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戦場の葬送曲  作者: 曇空 鈍縒


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4/6

深夜

 深夜になっても、シャーナの任務は終わらない。

 暗視装置を取りつけたスコープに、雪に閉ざされた軍事施設が緑の濃淡で映っている。

 つい数時間前までは青空が見えていた空も、今は黒に染まっていて、冷たい風がシャーナの肌を突き刺していた。

 身じろぎ一つしないシャーナの背中に、うっすらと雪が積もっていく。

「こちらシャーナ。異常なし。オーバー」

「了解。オーバー」

 もう何度目になるかも分からない定時連絡を終え、シャーナはマイクをポケットに戻す。

 雪の混じった冷たい風が、シャーナの頬を殴った。

 吹雪いてきたな。

 シャーナはかじかんだ手を軽く動かして、問題なく引き金が引ける程度までほぐす。

 基地は灯火管制が敷かれているのか真っ暗で、一見すれば歩哨の姿すら見えない。

 だがシャーナのスコープには、建物の屋上や物陰で身を潜める兵士がしっかりと映っていた。彼らは微動だにせず警戒を続けている。

 こちらは先ほど士官を出迎えた儀仗隊とは違い、戦闘訓練を受けた精鋭部隊のようだ。

 小さなエンジン音が、冷えて赤くなったシャーナの耳を打つ。

 辺りが静かなせいで、その音は妙なほどに響いた。

 音の方に顔を向けると、暗闇に閉ざされた森の中を無灯火の雪上車が走っていた。

 雪上車は開けっ放しのゲートから基地の中へ入ると、駐機場の真ん中あたりで停車してエンジンを止める。

 辺りは、再び静寂に包まれた。

 身体に擬装を施して身を隠していた兵士達が、自動小銃を構えて雪上車へと近づいていく。

 荷台のドアが開き、スーツ姿の太った男性が現れた。シャーナはスコープの倍率を上げて男の顔に目を凝らす。

 辺りに一片の光も無いせいで、暗視装置を使ってもその顔はよく見えない。

 だが、男の後ろには4名ほどのボディーガードが付いているので、彼が何らかの要人であることは間違いなさそうだ。

 だが顔が見えない事には、それが対象A-3かどうかは判別できない。

 太った男性は何やら文句を付けているようで、ザルカ帝国軍の兵士は謝っていた。

 彼らは、そのまま中央の建物に入っていく。

 彼女はスコープの倍率を限界まで上げて、ドアから漏れた明かりに浮かび上がる男性の顔を確認した。

 シャーナは目を見開く。

 直後にドアが閉まり、後には暗闇に隠れる敵兵だけが残された。

「こちらシャーナ。対象A-3を確認。繰り返す。A‐3を確認。中央の施設に入った。オーバー」

 シャーナは、興奮を隠しきれない声でそう報告した。

 寒さと緊張で、頬が紅潮している。

「了解、オーバー。これより指示を出す。時刻0122ちょうどに敵対空レーダーを無力化し、可能な限り敵兵を射殺して0127までに現場を離脱せよ。オーバー」

 敵対空レーダーの無力化は、シャーナにとってそこまで難しい任務ではない。

 それに、シャーナのいる場所は基地から1㎞近く離れているので、位置が露呈するような事態はまずないだろう。

「了解。オーバー」

 彼女は無線連絡を終えると、狙撃銃の照準を対空レーダーの送電ケーブルに合わせた。

 腕の無骨な軍用時計を確認すると時刻はまだ0115で、射撃開始まで7分ほどの余裕がある。

 かつてないほど重要な局面にはやる気持ちを抑えたシャーナは、赤い瞳で冷徹にスコープを睨んだ。


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