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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第3話 京への道




 京への旅路は、六月に出立することに決まった。

 人員は大田原綱清を中心に、大関、福原、芦野、千本の各家から馬廻りや近習、家老、側近が八名。警護の武士はあえて五名と少なく絞り、そこに足軽と馬方、人足を加えて十二名。俺本人を含めて、総勢二十六名の旅団となった。


 行程はまず、結城の義父へ挨拶に伺い、そこから中山道を進む。碓氷峠を越えて木曽、尾張、美濃、近江を経て京へ入るという定番のルートだ。人員を絞ったのは、馬による高速移動を重視したためである。

 護衛の武士が少ないことを周囲は不安がっていたが、俺の護衛など必要ない。いざとなれば俺が全員守ってやるさ、と心の中で不敵に笑う。


 二日目、結城の義父に挨拶を済ませた。春姫からの文や近況を伝え、土産を渡して京へ向かう。義父からは娘のことに加え、「北条家の動向をよく見ておいた方がよい」と助言を受けた。この時期の北条は飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大し、両上杉家を圧迫している。その勢いを肌で感じてこい、ということだろう。


 難所である碓氷峠を越え、ようやく一息ついた。

 一行に体調を崩す者もおらず、まずは一安心だ。木曽から尾張へと足を進める途中、俺の感覚が鋭い殺気を捉えた。前方の森に無法者が待ち構えている。

 俺は家老たちを呼び寄せ、静かに指示を飛ばした。

「前方の森に、我らより少し数が多い山賊がいるようだ。武力はこちらが勝っているが、足軽や馬方の護衛に戦力を割いてくれ。遠くの弓使いは私が仕留める。賊が近づいたら皆に任せるが、くれぐれも一対一にはなるなよ」


 近くで聞いていた大田原綱清が、目を丸くして問い返してきた。

「若、それは誠にございますか?」

「感じるのだ。間違いはない。無理をしなければ、誰も死なせずに済む。私が保証しよう」

 自信を漲らせて断言すると、綱清は短くため息をつき、喉を潤すように水を飲んだ。


 しばらく進むと、意外に近い距離に弓を構えた賊の姿が見えた。

 俺は即座に弓を取り、電光石火の早業で三本の矢を放つ。先制攻撃で敵の射手三名が脱落。不意を突かれた山賊たちは隊列も何もなく、ただ怒号を上げながら雪崩れ込んできた。

 俺はさらに三本の矢を同時に放つという曲芸じみた技を三回繰り返し、九名の足を射抜いて戦線を離脱させる。さらに大将らしき男へ致命の一矢を浴びせると、男はうつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなった。

 残った強そうな者たちの戦力を次々と削っていく。最後に雪崩れ込んできた十名に対しては、馬から飛び降り、勇者時代の加速スキルを彷彿とさせる速度で肉薄した。先鋒の三名を一文字に斬り、続く三名を逆袈裟に斬り捨てる。残る賊は、気圧されたところを家臣たちが仕留めた。


 拘束した軽傷者の身柄を確保し、全員の無事を確認する。

「綱清、遠くでこちらを監視している者がいる。捕らえた連中から依頼主を吐かせろ。話さないようなら私が直接聞く」

 しばらくして、綱清が険しい顔で戻ってきた。

「若、賊の話では、かしらが素性の知れぬ者と密談していたのを見たそうです。金をもらっての依頼だったと。相手が子供で、護衛の半分は足軽や人足ゆえ容易い仕事だ、金もたんまり持っているはずだ、と……そう申しております」

「なるほどな。こちらの戦力を見誤ったのか、あるいは実力を測るための試しか。謎だな。皆はどう感じる?」

 俺の問いに、家老が苦渋の表情で答える。

「どちらも考えられますが……。見誤ってくれたのであれば気が楽ですが、そうでないとなると厄介ですな」

「「「如何にも……」」」

 周囲の者たちも同意の声を上げる。見知らぬ土地での時間浪費は危険だ。俺たちは怪我をした山賊を引き連れて関所へ向かい、詳細を説明して賊を引き渡すと、宿泊先の寺へと急いだ。


