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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第4話 今与一




 京の宿に戻り、昼間の出来事を留守番の者たちに話して聞かせた。

「若は運が向いていますよ! 織田様は会いたくてもそう気軽に会えるお方ではありません。ましてや向こうから声をかけてきたということは、若に関心を持たれた証拠。しかも明日は将軍様と織田様の前で弓を披露するだなんて、まさに千載一遇の好機ですぞ。那須家の明るい未来が見えてきましたな!」

 綱清が、いつになく饒舌に語る。俺は「気負わず、普段の練習どおり平常心でやるよ」と返し、明日に備えて奥の部屋で休むことにした。

 家老代理や綱清は、俺の運の強さに心を躍らせている。これまでどこか不信感を抱いていた千本家にとっても、那須家への向き合い方を変える良いきっかけになったかもしれない。


 翌日。将軍との面会のため、俺たちは早めに二条御所へ到着した。献上品を事前に搬入し、うまの刻を待つ。

 やがて、織田信長が近衛前久、二条晴良、山科言継、吉田兼見といった錚々たる顔ぶれと共に御所へ入場していった。信長は俺を見つけると、「今日は励めよ」と一言だけ残して奥へ消えた。


 将軍・足利義昭との面談が終わり、余興の時間がやってきた。俺のような若輩者は、権力者からすれば娯楽の道具に過ぎないのだろう。

 広い庭に二つの的が用意された。側近の和田惟政殿との弓比べだ。三本ずつ放って優劣を決めるという。的までの距離は短く、俺にとっては遊びのようなものだ。

 先に放った和田殿は、三本とも見事に命中させた。次は俺の番だ。

 間を置かず、一気に三本を放つ。一本目が的に刺さり、二本目がその矢尻を割り、三本目がさらにその中へと食い込む。まるで一本の長い矢が刺さっているかのような光景に、庭が静まりかえった。

「お見事! さすがは『今与一』だ!」

 屋敷内から歓声が上がる。和田殿からも賞賛の言葉をいただいたが、俺は「的が近かったので、まぐれですよ」と謙遜しておいた。

「ほう、では遠くの的ならばどうだ?」

 そう問われた時、空にとびの姿が見えた。「あれなら難しいですね」と答えながら、俺は弓を強く引き、指先に魔力を込めて空へ放った。

 数秒後、鳶が真っ逆さまに落ちてくる。

「おおっ……!」

 今度は、どよめきに近い歓声が上がった。

 それを見ていた義昭公が、身を乗り出して言った。

「そちは剣も得意と聞く。この老人と立ち合ってみよ」

 相手は木刀を携えた老武芸者だった。「上泉信綱、まいる」と名乗られ、背筋が凍った。剣聖かよ……。

「那須資晴、参ります」

 俺は名乗りを上げ、にじり寄って間合いに入った瞬間、襲いくる鋭い一撃を紙一重でかわし、木刀を相手の首筋に寸止めした。

「……参りました」

 信綱殿が引き下がった。その瞬間、彼は再び木刀を振り抜いてきた。俺は反射的にそれを受け、今度は喉元を突きで制した。

「今度こそ、本当に参りました」

 彼は笑って木刀を収めた。ドッと大きな歓声が湧く。

「那須殿、そなたは誰に剣を習ったのだ?」

「奥州から流れてきた老武芸者です。義経公の子孫という佐藤義秀と名乗っておりました」

 そんな嘘を平然とつき、その場を切り抜けた。

 身支度を整え、義昭公から褒美にいただいた短刀を帯に差して御所を辞する。門の前には信長の側近が待機しており、「明日、本能寺へ来い」と伝言を授かった。


 宿に戻り、俺は同行している全員に交代で自由時間を与え、金子を支給した。

「土産を買うもよし、自分のために使うもよし、貯えるもよし。自由にしてくれ。京を堪能してほしい」

 二十六名全員に直接手渡すと、裕福な家の者であっても一様に喜んでいた。


 翌日。予定の四半刻前に本能寺へ到着した。土産に地元の干し椎茸と、砂金の袋を献上する。

 広間に案内され、中央に座す信長に深々と頭を下げた。信長は相変わらず単刀直入だった。

「直臣にする。儂に仕えよ」

「ははっ、ありがたき幸せ。しかしながら、元服は済ませたとはいえまだ父の承諾が必要にございます。今しばらくお待ちください。私はこのまま京に残り、供の者を国元へ走らせます」

「相分かった。許す」

 お付きの者から連絡があるまで待機せよと言われ、俺は宿を本能寺へ移した。供回りだけを残し、綱清たちは至急、国元へと帰ることになった。


 国元で文を受け取った父・資胤は仰天したが、即断した。

「儂は隠居する。本日をもって家督を資晴に譲る!」

 天下の織田家の直臣になれば、関東の勢力図は塗り替えられる。父は内外へ文を発し、大関高増を俺の元へ派遣した。


 一方、京周辺では石山本願寺との争いが激化していた。

 信長から呼び出しがかかり、俺は二十名の小隊を率いて参戦することになった。指令は「膠着している箇所をなんとかしろ」という無茶振りだ。

 与えられた兵は、足軽に毛が生えた程度の戦力。俺は彼らを雑用と待機に回し、一人で戦場を見下ろした。

 総大将の佐久間信盛、そして見知った顔である細川藤孝殿や和田惟政殿に挨拶を済ませ、戦機を待つ。


 いよいよ動き出す時が来た。

 俺は敵の指揮官を次々と狙撃していく。足軽たちには矢の補充、周囲の警備、そして飯の用意を命じておいた。四半刻ほど撃ち続け、約三百本の矢を消費。その全てを敵に命中させた。

 かなりの数を削ったが、敵も守りを固めて姿を隠してしまった。

「ふぅ、まずは飯にしよう」

 兵たちを交代で食わせ、俺は和田惟政殿の元を訪ねた。

「敵が見えなくなったので、視界の良い地区に移動したいのですが」

「……して、何名ほど倒したのだ?」

「指揮役を五名、負傷者は三百といったところでしょうか」

 簡潔に答えると、和田殿は最初「法螺だろう」という顔をしたが、後ろに控える足軽たちの真剣な頷きを見て、俺の言葉を信じたようだ。

「分かった。少し待て、すぐに連絡する」

「あと、追加の矢を三百本お願いします」

 そう言い残し、持ち場に戻った。


 一刻(約二時間)後。今度は雑賀孫一の軍勢に対処することになった。

 俺は約三町(約三百三十メートル)離れた見晴らしの良い場所に、即席のやぐらを組ませた。丸太で弾除けを作り、その隙間から鉄砲隊を狙う。

 敵からすれば絶好の的だろうが、俺はこっそり魔法のシールドを展開しているので、弾丸が体に触れることはない。

 櫓が完成するや、俺は大量の矢を番えて次々と射抜いていった。場所がばれて集中砲火を浴びるが、狙撃してきた者から順に黙らせていく。

 四半刻で五百本を消費し、さらに追加を要求した。

 半刻ほど続けた頃だろうか。ようやく鉄砲の音が止んだ。

 林の奥から鋭い視線を感じたので、そちらへ強めの一矢を放つ。……気配が消えた。

 まだ矢の届かない場所に視線を感じるが、これ以上の深追いは危険だ。

 俺は攻撃を終え、ゆっくりと休息を取ることにした。


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