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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第5話 京に根を張る




 雑賀衆の射手が減り、ようやく形勢が変わってきた。

 俺の弓での活躍が織田信長の耳に入り、直々に呼び出しを受けた。褒美に何が欲しいかと問われ、俺は「鳥が食べたいです」と答えた。あまりに無欲な、あるいは的外れな返答に、信長公は少し呆れた様子だった。

「貴様は何を望む……不思議な男よ」

 重ねての問いに、俺は正直な胸の内をさらけ出した。

まつりごとは性に合いませぬ。戦、特に戦いそのものが好きです。目の前の敵をぶっ飛ばす。これが一番の望みです」

「ふん、鬼武者か。嫌いではない、励め」

 信長公はそう言い、短く笑って去っていった。


 翌日、約束通りきじが十羽ほど届けられた。

 俺は油を用意させ、料理人にやり方を伝えて「塩唐揚げ」を作らせることにした。寺の境内に香ばしい匂いが立ち込め、揚げ上がりを今か今かと待っていると、背後に鋭い気配を感じた。

 振り返ると、そこに信長公が立っていた。

「殿、一緒に雉の唐揚げはいかがですか。熱いうちが旨いですよ」

 俺がニカッと笑いかけると、信長公は「許す」と一言。皿に乗せて差し出すと、「む、美味」と呟き、かなりの量を平らげて満足げに去っていった。

 残った唐揚げを周りの連中と分け合い、久々の味に大満足してその日を終えた。


 俺の働きもあって、戦況は膠着状態に入っていた。

 この停滞の原因は、石山本願寺の顕如にある。あやつが少し大人しくなれば、洗脳された門徒たちも無駄死にせずに済む。そう考えた俺は、夜陰に乗じて本願寺へ潜入した。

 屋敷内で警護の者を捕らえ、顕如の寝所を案内させる。途中で上役らしき男に見つかったが、逆にその男に「服従の術」をかけて黙らせ、案内を引き継がせた。

 寝所の警護に襖を開けさせ、眠っている顕如の頭の中に「恐ろしい夢」を見せる術を施す。枕元に書付を残し、部屋を後にした。

 さらに、案内させた男に下間頼廉、頼旦、頼竜の各部屋を指し示させ、一人ずつ音も立てずに仕留めてから、その場を立ち去った。


 その後、本能寺に大関高増一行が到着した。

 父からの文を読み、高増から詳しい話を聞く。早速、信長公へ面会の取次を頼むと、翌日の午の刻に会見が決まった。

 翌日、高増を伴って信長公の御前へ出向いた。天下人を前に、高増は相当緊張しているようだ。会見は、信長公が「……であるか」と決め台詞を口にして、あっさりと幕を閉じた。

 側用人から、近くに屋敷を用意して待機するようにと言われた。適当な場所がないか尋ねると、二軒紹介された。

 一つは、公家の家で敷地は広いが酷く荒れている所。もう一つは、狭いが手入れの行き届いた空き家だ。公家の家は二条家に縁があるらしく、今後増えるであろう家臣たちのことを考え、俺は「広さ」を優先してこちらを選んだ。大田原家や大関家の家老格のために、近くの狭い家も確保しておく。

