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戦場の葬送曲  作者: 曇空 鈍縒


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30/33

前夜

 深夜ということもあってか、あたりに人気はない。

 24時間体制で動き続ける物流は地下を通っているし、騒がしい店なんかも地下商店街にあるから、寝静まった都市は想像以上に静かだった。

 シャーナたちは、公園を兼ねる広い歩道を小走りで行く。

 街路灯の明かりが、草木を幻想的に照らしていた。

「戦闘前なのに思慮不足だったね。ごめん」

 ガーランはシャーナに謝った。

「いや。私に好意を持ってくれたことは嬉しい」

 2人はかなりの速度で走っていたが、息は全く上がっていない。

 それどころか、普通に会話を交わす余裕すらあった。

「そういえば、もしこの作戦が上手く行ったら、ガーランはどうするつもりだ?」

「俺? 俺は普通に定年まで軍に勤めるよ。その時に特務機関が無かったとしたら、一般部隊に行くさ。シャーナはどうするの?」

 ガーランは、聞き返した。

「私は、」

 シャーナは、自分に返ってくることを想像していなかったのか、少し口ごもる。

「特に決めていない。今まで、ずっとザルカ帝国への復讐心だけでここまで来たから」

 わずかな黙が流れる。

「そっか」

 ガーランは、短く返事をした。

 長い無言が鳴り響く。

 2人はオフィスビルに入り玄関ホールを通り抜けて、エレベーターに乗り込んだ。

 ガーランが地下駐車場の階に行くボタンを押すと、それは淡いオレンジに点灯して、エレベーターのドアはすぐに閉まる。

 地下駐車場は、深夜だというのに多くの車が出入りしていた。

 ただ、昼間多かった乗用車は、ほとんどトラックに変わっている。

 シャーナたちは、轢かれないように気をつけながら、自分たちのバンへと近づく。

 すでにライツは運転席に座っていて、エンジンがかかっていた。

 あとはシャーナたちが乗り込んだら、すぐに出発できる状態だ。

「急いで」

 サリアの声で、シャーナたちは走り出した。

 2人がバンに乗り込むと同時に、ドアが自動で閉まり、バンは発進した。

「途中でサービスエリアに寄るから、そこで戦闘服に着替えてください。ついでにそこで飯も食います」

 4車線もある広々とした地下道路を、ガーランがアクセルを踏み込んで走っている。

「どうして急に?」

 シャーナが、シートベルトを付けながら質問した。

「ようやく作戦の詳細情報が開示されたんだ。今すぐに首都近郊の公園に向かわないといけない」

 ザルノフが、かなりざっくりと説明した。

「なぜ?」

 シャーナは、より詳細な説明を求める。

「ついさっき本部から連絡が来たんだよ。今夜中にAPMC社部隊が首都近郊の公園を制圧するから、俺らはそこに待機しているヘリに乗り込めとのことだ」

 ザルノフは、一息に説明した。

 その公園は首都から少し離れた場所にあり、着替えなども含めて今すぐ出発しなければ間に合わないそうだ。

 特務機関本部も、ちょうどギリギリ間に合うタイミングを狙って、メールを送信したのだろう。

 いや、そうに違いない。

「イヴァンも性格の悪いことを」

「機密保持のためですから。仕方ないといえば仕方ないのでしょうね」

 ザルノフがついた悪態に、ライツはイヴァンを擁護しつつも同意した。

 渋滞に巻き込まれたらとか考えなかったのかと言いたいが、交通状況はカヤなどの工作員がリアルタイムで監視しているから、問題ないのだろう。

「無茶無謀も特務機関の仕事ですよ」

 ザルノフは自分が過去にした発言を、そっくりそのままライツによって返された。

 言葉遊びの腕は、ライツの方が上手だ。

「給料に見合ってねぇな」

 ザルノフはため息をつく。

「給料のためだけにやっていたら、とっくに辞めているでしょう?」

 特務機関の仕事は危険だ。アトラ連邦に対して強い愛着を持っていない限り、給料が高くても、普通はやろうと思わないだろう。

「いや、俺は給料のためだけにやっているよ。そもそも出身は別の大陸で、アトラ連邦とは何の関係もないしな」

 ライツが、驚いたように眉を上げた。

「そうなんですか、珍しいですね」

「確かに、アトラ連邦人以外の特務機関員は少数派だ。俺みたいなAPMC社上がりの戦闘員も、特務機関に入っているのはほとんどアトラ連邦人だしな」

 あくまでアトラ連邦のために命を懸ける機関なので、当たり前かもしれない。

「では、なぜザルノフさんが?」

 ライツは、少し興味があるような感じで聞いた。

「それはもちろん高い給料を提示されたからだよ。アトラ連邦内で言えば普通より高い程度だが、俺の祖国では大金だ。やっぱり子供たちにはいい学校出て欲しい」

 ザルノフは、懐かしむような微笑を浮かべた。

 彼に家族がいるという事実に全員が驚いたが、あからさまに驚くのも失礼だと思って表情に出す者はいなかった。

「ザルノフ、家族いたの?」

 サリアがそう聞く。

「ああ、息子が4人と娘が2人、それに妻が1人。もう何年も会ってないけどな。たまに電話をしたり手紙を出す程度だ」

 妻が一人って当たり前だろとシャーナは突っ込みそうになったが、一部の大陸では一夫多妻制が当たり前の物として存在していることを思い出して、止めた。

「大家族ですね」

「ああ。だが俺の国では少ない方だ。医療体制がアトラ連邦ほど整っていない分、児童死亡率が高いからな」

 車内に、沈黙が降りた。

「ご家族には会えそうですか?」

 ガーランが、そう聞いた。

「ああ。そろそろ子供全員を学校に出してやれるだけの金が貯まるんだ。そうしたら国に帰るさ。一番上のガキは覚えているだろうが、一番下は3歳だったからな。もう俺のことは忘れているかもな」

 車内に、沈黙が流れる。

「生還してあげてください」

「分かっている。俺はそう簡単に死なねぇよ」

 シャーナの言葉に、ザルノフはいつも通り豪快に笑った。

 夜は、静かに更けていく。


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