 寺では綱清の縁者が待機しており、翌日からの予定を協議し始めた。細かい調整は彼らに任せ、俺は先に休むことにした。ただ一点、甲賀や伊賀の者たちと接触できるかだけを確認し、明日の関ヶ原越えに備えて奥へと下がった。

 綱清たちは、俺の武勇を間近で見て驚愕したに違いない。これでもかなり抑えたつもりなのだが。……まあ、のちに離反する予定の千本家にとっては、良い抑止力になっただろう。


 この時期、織田信長は尾張ではなく京にいるはずだ。将軍に謁見する前に会えれば良いが、果たしてどうなるか。

「綱清殿、若の武勇は、あのように凄まじいものなのですか?」

 興奮気味に尋ねる芦野家の者に、綱清が力強く頷く。

「儂も実戦を見たのは初めてだが……。正に与一公の生まれ変わりよ。我らの未来は明るいぞ!」

 そんな中、顔色の悪い千本家の二名だけが浮いていた。綱清は彼らに一瞬疑念の目を向けたが、すぐに気を取り直し、賊討伐の戦功話に花を咲かせた。


 それから三日。関ヶ原から大津を経て、俺たちはついに京へと到着した。

 翌日から、父の指示通り武家官位の実務窓口である勧修寺かじゅうじ家へ挨拶に伺う。その翌日に将軍・足利義昭へ拝謁する予定だったのだが、突然「三日後」に変更された。

 空いた時間を利用し、俺は二条家への挨拶を済ませることにした。急な訪問にもかかわらず快く受け入れてくれた当主の度量に、公家としての風格を感じた。


 さらに翌日。堺へ足を伸ばして買い物を楽しみ、京の宿へ戻る途中のことだった。

 ただならぬ気配を感じて目を向けると、一画の警備が異常なまでに厳重になっていた。ある大店の中から、圧倒的な覇気を放つ男が現れた。

 こちらは護衛以外ほぼ丸腰の状態だったが、俺はじっとその男を観察した。すると男は、鋭い眼光と共にその覇気を俺へとぶつけてきた。


 俺は異国人のように少し肩をすくめ、両の手のひらを上に向けるしぐさでその威圧を受け流した。横の警護の者は怯え、武者震いで固まっている。

「弥四郎、しっかりしろ!」

 俺が喝を入れると、彼は我に返って俺を見た。俺が不敵に笑っていたせいか、少し落ち着きを取り戻したようだ。

 すると、「小僧、こちらへ参れ」という声がした。向こうの供回りが早足で近づいてくる。

「殿がお呼びだ。至急、こちらへ」


 男は大店の中へ戻っていった。供の者の話では、あの男こそ織田上総介(信長)だという。二人の供を連れる許可をもらい、俺は店の中へ足を踏み入れた。

 奥の座敷に通され、俺は深々と頭を下げる。

「下野より参りました、那須資胤の嫡男、那須資晴にございます。お見知りおきを」

 静寂が流れた。

「……織田三郎である」

 信長は短く名乗ると、さらに問いを重ねた。

「貴様の祖は、与一公か?」

「如何にも。父の代で二十代を数えます」

 側近が信長の耳元で、俺に関する情報を囁いている。

「貴様、尾張の関で賊を討伐したと聞いた。弓の名手とも。……ぜひ見たいものだ。明日、京の寺へ来い」

「上総介様、申し訳ございませぬ。明日はうまの刻に将軍様との拝謁がございます」

 俺が答えると、信長は豪快に笑った。

「相分かった。ならば将軍と共に会おうぞ!」

 そう言い残すと、彼はどかどかと音を立てて座敷を去っていった。

 俺たちは明日の騒動を予感しながら、消耗した矢を補充するために宿へと戻った。


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