 改修が終わるまでは仮住まいだ。


 翌日、五摂家の一つである鷹司たかつかさ家を訪ねて事情を話し、家を借りる相談を進めた。

 話には聞いていたが、屋敷の荒れようは想像を絶するほど酷いものだった。差し当たって手付の金子を払うことにする。

 数十人の武者連れで向かったため、最初は借金取りと勘違いされて大騒ぎになったが、こちらの身なりを見て武家と分かると、話はすんなりと進んだ。


 午の刻を過ぎた頃、ガラの悪い連中がやってきて恫喝を始めた。

「鷹司の旦那様、ご機嫌はよろしいようで。私共商人も慈善事業ではございません。キッチリお返し下さい。……大切なものを売り飛ばしてでもな」

「そんな……娘は売り物ではありません!」

 不穏な空気だ。俺は割って入った。

「こら、町人が勝手に上がり込むな。外へ出ろ」

「おらぁ、小僧! しばかれたいのか!」

 凄んでくる無礼者を、俺は門の外まで転がるように投げ飛ばした。それを見た周囲の連中が静まり返る。

「そこの商人、お前は何者だ。真っ当な商売人ではあるまい」

「……手前は本願寺出入りの商人、大和屋利平でございます」

 俺は威圧を加えながら「服従の術」を使い、問い詰めた。

「借金の元金と利子はいくらだ」

「五貫……利子が月五貫で……」

「ほう、月十割か。年利ならともかく、月利でそれは高すぎる。普通に戻せ」

「へい、そうします……。ただ、寺から『娘を連れてこい』と言われておりまして……」

「寺には俺が話を付けてやる。これからは真っ当な商売をしろ。付き合いも寺ではなく俺にしろ」

「分かりました。そうさせていただきます。……何かありましたら、この者を置いていきますので、何なりと言いつけてください」

 利平は、先ほど投げ飛ばされた男を指さした。

「これは手間賃だ。金二匁もんめある、取っておけ」

「へい! ありがとうございます。旦那様のお名前は……?」

「那須資晴だ。よろしくな」

「あの『今与一』様でしたか! これは失礼いたしました!」


 一連のやり取りを見ていた鷹司様が、目を丸くして言った。

「あんた、とんでもない男だね。あのやくざ商人を手なずけるなんて、猛獣使いかい?」

「いやぁ、力で来る相手は得意なもので」

 俺は笑って受け流した。

「さて、話を戻しましょう。これが手付です」

 金五匁を渡し、東側から新しい屋敷を建てていく相談をした。大工の紹介状をもらい、こちらで手配することにする。工事の間は少し狭いが別宅に移ってもらうよう提案し、了承を得た。

 俺は例の手下に案内させ、「娘を連れてこい」と指図した寺の坊主を呼び出した。「優しく」お話をしてやると、坊主は震え上がり、

「……悟りの境地に至りました。仏様に感謝を述べて参ります」

 と言って寺の中に消えていった。


 数日後、父から文が届いた。

 我らは元々京から流れてきた子孫だ。京の地でも血を絶やさぬよう、嫁の「お春」をそちらへ向かわせる、という内容だった。いざとなれば従弟もいるし、血縁の大田原、大関もいる。心配はしていない。

 屋敷が完成していないのは難点だが、どうにかなるだろう。


 程なくしてお春が京に到着した。

 女らしく成長したお春と久しぶりに顔を合わせる。

「殿、手柄を立てられたこと、大変誇りに思います。おめでとうございます」

 畏まって挨拶をされ、「殿」などと呼ばれるのは少し面映ゆかったが、しっかりと言葉を返した。

 信長公には、お春を伴って挨拶に行く旨を伝えてある。

「私のような者がお会いできるのですか?」

「俺に妻がいることを伝えておかないと、また別の女子おなごを勧められそうだからな」

 そう答えると、お春は少し頬を緩めた。


 新居となる予定の鷹司邸を案内し、家族を紹介して、その日は宴を催した。

 鷹司様は毎朝現場に足を運び、熱心に監督をされている。基本は武家の別邸と本宅を兼ね、我らが防犯を担う形だ。鷹司様への用件は俺たちが取り次ぎ、お出かけの際には警護として同行する。裏庭は少し狭くなったが、塀を補強し、堅牢な造りに仕上げた。


 そんな折、信長公から連絡が入った。来年は近江へ参戦するとのことだ。

 戦をすることに異論はないが、責任や地位が増えるにつれ、体よりも精神が削られていく。

(……御免被りたいものだな)

 そんなもやもやとした思いを、俺は心の片隅に抱え続けていた。


#本作では物語の構成上、『史実よりも数年早く養子縁組が行われ、鷹司家が再興された』という独自の設定で進めさせていただいております。

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