鬼』だ」

「俺たちは何もしていない! 頭に言われて京に新しい拠点を作っているだけで、盗賊行為はしていない!」

 リーダーらしき男が出てきた。

「甲賀、ともの配下で、物見と透波の者です。夜盗や荒事をやる乱波ではありません」

「ほう、そんな大事な話をぺらぺらと話していいのか?」

「……嘘がバレると殺されると思いましたので」

「どこまで俺のことを知っている?」

「桁違いに強い。狙われると必ず死ぬ。妖術で人を操る……」

「ははは! 噂話というのは当てにならんな。近いが少し違うぞ。俺は人間だ、物の怪ではない」

 俺は少し笑って続けた。

「お前たちがこの地区の治安を乱さないのであれば、見逃そう。それと……金を払えば特定の情報を買えるのか? いや、お前たちを雇えるか?」

「頭に聞いて、了解が得られれば。その時は頭が直接出向きます」

「分かった。よろしく頼む」

 俺はそう言い残し、砦を後にした。


本作に登場する鷹司家について:

史実では鷹司家は1546年から1579年まで中絶していましたが、本作では物語の展開上、**「史実よりも早く二条家より養子を迎え、既に再興されている」**という独自設定を採用しております。ご了承いただけますと幸いです。

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